FFI編 第七章
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盛大な開会式を終え、イナズマジャパンは二日後に控えた試合に向けて既に練習を始めていた。イナズマジャパンの初戦は二日後、イギリスのナイツオブクイーンが相手だ。目金曰く、初戦では当たりたくなかったというほどの強豪である。
試合の方式は参加チームを二ブロック、五チームずつに分けてのブロック総当たり戦だ。勝利チームは三点、負けは零点、そして引き分けは両チーム一点ずつのポイント制。試合ごとに勝ち点が加算され、最終的に両グループで点数が最も高い上位二チームが決勝トーナメントへと進出することができるようになっている。
イナズマジャパンが所属するはAブロックで、他にはイタリア代表のオルフェウス、アルゼンチン代表のジ・エンパイア、イギリス代表のナイツオブクイーン、そして一之瀬、土門も所属するアメリカ代表のユニコーンが同じブロックに属している。
今は実戦形式の練習をしていて、特に佐久間が良い動きをしている。緑川に代わって加入した彼は選考試合で見た時よりも格段にレベルアップしていた。染岡曰く、彼のプレーには仲間の想いが入っているとのことだ。
「みんな、集まってー‼」
唐突にマネージャー代表として先刻監督に呼ばれていた秋が、宿舎側のゴール裏から叫んだ。練習していた選手も花織らマネージャーもぞろぞろとそちらへ向かって集まり始める。秋は招集の理由を手短に語った。
「親善パーティー⁉」
選手一同が驚きの声を上げる。普段日常生活では聞きなれない単語だ。
「ナイツオブクイーンからの招待よ。試合をする前に親睦を深めたいから今日の午後六時、ロンドンパレスに正装して来てほしいって」
花織は首を傾げる。こういうのはお国柄だろうか。日本では中々ない文化だ。
「正装?」
「こんなネクタイ付けた、黒い服の事ですよ」
正装の意味 が分からなかったらしい綱海がぽつりとつぶやくと、彼のために立向居が手をリボンの形にしてタキシードの説明をしている。
「えーっ、あんなもん着んのかよ⁉」
そして心底嫌そうに綱海が顔を顰めた。それを宥めるように目金が眼鏡をくいくいと押し上げながら説明を始める。
「まあ、当然と言ったら当然ですね。何と言ってもジェントルマンの国なんですから」
「……というわけで、練習は早めに切り上げて時間までに準備してね」
収集が付かなくなる前に秋が言い切ってしまう。そして春奈と花織を見てニッコリと笑った。
「花織ちゃん、春奈ちゃんもね。今からイギリスエリアに行って皆のタキシードを借りに行くから行きましょ。私たちもドレスを選ばないと。冬花さんはもう支度を始めてるの」
マネージャーたちは古株さんの運転するイナズマキャラバンに乗り、イギリスエリアに向かって選手たちのタキシードを借りた。その後自分の好きなデザインのドレスを借り、現在は宿舎でドレスアップの真っ最中だ。
秋は白のアンクル丈Aラインのドレスで、左肩には淡いグリーンのリボンが装飾されているものを選んだ。髪はカチューシャ型のヘッドドレスで纏めている。
冬花は秋と同じく白いアンクル丈のAラインドレスだが、秋に比べればオフホワイトカラーのドレスであった。腰のベルトに大きな花の装飾が付いていて、また髪にもベルトと同じ花の髪飾りがつけられている。
「春奈ちゃん、ちょっとごめん。ファスナー上げてくれないかな」
花織が春奈を呼ぶ。春奈ははーいと元気よく返事をして花織に歩み寄った。春奈は桃色で膝丈のプリンセスラインのドレスで膨らんだ袖とフリルが可愛いデザインのドレスだ。背中には大きなリボンが付いていてとてもよく春奈に似合っている。
「先輩、結局この色にしたんですね」
春奈が花織の背のファスナーを上げながら言った。花織は誰よりも最後までドレスの色で悩んでいた。店員には黒髪によく似合う赤のドレスを強く押されていたのだが、どうしても彼女は選びたい色があったのだ。
花織は上げていた髪を下ろして椅子に掛ける。そして髪の毛をセットし始めながら春奈の言葉に答えた。すると春奈が良かったらやりますよ、と言って花織の髪に触れる。花織は彼女に任せることにして手を下した。
「うん。ドレスのデザインは言われるがまま冒険しちゃったから、色は自分の好きな色を選ぼうって思って」
ドレスのデザインはよくわからなかったから店員さんが勧めてくれたものを選んだ。だが色だけは彼女自身が好きなものを選んだのだ。
彼女のドレスの色は深い青色だった。シックで落ち着いた色で、彼女の雰囲気にはよく似合っている。春奈は花織の髪を纏め上げながら質問を続ける。
「決め手は何だったんですか?」
