FFI編 第八章
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円堂や鬼道たち、そして監督たちもいない。そんな状況でイナズマジャパンは追い詰められていた。何とイナズマジャパンとアルゼンチン代表ジ・エンパイアの試合の日程が一日早まり、突然今日になったのだ。元々明後日、という予定だったから円堂たちは帰ってきていない。監督たちも見当たらない。絶体絶命の状況のまま時間は進み、とうとう試合開始十分前まで迫っている。
「一郎太くん」
「花織……」
ずっとスタジアムの電光掲示板の時計を睨んでいる風丸に花織が声を掛ける。風丸はずっと険しい顔をしていない。それも仕方がないだろう。円堂も鬼道もいない現状、チームを仕切っているのは風丸だ。もし本当に円堂たちが来なければキャプテン代理として試合に臨まなければならない。
「ちょっと二分だけでいいから話、しない?」
花織が風丸に問いかける。風丸が何も言わずに頷いたので、花織は風丸を連れてピッチから下がった。連絡通路まで下がって彼女は風丸の頬に手を伸ばす。
「当たり前だけど……不安、だよね。一郎太くんずっと厳しい顔してる」
チームの精神的支柱である円堂と、司令塔である鬼道がいない。そんな状況で試合に挑まねばならないということがきっと風丸の心に不安として大きくのしかかっていることだろう。風丸は俯いて絞り出すような声で呟いた。
「ああ、円堂も鬼道もいないまま時間が迫っている。このままじゃ……」
彼は手にしたキャプテンマークを握りしめる。花織はそっと風丸に抱き着いて彼の背中をさする。彼の心臓の鼓動がいつもより早く打っている。よほど緊張していることだろう。いつもの試合とは比べ物にならないくらいに。
「大丈夫、鬼道さんたちは来る。……もしもがあっても、一郎太くんがいつものプレーをすれば大丈夫」
アルゼンチンは強豪だ。それでも怯んではいけない、全力で戦わなければ勝利はつかめないだろう。花織は風丸の精神的な安定を図ろうとする。風丸はそっと花織の背中に腕を回して強く抱きしめる。
「正直不安で一杯だ。……でもやるしかないんだな」
「うん、ベンチから見てるよ。大丈夫、いつも通りなら。一郎太くんなら」
❀
予選大会を無失点で勝ち上がってきたジ・エンパイアの守備は固く前半イナズマジャパンは攻めあぐねていた。というよりも気合が入りすぎていて自分たちのサッカーができておらず、案とも攻撃がちぐはぐであった。
こうなるのも無理はない、司令塔がいないのだから。いつもは鬼道が的確な指示を出して選手をコントロールしているから、うまくかみ合っていたのが崩れてしまっていた。だが、それはヒロトに気が付き指示を出すことでチームの動きは纏まった。
だがアルゼンチンは守備力だけでなく攻撃も凄まじい威力であった。アルゼンチンのフォワードが放つ必殺技、ヘルファイアによってムゲン・ザ・ハンドが破られ、一失点。未完成の魔王・ザ・ハンドも破られてしまい二失点してしまった。
だが飛鷹の、失敗しても良いというアドバイスにより全力を出した立向居がようやく前半終了間際に魔王・ザ・ハンドを完成させた。
だがそれでも得点を返さねばならなかったイナズマジャパンはジ・エンパイアの必殺タクティクス”アンデスのありじごく”に苦しめられ上手く攻めることができずにいた。だがそれは木暮、壁山、栗松の三人のディフェンダーの活躍により突破口を見出し、豪炎寺らの新必殺技グランドファイアで一点を返した。だがここで無情にもホイッスルが鳴り、一-二でイナズマジャパンは初の敗北をすることとなった。
「一郎太くん、入るね」
その日の夜、花織は風丸の部屋の戸を叩いた。風丸は今日の試合の前半、相手の決定的チャンスを止めるためにスライディングタックルを繰り出し、それにより足を痛めていた。花織は彼の部屋の戸を開ける。風丸はベッドに足を伸ばして掛けていた。
「足は大丈夫?」
「ああ、そんなに痛みもないし大丈夫だよ」
「そう?でも早く治るようにケアしておくね」
花織は風丸の傍まで歩み寄り、彼の包帯が巻かれた右足に触れた。そっと撫でるように足に触れる。少しだけ包帯を解いて患部に触れれば、まだ腫れがあり熱感もひいてはいなかった。
「ちょっと持ち上げるよ」
花織は風丸の足元に座り、彼の右足を自分の膝の上に乗せると患部を持ってきたアイシングで冷却し始めた。
「大丈夫?」
「ああ、大丈夫だよ」
風丸は花織に微笑みかける。花織はその表情に無理をしているわけではないことを悟って足を冷やす。風丸は足を冷やし続ける花織にすまない、と小さな声で呟いた。
「俺がもっとしっかりしてたら、試合結果は違っただろうか」
「……ん?」
花織が顔を上げて風丸を見る。風丸は切なげな表情を見せて花織から顔を背けた。静かに目を伏せて言葉を続ける。
「キャプテン代理だったのに前半で怪我をして早々に抜けてしまうなんて情けないよ」
もしかしてずっと気にしていたのだろうか。花織は風丸を見つめて目を細める。そうっと風丸の足を撫でて微笑む。
「……そんなこと、ないよ」
はっきりと花織はそう言い切る。
「今日の一郎太くんはピッチに立つ選手として、やるべき役割を果たしてるよ」
あの時、風丸がアルゼンチンのフォワードを止めなければ、きっとイナズマジャパンはもう一点を失っていただろう。怪我をしてしまったのは結果論だ。医師の診察では二、三日も安静にすれば完治するだろうと言っていた。
「私は今日もカッコよかったと思うよ、一郎太くんのプレーを」
花織にとってどうあっても風丸は格好良いのだが。花織は風丸の足を撫でて心の底から今感じていることを呟く。
「怪我がこの程度で本当に良かった」
風丸が怪我をして立ち上がれなくなった時、一番取り乱していたのは花織だ。真っ先にベンチから立ち上がって風丸に駆け寄ったは良いものの、コールドスプレーも何も持ってきてはいなかった。酷く焦り、ただ風丸に対しての心配だけを持って彼に駆け寄ってきていたのを風丸は思い出す。それが風丸は内心かなり嬉しかった。
「花織……、ありがとう」
「ううん。……私は当然のことをしてるだけ」
風丸の足を撫でる手が一瞬止まる。風丸の感情とは裏腹に彼女はあの時の対応を逆に悔いていた。いくら焦っていたからと言って救急箱も何も持って行かずに怪我をした選手の元へ駆け寄るなんて。
「でも、もっと頑張るから。マネージャーとして……」
一郎太くんの彼女として、その言葉を飲み込んで花織は風丸を見つめた。風丸は前を見つめて直向きに見える彼女に微笑みかける。
「ああ。俺もこんな怪我、早く治すよ」