FFI編 第七章
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厳かな親善パーティーは一転、円堂が遅れてきたことによって波乱の展開となった。ナイツオブクイーンのキャプテン、エドガーバルチナスと円堂が対決をすることになったのである。結果はエドガーの必殺技エクスカリバーを円堂が怒りの鉄槌で受け止めることができずに円堂の負け、という結果だったのだが、世界レベルを目の当たりにして皆の士気は高まったのであった。
激しい特訓を終えたその夜、花織はヒロトの部屋へと向かっていた。食堂の片づけをしている際、食堂のテーブルの上に彼の置き忘れたらしい星に関する本が置いてあったのだ。合宿内で星が好き、と言っていたのは確かヒロトであったため、とりあえず彼の元へといってみようと思ったのである。
「ヒロトさん、いる?」
彼の部屋の戸を叩きながら中にいるか分からない彼に声を掛ける。すると中で少しドタバタと音がして、そうっと扉が開いた。
「花織さん? どうかしたのかい?」
うっすらとドアを開けてヒロトが顔を覗かせる。花織はすぐさま本題に入ろうとしたのだが、ぱっとみたヒロトの目が少しだけ赤いような気がした。何も言わずに花織がヒロトを見つめていると、ヒロトは彼女の手元を見て要件を察した。
「ああ、俺の本を持ってきてくれたのか。ありがとう、花織さん」
「ヒロトさん……」
花織の手から本を取り、そのまま扉を閉めようとしたヒロトの手をきゅっと握る。普段なら、花織となら話したがりのヒロトがこんなに素っ気無く扉を閉めることがあり得なかった。花織はそんな事情はもちろん知らないが、ヒロトの様子が どことなくおかしいのは察していた。
「大丈夫?」
「どうして?」
あくまでもヒロトは白を切ろうとしている。でも花織はヒロトの手を離さずに自信なさげに呟いた。
「なんだか、その。いつもと様子が違うから。あと間違ってたら悪いんだけど……」
大きな黒い瞳がヒロトを見つめる。ヒロトはこの瞳にとても弱かった。以前から思っていたこの子の瞳は優しく真っすぐだと。だから好きになってしまったというのもある。そしてさらには。
「ヒロトさん、泣いてた?」
この子は観察眼が優れている。選手のことをよく見ている、というか。エイリア学園の時から思っていたけれども相手の心理的な面を察するのに長けている。これはこの子の恋人が一度挫折を味わって、彼女の前を去ってしまったことも原因なのかもしれない。
「私でよかったら話を聞くよ」
「……花織さん」
そっとヒロトが扉を開く。中に入れ、ということらしい。花織は躊躇わずに中に入った。ヒロトはそんな彼女を見て危機感がないと思った。
――――こんな場面、君の彼氏が見たらどう思うだろうね。
そんなことを思う自分は意地が悪いのかもしれない。そんな思いを抱くのは、本当は今の感情を誰にも悟られず、一人で抱えていたかったからかもしれないとヒロトは思う。
ヒロトは花織を部屋へ招き入れると机に備え付けられている椅子に座るように促した。ヒロトは彼女の前に一枚の封筒を差し出す。封筒の隅には小さな桜が押印されている。
「父さんが、俺に手紙をくれたんだ」
父さん、彼が指し示す父親は吉良星二郎、エイリア学園事件を引き起こした張本人だ。その吉良から彼宛に手紙が送られてきたらしい。桜の印。封筒に桜の印が押されているのは警察が検閲したというしるしの印だ。即ちこの手紙は刑務所内から送られてきたものだということを表している。
「父さんは基本的に瞳子姉さんにしか手紙を送らないんだ。向こうからの送れる手紙の数には制限があるから。……でも、俺がFFIの日本代表に選ばれて、世界大会にも進出したから」
大切そうに手紙を見つめ、ヒロトは再び手紙を手に取る。
「父さん、テレビで俺の試合を見てくれてるって。……あそこでは、俺が凄く自慢だって」
ヒロトの瞳が涙で潤む。花織は黙ってヒロトの話を聞いていた。花織はいつも落ち着いていて、大人びてすらいるヒロトがこんな風に言葉を語ってくれるのは初めてだった。いつだって、エイリア学園時代は特に、ヒロトは自分を殺していた。静かにヒロトの白い頬を涙が伝う。
「俺が自分の息子であることを誇りに思ってるって」
花織はヒロトの言葉に目を細めた。ヒロトはただひたすらに自分の言葉を続ける。
「あの事件があって、世間は父さんを悪魔のような人間だと言う」
あの事件の後、ヒロトの言う通り吉良星二郎は酷く世間にバッシングを受けた。それは吉良が、自分が起こした事件の動機を、ヒロトたちを守るために世間に公表しなかったためだ。そのせいで様々な推測が飛び交い、デマが流れた。吉良に対しての同情の声は一切なく、身勝手に子供たちである彼らに対して吉良が強いた行動を批判する声が大きかった。まさに悪魔だと言われる声を花織もあの事件直後は多く聞いた。
吉良の葛藤も何も知らない評論家たちが、報道番組やお昼のワイドショーで勝手な推測をして吉良を批判した。
「……父さんは復讐に駆られていたあの時は、確かに俺たちのことを復讐の道具としてしか、見ていなかったのかもしれない。……それでも」
ヒロトは微笑む。幸せそうに、胸には父からの手紙を大事そうに抱いて。
「俺は父さんの息子になれて幸せなんだ」
ぽろぽろと涙をこぼしながらヒロトが呟く。黙って彼の話を聞いていた花織はそっとポケットからハンカチを取り出してヒロトに差し出した。そして彼の言葉に頷いてふわりと微笑む。
「いいお父さんなんだね。ヒロトさんのお父さんは」
「うん。……小さい頃はいつも俺たちを気にかけてくれて、来るときはいつも抱えきれないくらいのおもちゃを持ってきてくれたんだ」
ヒロトは花織の手からハンカチを受け取って涙をぬぐう。そして子供のように父親を自慢するような言葉を並べる。花織は微笑んでそれを聞き続ける。ヒロトは胸に手を当てて、息をついた。
「そして何より俺に、新しい居場所と名前をくれた」
ヒロトはにこりといつものような落ち着きを取り戻して、誇らしげに、花織に告げた。
「あの人は、俺の自慢の父さんなんだ」