春奈が花織の髪を纏め終えて尋ねる。綺麗に髪はアップにされていた。花織は彼女の問いかけに鏡に映る春奈を見つめて真っすぐに言い切った。
「青は、一郎太くんの色だから」
恥ずかしげもなく、言い淀みもせず花織はそう言った。春奈は思わず目を丸くする。思わず春奈の方がたじろいで、なんといっていいか分からなくなってしまう。
「そ、それが理由ですか?」
「そうだよ」
花織は白い華やかな花の飾りを付けながら、微笑みすらして言う。だがその頬は若干桃色だ。
「元々青が好き、というのもあるけど……。やっぱり青なら一郎太くんの隣でも似合うかなって」
厚かましいかな、なんて不安そうに花織が笑う。春奈は今抱いている感情に既視感を感じていた。そう、秋葉名戸と試合するとき……。メイド服に着替えたときのことだ。
あの時花織はメイド服を着ていた自分に風丸が幻滅しないかを心配していた。今日はどうだ。風丸に最も相応しい色を選んだことが厚かましいかを不安げに感じている。
全くこの人は……。春奈は後輩でありながらも、この人のことを思わず呆れてしまうような可愛らしさを持っていると感じてしまう。どれだけ風丸を想っているんだか、彼女の想いはそれこそ海よりも広いのではないだろうか。厚かましいも何も、風丸の恋人は紛れもなく花織だろうに。
「花織先輩ったら……」
「ふふ、この話は一郎太くんには内緒ね」
セットしてくれてありがとう、と微笑みながら花織は白い手袋をした手を口元に当ててシィーという動作をする。そういうさり気無い仕草が今の大人びた容姿とギャップがあって魅力的なのだと思う。
「先に降りてて? すぐに行くから」
❀
風丸ら選手たちは既にタキシードに着替え終えて出入り口前に集合していた。たった今、マネージャーの秋、春奈、冬花が降りてきていて他の選手たちが褒める言葉を掛けていたところだ。綱海が余計な一言を告げて顰蹙を受けたのは内緒である。
――――花織はまだだろうか。
着飾っていつもより可愛らしい他のマネージャーたちには目もくれず、花織が出てくるのを風丸は待っていた。彼女のドレス姿はどんな感じだろう。間違いなく綺麗だということは見なくてもわかっているのだが、早く見てみたい気もしてしまってそわそわしてしまう。
だがそう思っているのは風丸だけではないようだ。
花織の姿を早く見たいと思っている人間の様子が、風丸には手に取るようにわかる。ヒロトはちらりとまた階段を一瞥したし、鬼道は春奈のドレス姿に満足そうに笑っているが階段の方にも意識を向けているようだ。
とん、とんとゆっくり階段を下りてくる音が聞こえる。風丸は待ちわびていた彼女の登場を期待して会談へ視線を向ける。彼女の姿を目に捉え、大きく目を見開いた。
綺麗、という簡単な言葉で言い表してよいのだろうか。深い青のドレスに身を包んだ彼女は中学生らしからぬ大人っぽさを帯びている。他のマネージャーは可愛い、というイメージが強かったのに対して彼女が綺麗だと思うのはドレスのデザインのせいだろうか。
オフショルダーでマーメイドラインのドレス。ミディレングスだが、左腰あたりまで深くスリットが入っていて彼女が歩くたびに美しい足が見え隠れする。彼女のスタイルの良さを引き出すようなデザインのものだ。
綺麗、という言葉がそこほこから漏れている。だが、表情すら大人びて見える彼女は他の誰も目にくれず、風丸の元へと歩み寄る。彼女の正面に立って初めて風丸は彼女がいつもよりも身長が高いことに気が付いた。おそらく少し高めのヒールを履いているのだろう。
「一郎太くん、どうかな……?」
少しだけ面映ゆそうに微笑んで花織が風丸に問いかける。そういう表情をすると年相応の少女の一面が見えてまた違う魅力が引き出される。
「花織……」
息をのむ美しさ、というのはこれかと思いながら風丸は言葉に詰まる。褒めたいがなんとほめてよいか分からなかった。ふと彼女のきらりと光った首元に目が行く。それだけは見覚えのあるものだった。
彼女の大きく開いた胸元、谷間に落ちようとしているその首飾りは間違いなく風丸が彼女にプレゼントしたものだった。それを見ると少し落ち着いて、この場においても自分のプレゼントを身に着けてくれている彼女を愛しいと感じて素直に微笑むことができた。
「綺麗だよ、花織」
「……ありがとう」
ふわっと心の底から安堵したように花織が微笑む。それはいつもの彼女の微笑みだ。風丸は自然と彼女に手を差し出した。こういう時、どんな言葉を遣えばよいのか分からなかったのだが、自然と言葉が口をついて出た。
「花織、俺にエスコートさせてくれるか?」
花織はそっと差し出された彼の手に自らの手を添える。いつも通りの変わらない、彼女が嬉しい時に見せる表情を花織は風丸に向けた。
「はい、喜んで」