FFI編 第十章
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アメリカとの試合を終えて、いよいよ予選リーグの試合はイタリア、オルフェウスとの一戦を残すのみとなった。アルゼンチン戦で惜しくもイナズマジャパンは敗れてしまったから、ここは決勝トーナメントに進出するためにも勝って勝ち点を稼ぎたいところである。
夜、花織は黙々と洗濯物を畳んでいた。胸にこみ上げる不安のような感情を押し殺すために。自主練習を禁止されているせいもあって、今自分がとてもピリピリしているのが分かった。だからなるべく一人になろうとしていた。
こうして花織が複雑な感情を抱いているのは、今日の夕食時の出来事が原因であった。同じマネージャーの冬花がマネージャーとしてめきめき成長していること、それはチームにとってとても喜ばしいことのはずなのに、なぜか花織は素直にそれを喜べないでいた。
冬花は今日、ニンジンが食べられない綱海のために特製のゼリーを作り、彼の栄養が偏らないようにと工夫をしていた。また練習中のドリンクには個々に合わせた工夫を凝らしていた。それは花織も素直に感心したし、彼女の発想を凄いと思った。
でも同時に、悔しいとも感じていた。
”ドリンクといい、ゼリーといい一人前のマネージャーになろうと一生懸命だな”
優しい笑顔で風丸が冬花にそう言葉を掛けていた。それを見たとき、思わず花織は目を逸らしてしまった。自分の想い人が他の女性を褒めているところなんて見たくなかった。
そんな小さなことで花織は酷く複雑な気持ちになっている。彼女は元々嫉妬深い性格だと自覚していた。風丸に褒められるようなことができる冬花を羨ましいと思ったし、風丸にはそんな言葉を掛けないでほしいと思った。心はとても我儘だ。
花織は黙々とタオルと畳む。畳みながら色々なことを考える。風丸が冬花を好きになってしまったらどうしよう、だとか愛想をつかされてしまったらどうしようと。
最近は花織の不安を煽るものばかりが彼女の周りに存在している。それはイナズマジャパンを特集する雑誌だったり、彼宛に届くファンレターだったり、買い出しの時に聞いてしまう日本代表への憧れの話題。いやでも風丸を慕う声を聴いてしまう。
花織はタオルを畳み終えて立ち上がる。浴室へタオルをせっせと運んだ。ふと誰もいないと思っていた食堂から声が聞こえて花織はちらと何気なく食堂を覗き込む。
「……」
中にいたのは風丸と冬花だった。会話の内容は良く聞こえないが、楽しそうにふたりで何やらを話している。ズン、と心の中に重しが落ちてきたような気持ちになる。選手とマネージャーが話をしているくらい、当たり前のことだと分かっているのに。自分だって選手と語らうことなどいくらでもあるのだから。
風丸が照れくさそうに頭を掻いて冬花と談笑している。ほんのりと頬を染めてはにかんで。そんな風丸を花織は見ていることが耐えられなくなって急ぎ足でタオルを運んだ。タオルが入った籠を持つ手は震えている。
話をしているのが秋か春奈だったら、ここまで複雑な感情にはならないのだろう。でも彼と話をしていたのは今日彼が褒めた、そして彼と幼馴染である可能性のある冬花で。
心が狭すぎると分かっている。でも他の子にあんな顔しないでほしい。我儘だって分かってるけど。
「花織」
考え込んでいた花織に声が掛かる。花織はそれに気が付かなかった。目の前のその人物の前を深く考え込んだまま通り過ぎようとする。その人物はとん、と花織の肩を叩いた。
「花織!」
ハッとして花織はようやく声の主を振り返る。特徴的なゴーグルをつけた少年が目の前に立っていた。鬼道だ。鬼道は心配そうに花織の顔を覗き込んでいる。
「浮かない顔をしているが、どうした?」
「あ……」
何かしらの言葉を返そうしたが、花織は口ごもる。言えない、こんな子供じみた嫉妬をしていることなんて。今鬼道は影山総帥に関することで頭が一杯だ。こんなふざけた悩みに付き合っている暇などない。
「えっと……、少し考え事を。何でもないんです」
「……そうか」
そっと鬼道が花織の肩から手を離す。花織は軽く会釈して鬼道のもとを去った。
しっかりしなければ、自分がきちんと人一倍頑張ればいいだけだ。風丸一郎太選手の彼女として相応しい女性であれるように。自主練習なんてしている暇はない。できることは全部自分がやるくらいの気持ちで取り組まなければ。