FFI編 第七章
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キャプテンである円堂の姿が見当たらないまま、他のメンバーは親善パーティーへと向かった。彼はちょっと出てくる、と言ったきり時間になっても合宿所へ戻ってこなかったのだ。苦渋の決断だが円堂を置いてきたのは、チーム揃って遅刻するわけにはいかなかったし、何より秋が付いているから大丈夫だろうという判断だ。
ロンドンパレスはたくさんの街灯に照らされ、中央には大きな噴水が、また白い薔薇の生け垣などがありとてもロマンティックな雰囲気であった。まるで映画のセットのようだと花織は思う。
「失礼、レディ」
花織の分の飲み物を取りに行った風丸と少し離れた際、声を掛けられて彼女は振り返る。背の高い、髪色だけは風丸によく似た英国人が立っていた。この人は確かイギリス代表のキャプテンだったはずだと花織は頭の中で考える。
「楽しんでおられますか? ……申し遅れました、私、ナイツオブクイーンのキャプテンエドガー・バルチナスです」
「はい、お招き頂きありがとうございます。私はイナズマジャパンのマネージャーの月島花織……。カオリと申します」
海外では名前はファーストネームで呼ぶことが多いからと、花織は名前を強調する。花織が自己紹介をすればエドガーは彼女を見つめて微笑む。
「とても美しいドレスですね。花のように美しい貴女によくお似合いだ」
優雅、そしてスマートにエドガーが花織を褒める。花織は左手で表情を隠し、顔を少し背けた。
「……いえ、そんな」
「カオリさん。どうでしょう、静かな所でお話でも」
お誘いの言葉に花織は微笑んで見せたが、内心少し焦っていた。相手チームのキャプテンであり、主催者に近い彼と話す事も必要だろうが、花織は正直彼と話している気分ではなかった。何となくエドガーの雰囲気が苦手なのだ。
「花織」
その時助け舟を出すように声が掛かった。そこにいたのは鬼道だった。花織は表情には出さなかったものの鬼道には彼女が安堵したような空気が伝わった。花織はエドガーを振り返って、軽く会釈をする。
「ごめんなさい、先約がありますので」
鬼道が差し出した腕に花織はそっと腕を絡める。そうしろ、と鬼道が目で言ったのが分かった。花織が断りを入れればエドガーは残念そうに微笑む。
「残念です。ではゆっくりとパーティーを楽しんでください」
それだけ言って彼は花織たちの元から去っていった。ふ、と息をついて花織は鬼道から離れる。そして鬼道を見て苦笑した。
「すみません鬼道さん、助けてくださってありがとうございます」
「構わない。……風丸はどうした?」
「飲み物を取りに行ってくれてて……」
なるほど、と鬼道は肩を竦める。その隙をつかれたわけだ。何しろ今日の彼女はいつにも増して美しい。鬼道は何も言わずに他を牽制した。先ほどから花織に対してのナイツオブクイーンのメンバーの視線も気にかかっている。
「花織」
「はい」
「今日のお前はこの会場にいる誰よりも美しい」
エドガー顔負けの誉め言葉を鬼道はさらりと口にする。花織は驚いて少しだけ頬を染めた。困ったようにはにかんで鬼道を見つめる。
「鬼道さんったら……」
「……花織、」
鬼道が二の句を継ぐ前に、彼女を呼ぶ声が響く。鬼道はそのゴーグルの奥の瞳に、明らかに今の一瞬で表情を緩めた彼女を見た。
「花織! すまない、待たせたな」
「一郎太くん」
風丸は花織に持ってきたオレンジジュースを一つ渡す。花織はそれを両手で受け取って礼を言った。鬼道は黙ってそのやり取りを見ている。何も言わずにこぶしを握り締める。
「風丸、花織が先刻声を掛けられていた。取られたくないなら傍を離れるなよ」
「鬼道。……ああ、ありがとう」
鬼道はそれだけを言ってひらりと手を振ってふたりの元を去った。彼らから距離を取って小さくため息をつく。
「鬼道クン」
「不動……」
ふいに掛けられた言葉に鬼道が不動を見た不動はニヤニヤと笑って鬼道を見ている。今の一連の流れを彼は見ていたようだ。
「好きなオンナのために身を引くのは大変だねえ」
「お前には関係ない」
素っ気無く不動の言葉を振り切ろうとする。でも彼の言葉は全く事実で。こうして風丸に花織を譲るたび、胸の奥のほうでチクリと何かが突き刺さる感覚があった。
もう手は届かないとわかっているのに。
振り返り美しい女性を見つめる。胸にあるこの感情はどんなことがあってもそよぐことすらない。ただ残酷に鬼道を苦しめ続ける。