FF編 第二章
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「話って、なんですか……」
以前と同じように雷門中学の校舎裏へと来た。相変わらずここは人気が無い。花織は多少警戒の表情を浮かべながら鬼道を見据える。しかし彼の表情を見つめればちらりと彼の瞳がゴーグル越しに見え、胸が大きく高鳴った。それが不本意で花織は俯く。
「お前にこれを返そうと思ってな」
「あ……」
鬼道は一冊の赤い手帳を取り出して花織に見せた。花織は思わず声を上げる、それは間違いなく花織が失くしたはずの手帳だった。彼がまた会ったときに返すと言っていた代物である。
「ありがとうございます。わざわざ……」
花織が手帳を受け取ろうと前に歩み出た。しかし鬼道は花織に手帳を渡そうとはしない。彼は口元にフッと笑みを浮かべ、ひらひらと顔の前に翳した手帳を振る。
「お前は練習熱心なんだな。自らでメニューを作り、実行するとは」
「中を見たんですか……!」
見ないとわからないだろう? とさも当たり前のように返事を返す鬼道に花織の表情は凍りついた。この手帳は花織にとって半ば日記の様なものであったから、あの中には少々恥ずかしいことも書いてあった。
主に鬼道に対しての想いや自分の練習課題についてなどだ。花織はどうしようもなく恥ずかしさが内から込み上げ唇を噛む。この際手帳はもういい、中を改められたのなら彼が持っていても別にどうということは無い。今はとにかく、彼から手帳の中身に対して問われることが怖かった。一刻も早くベンチへと戻ろうと花織は顔をあげる。
「あの……!」
その途端、強い力で花織の腕は引き寄せられた。あまりのことに頭が真っ白になる、そこは鬼道の腕の中だった。何か言わなければ、そう思うが予想以上に近い彼の顔に花織は混乱するばかりで口から何も言葉は出てこない。
「あ……」
「……近々、雷門サッカー部にスパイを派遣する。帝国のことを思うなら黙っていてくれるな?」
耳元で吐息と共に囁かれた言葉は花織の頭の中をショートさせるには十分だった。ただ頷くばかりで会話の損得など全く考えることなどできなかった。どうして彼はこんなことをするのだろうか、わけがわからない。ただわかるのは自分が早く解放して貰わねばと思いつつも、この状況を酷く心地よく感じていることだけだった。
「それと……」
花織の背に当てられていた鬼道の右手が花織の髪を撫でる。口から心臓が飛び出るのではないかというほど花織の胸は大きく跳ね、頬は熱を帯びた。
「短い髪もよく似合っている。……俺は前の方が好みだったが」
「そんな冗談……、んっ」
有無を言わさぬというように言葉を塞がれた。何が起こったか分かった時にはすでに時遅く、彼女の髪を触っていたはずの鬼道の右手はしっかりと花織の後頭部をしっかりと押さえつけ、花織は鬼道の成すがままにされていた。
「んん……」
何度も何度も深く口づけられて花織の目には薄く涙が滲んだ。甘く痺れるような感覚が身体を支配する。酸素の足りなさに花織が小さく口を開けば、鬼道の舌が花織の口腔内へと滑り込み、好き勝手に彼女の中を蹂躙した。
風丸にはこんなふうにされたことは無い。淫猥に舌を絡めさせられながら、花織は息を継げずに涙を流す。脱力し、花織が思わず鬼道の服の胸元を握れば、鬼道は今まで重ねていた唇を離す。力がすっかり抜けきった花織がその場にしゃがみ込めば、どちらともない唾液がぷつりと切れた。
「はぁ、はぁ……っ」
鬼道は指で口元を拭うと荒く呼吸を繰り返す花織の頭を撫でる。そして花織の膝元に手帳を置き、何も言わずにその場を立ち去った。花織はただ呆然と唇へと手を当てる。変わらず胸は大きく脈打っていたが、彼女を支配しているのは冷たい罪悪感がほとんどだった。
一郎太くんという人がいながら……。花織の中には風丸に対しての罪悪感だけだ。先ほどの鬼道との行為には自己嫌悪を起こすほどに不快感や嫌悪感が全くない。それが風丸に対するこれ以上ないほど背徳的な思考だった。
「ごめんなさい……、一郎太くん」
花織の口から零れた言葉はあまりに白々しい謝罪でしかなかった。