FFI編 第七章
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日本を発つまであと二日、花織は吹雪と緑川の通院を手伝っていた。緑川はともかく、吹雪は松葉づえがなければ歩行ができないため、手伝いが必要なのだ。花織には世界へ行ける、その気持ちとは裏腹にこの二人を日本に残していくことを心配に感じていた。
実を言うと少しだけ悩んでいる。せめて一人でも、日本にマネージャーが残るべきではないのかと。
もちろん世界へ行きたい。風丸とも約束したのだ、世界での彼の活躍をこの目で見たいと心の底から思っている。でもチームを外れる彼らのことを考えると後ろ髪をひかれるような思いも感じている。
緑川はおひさま園に戻る、と言っていたが吹雪は合宿所にひとりきりだ。確かに他にもバックアップしてくれる大人がいないわけではない。せめてここが北海道であるならば、彼を残していくことも考えたが、ここは彼にとっては異国とも変わらない地で。そんな場所に吹雪を残していくことは同じチームメイトとして酷く心配になる。
日本代表を支えるマネージャーとして、日本に残ることも相応しい行動なのではないだろうか。花織は彼に相応しい、立派なマネージャーでありたかった。
「士郎くん、緑川くん」
病院の待合室で花織が二人を呼ぶ。診察の順番はまだ回ってきそうにない。二人は首を傾げて花織の方へと視線を向けた。
「私、日本に残ろうかなって考えてるんだ」
「え?」
緑川が声を漏らす。吹雪は何も言わずに顔を顰めた。
「どうして?」
「だって、ふたりをサポートする人が必要だもの。マネージャーは私のほかにも三人いるし、目金くんもいるんだからチームの方は任せても大丈夫だと思う。でも二人をサポートする人がいないでしょう」
花織が眉根を下げて微笑む。
「二人はチームを離れたって仲間なんだから。ここでサポートする人も必要なんじゃないかなって」
「ダメだよ」
戯言をいう花織に吹雪が厳しい口調で言い切った。花織は吹雪を見つめる。吹雪はじっと花織を見据えていた。
「花織さんが日本に残ったら、風丸くんはどうするの?」
「えっ……?」
花織は思いにもよらなかった言葉に目をぱちくりとさせた。吹雪は真面目な顔をして花織から視線をそらさずにいる。
「花織さんがいないと風丸くん、きっと満足にプレーできないよ」
「ついでにヒロトもね」
吹雪の言葉に同調するように緑川が付け加えた。実際そうであるとは言い切れないのだが、花織が日本に残るといえば落胆する選手が何人いるだろうか。花織のイナズマジャパンへの同行はチームのモチベーションに関わってくる問題だ。吹雪はそう考えている。
「で、でも……。」
「僕らは大丈夫。早く怪我を治してチームに合流する、それだけだよ。でもその前にイナズマジャパンが負けてしまったら意味がない」
FFIには一試合ごとに選手を入れ替えても良いというルールがある。二人も怪我さえ治せばチームに合流することは可能なのだ。
「花織さん」
吹雪がさり気無く花織の手を取る。そして険しい顔を一転させ、いつものふわりとした人の好い笑みを浮かべた。
「僕らのためにも世界へ行って。待っててよ、僕らが戻ってくるのを」
「士郎くん……」
「でさ、たまにメール送ってよ。それで十分だからさ」
吹雪にこうして背を押されれば、決意が固まる。彼と共に世界へ。急に現実味を帯びて気が引き締まった。しかし僅かに心の中に燻るのは先日の出来事、今は小さな悩みだが、これはのちに大きく響くこととなる。
❀
いよいよライオコット島へ向けて出発をする。空港には選手の家族や雷門中サッカー部の皆、またテレビの取材などもイナズマジャパンが世界へ羽ばたくのを見送りに来ている。風丸と花織は見送りに来た雷門中サッカー部のマックスらに囲まれて、主に風丸がバシバシと背中を叩かれていた。
「アイツらのこと、頼むな」
「ああ」
虎丸の実家の隣に住んでいるお姉さん、乃々美さんの作ってきたお弁当にはしゃぐ壁山や栗松たちを見ながら半田が風丸に言う。風丸はああ、と頷いた。風丸は面倒見が良いから一年生には慕われている。
「花織とも仲良くやるんだよ」
影野と宍戸と話している花織を横目で見ながらマックスが風丸に囁いた。風丸はどきっとしてマックスを見る。マックスはいつものように飄々とした表情をしている。
「大丈夫だと思うけど。もう花織を泣かせたりしないでよね」
何度君たちの恋路の相談を受けたことか、と言いたげな表情をしてマックスは肩を竦める。半田は苦笑して肩を竦めた。でも彼も同じ意見らしい、花織を泣かせたら許さない。と言いたげな目をしている。半田はともかく、マックスも花織のことを大事な友人だと認識しているからこその言葉であった。
「ああ、もちろんだよ」
それに対して風丸は頼もしく頷く。男らしくて、これなら心配はなさそうだがとマックスは思う。だがこのカップルは、特に花織が色々な問題を呼び寄せる。
「花織」
マックスが風丸の隣に立っている花織を呼ぶ。花織がマックスの方を振り返ろうとするよりも早く、マックスは花織を風丸の方に軽く突飛ばした。きゃっ、と小さな悲鳴を上げた花織を風丸が素早く腕に抱きとめる。
「そうそう、花織はそうやって風丸とくっついてること。キミったらすぐに変なことで悩むんだから」
マックスが抱き合ったふたりを見て呆れ調子で言った。ふたりはお互いを見つめてさり気無く頬を赤らめる。それでも離れようとはしないのだから、このふたりは本当にしょうがない。
「ま、マックスくんったら……」
花織が少し照れたように彼を咎めるような口調で呟く。それでも彼が彼なりに自分の背中を押そうとしてくれていることを悟って花織は何も言わずに風丸に寄り添う。体勢は立て直したが、さりげなく繋いだ手はぎゅっと握り合ったままだ。それに気づいてマックスはますますやれやれと言わんばかりに目を伏せる。
「ふたりとも頼むから仲良くね。僕、もうリア充の相談に乗るのはうんざりだから」