FF編 第二章
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花織がサッカー部のマネージャーとして慣れてきた頃、帝国学園と試合をしたあの日サッカー部を見に来ていた豪炎寺が正式にサッカー部に入部した。あれから円堂がかなり熱心に説得したらしい。それでもフィールドを駆ける豪炎寺は悩みが解消したかのようで晴れやかで楽しそうだった。
しかしそれとは対照的に豪炎寺の入部に対してどこか納得がいかないのが染岡だ。焦りを見せるその姿に花織は同情するような視線を向ける。私だって染岡くんの立場だったら嫌だもの、彼女はそう思っていた。しかし、それでも豪炎寺の入部はチームにとって喜ぶべきことだった。
そんな日々が続いていた今日、尾刈斗中サッカー部から雷門中サッカー部宛てに果たし状が届いた。あの四十年間無敗だった帝国学園にどんな形であれ、勝利したためか、あれから様々な中学校が雷門中に対して興味を抱いたらしく練習試合の申し込みが後を絶たなかった。顧問である冬海は始終面倒そうに断りをいれていたのだが、尾刈斗中からの果たし状は受けざるを得なかったそうだ。
試合は明後日、何とも奇妙な噂がある学校だから、花織としては試合しないほうが賢明だと思う。しかし、理事長の娘を名乗る女子生徒に試合に勝利しなければ廃部だ、と半ば強制的に試合を受けさせられ、今に至る。サッカー部の面々はやはりあまり乗り気だとは言えなかったが、この試合に勝てばフットボールフロンティアの出場権が与えられることが決まったため、キャプテンである円堂は乗り気であった。
「一郎太くんはどう思う? 尾刈斗中のビデオ見て」
夕焼けに包まれる帰り道、花織は彼の手を握りながら言った。風丸の不機嫌は一晩で戻ったようで、何も知らない花織としても安心していた。
「そうだな。……変なチームだと思うがまだ何とも言えないな」
「そうだよね……。でも絶対に勝とうね。勝てばフットボールフロンティアに出られるんだから」
ふたりはもちろんサッカー部に正式に所属しているわけではない。しかし花織にしても風丸にしても、やるからには徹底的に勝利に貢献しようという考えは同じだった。
「そうだな」
頼もしく笑った彼は前を向き直って力強く言った。
「絶対勝つ、それだけだ」
まるでそれが、自分が何か大切なものを守るためのすべであるかのように。
❀
試合当日。あいにくの曇り空で今にも雨が降りそうだった。しかし帝国学園戦の影響か、観客も多く辺りは賑わっていた。その光景に音無が感嘆の息を吐き、辺りを見回す。
「しかし、人多いですね」
「それだけサッカー部に関心を持ってくれている人がいるってことよ」
三人でテキパキとドリンクやタオルを準備していく。忙しい時間を過ごしていればいつの間にかキャプテンが作戦をみんなに話し、各々ストレッチをしていた。花織は一段落したところで彼らの練習に目を向ければ思わず息が漏れる。
こうしてマネージャーの仕事をしていると思うのだが彼女は、自身はマネージャーよりも選手の方が向いていると改めて実感させられていた。選手の管理というのは決して簡単なことではない。
「来たぞ、円堂!」
風丸の声を聞いて校門の方を振り返れば、尾刈斗中の選手たちがすでにグラウンドまで踏み込んできていた。花織は眉を顰める。少し、いやかなり禍々しげなオーラを漂わせているチームだった。
「噂に違わぬ雰囲気だね……」
花織が思わず呟けば秋も音無も同調するように頷いた。
「うん、全然否定できないよ」
マネージャー三人で尾刈斗中学イレブンを見て苦く笑う。何も起こらなければいいのだが、と一抹の不安を感じながら花織は試合の開始を待つべく、ベンチに腰掛けた。
❀
「わぁっ!! 花織先輩! 染岡さんが点を決めましたよ!」
音無が歓声を上げて手を叩いた。あれから数分後、雷門優勢で試合が進んでいる。順調だ、このまま進めば理事長の娘を名乗る女の子の条件をクリアできるだろう。花織も自然とこぶしを握っていた。
「このままなら、勝てるかな?」
「そうね! 勝てると思うわ。みんなー! がんばって!」
花織の問いかけに微笑んだ秋は、声を張り上げて声援を選手たちへと送る。花織はその横顔を見つめながら、このまま変なことをしてこないと良いのだけど、と胸の中に燻る不安に目を伏せた。
相手の監督はなんとなく奇妙な雰囲気を感じさせるため油断はできない。不安を紛らわせるべく、花織は救急箱を開いて中身を確認する。選手がもし怪我をするような事態になれば大変だ、花織がそう思い中を確認していれば、テーピングの不足に気が付いた。
「あれ、秋ちゃん。テーピングがあんまりないみたい」
「本当? うーん、どこかにまだ仕舞ってあるはずだけど……」
秋が困ったように首を傾げているのを見て、花織は立ち上がる。彼女もスポーツをする身、自分用のテーピングを所持していた。あれをこの中に足せばいいだろう。
「私、自分用に買ったやつがあるから今のうちに取ってくるね」
「あ、うん。ありがとう」
秋の声に見送られて花織はフィールドの端を回ってサッカー部の部室へと向かう。急がなければ試合を見逃してしまう、試合展開が掴めなくなるのは避けたかった。そう思いながら花織が駆け足で部室を目指していると、目に映った人物にその足が止まった。
見覚えのあるドレッドヘアにゴーグル。特徴的なその姿は花織の心を酷くざわつかせた。どうして彼がここにいるのだろうか……、口の端が思わず震える。表情には動揺が浮かんだ。花織がしばらく呆然と動けないでいると、鬼道は視線を感じたのか花織の方へと視線を向ける。
「お前……」
彼が言葉を漏らすとその隣に立っていた銀髪の少年がちらとこちらを見た。彼もまた見覚えがあった。帝国学園サッカー部参謀、フォワードの佐久間次郎だ。実質、ゴールキーパーの源田と並んで鬼道の右腕である。佐久間は花織と鬼道を見比べてふっとその表情に笑みを浮かべた。
「へぇ……、鬼道のお気に入りか。そういえば前回の試合にも来ていたな」
佐久間の言葉に鬼道も笑う。
「ちょうどいい。月島、お前に話がある」
「え……?」
鬼道は花織へと言葉を掛けると後についてくるように言い、歩を進め始めた。