FFI編 第十章
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彼女は円堂大介に纏わるすべてを知るために、コトアールエリアでコトアール代表の選手たちの手伝いをしながら情報を集めていた。円堂大介が生きているという情報を得てからしばらく、もうかなりの真実を知ってしまった。だがまだこれを円堂に伝える気はない。それが最良だと考えているからだ。
彼女はパソコンのキーを叩きながら今まで知りえたことを纏めていく。今は語らなくとも真実を告げる日は近い。真剣な表情で目の前の課題に取り組む。そんな彼女に唐突に声が掛かった。
「ナツミ」
彼女、雷門夏未は顔を上げる。自分に声を掛けたのはコトアールの選手だった。スカイブルーの髪にバンダナが特徴の選手。ウィンディ・ファスタ。
「どうしたの? ウィンディ。私に何か用かしら」
「ああ、今少し時間を貰えるか?」
いったいなんだろう。夏未はパソコンを閉じてウィンディを見つめる。いつになく真面目な表情。ウィンディは夏未に余程重要な用事があるに違いない。
「ええ、構わないわ」
「ありがとう。……単刀直入に聞くが、ナツミはジャパニーズだったな」
「そうよ」
首を縦に振って夏未はウィンディの問いかけを肯定する。日本の文化について知りたいのか、それともイナズマジャパンについて? ウィンディは自分のスピードには自信がある選手だから。イナズマジャパンの足の速い選手のことでも知りたいのかしら。夏未はそんなことを考える。だが彼女の予想は大きく外れた。
「イナズマジャパンのマネージャー、カオリのことを知っているか?」
「え?」
夏未は思わず声を漏らす。カオリ、その名前を聞いて記憶の中で淑やかに微笑む黒髪の少女の姿が過った。彼の言うカオリ、とは月島花織のことだろうか。夏未はふっと顔を顰める。ウィンディと月島さんは知り合いなのかしら。
「月島花織さんのこと? もちろん知っているけれど、それがどうかして?」
それを聞いて一瞬ウィンディの表情が綻んだ。だがすぐにキリっとした表情をして夏未を見つめる。夏未はそのウィンディの目に思い当たるものがあった。花織とは特別仲が良かったわけではないが、彼女の傍にいれば嫌というほど感じた。彼女を恋い慕う瞳の色。
「ナツミ。何でもいい、カオリのことを教えてくれ。知ってること全て」
ウィンディの表情はいつになく真剣だった。サッカーをしているとき、走っているときよりも格段に。
「月島さんと知り合いなの? ウィンディ」
そう問いかけながらも夏未はウィンディの心中を察する。きっとあの少女に魅了されたのだと。チームメイトでもそんな人は少なくはなかった。何かきっかけがあって、彼女の魅力に触れてしまったのだ。
「ああ、デートに誘う約束をした」
「で、デート?」
想像の範疇を越えた言葉に夏未はきょとんとしてしまう。ウィンディは知らないのだろうか。月島花織には心に決めた人がいることを。いや、それよりも花織が告げていないのだろうか。彼女の性格からして自分の彼氏のことを黙っているはずはないと思うのだが。
「ウィンディ、その残念だけど月島さんにはボーイフレンドがいるわ」
長い髪を耳に掛けながら、おずおずと夏未が彼に告げる。ウィンディがその事実を知らないのであれば少々残酷な宣告になってしまうかもしれないと思いながら。
「知っている。カゼマルとかいう、カオリに相応しくない優男だ」
だがウィンディは驚くではなく、ぐっと眉間に皺をよせ忌々しいという表情を見せる。夏未は思わず自分の表情が引き攣るのを感じていた。
月島さん、貴女と言う人は。またとんでもない火種を抱えてしまっているのね。
「だからあの男からカオリを奪う。そのためにはまず情報が必要だ。だからどんな些細なことでもいい、ナツミ教えてくれ」
バン、と机を叩いてウィンディが夏未に詰め寄る。真に迫った表情だ。普段コトアールの選手たちの中では花織の恋人に似て、相談役の立場にいるウィンディがここまで勢い任せになっていることに夏未はタジタジになりながら苦笑を漏らした。
「ず、随分と入れ込んでいるのね。彼女に」
「当たり前だろ」
にやりとウィンディが笑う。そして少し得意そうに右手を胸に当て、自分を指さした。さらりと彼の長い髪、風丸一郎太によく似た青い髪が靡く。
「カオリは俺の運命の人なんだから」