FFI編 第九章
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迎えたアメリカとの試合は晴天に恵まれた。今日、この試合がフィールドの魔術師一之瀬一哉の最後の試合になるかもしれない、と思うと花織は複雑な気持ちになった。
あれから一之瀬とは一度も話すことは無く、土門とも数度メールのやり取りをするに限った。しかもそのメールも当たり障りのないもので、一之瀬のことについては一切触れることは無かった。
彼が決めたのであれば、私にはそれを見届けることしかできないだろう。彼の友人として。ピッチに出てきた一之瀬はまっすぐ前を見据えてこちらをちらとも見なかった。土門もいつにもなく険しい表情をしていてこの試合に掛ける意気込みが伝わってくるようだ。
花織は何も言わず、黙って選手のアップを見つめる。隣に座っている秋が複雑そうな表情をして掛けているのを見て、彼女もまた一之瀬がこの試合に掛ける思いを知っているのだと悟った。
「秋ちゃん」
「……」
声を掛けてもぼんやりと黙り込んでしまっている。一之瀬から直接聞いたわけではないのだろうか。花織は少しだけ眉を顰める。しばらくして我に返った様子の秋は作り笑いを浮かべて花織を見た。
「あ、花織ちゃん……、どうしたの?」
「浮かない顔してるから……、大丈夫かなって」
秋が思い悩むのは当たり前だ。秋は花織よりも一之瀬や土門との付き合いが長くて、さらには一之瀬の事故を目の当たりのしているのだから。秋は大丈夫だよ、と繰り返す。自分に言い聞かせるように。
イナズマジャパンとアメリカ代表ユニコーンの試合は四VS三という結果でイナズマジャパンが勝利を収めた。だがこの試合においての両チームの中でのMVPは間違いなく一之瀬一哉だっただろう。彼は全力の、魂がこもったプレーをピッチを去るその瞬間までやり遂げた。彼が途中でピッチを去った後も、彼の気迫がフィールドには残っていた。
試合後、花織は土門と共に一之瀬と対面した。かなり久しぶりの事だった。
「一之瀬くん、全然連絡くれないんだもんね」
「ごめん花織、心配かけたくなかったからさ」
彼らが雷門にいるときはかなり仲良くしていたといっても良い。特に風丸と花織が冷却期間を置いているときは特に一之瀬、土門には世話になった。だからこそこういうときに力になりたかったのにと花織は恨めし気に一之瀬を見る。
「花織、元気だった? 風丸は?」
「私は元気だよ、一郎太くんも」
風丸という名前に一瞬花織の瞳が揺らぐ。一之瀬はその一瞬を見逃さなかった。仲の良い友人だからこそ、何か感じるものがあった。おそらく花織と風丸の間にまた何か問題が生じているのだろう。
「それより一之瀬くん……」
「花織」
花織が彼の身体のことをしっかり尋ねようとするその前に、一之瀬が花織の肩を掴んだ。花織はじっと一之瀬に見据えられて口ごもる。彼は花織の瞳を覗き込んだ、変わらない芯の強い黒い瞳。
「また、浮かない目をしてるんだね。出会った時と一緒だ」
「え……?」
花織はきょとんとした顔をする。一之瀬は微笑んだ。恋に生きる人だ、この子は。でもだからこそとても真っすぐでいる。出会った頃と変わらない。
「俺は大丈夫だよ。諦めない限り、この状況がどうにかなると信じてる。だから花織も大丈夫だ」
出会った時と同じ言葉。一之瀬は目を伏せる。いったい何に悩んでいるのかは分からないが、今の一之瀬は花織とかつてのように一緒に悩むことはできない。自分で、彼らで解決しなければならないことだ。
「花織、俺は生きるよ」
一之瀬は宣言する。花織の肩からそっと手を離して左手の人差し指と中指をくっつけ敬礼のようにして振って見せる。
「生きて、キミと風丸の結婚式に参列するためにもね」
「一之瀬くんったら……」
彼の軽口に花織はほんのりと頬を染める。これだけ元気なら大丈夫だろう、一之瀬の手術はきっと成功するはずだ。そうであるようにと大切な友のためにただただ願った。