FFI編 第六章
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色々ハプニングもあったが、ようやく洗濯が終わり、花織はひとりで買い出しに行くことになった。今日の練習でテーピングやコールドスプレーなど諸々不足品が出てしまったのだ。
あれから着替えた服も洗濯中にあまりにも汚れてしまったから身に着けているものを取り換える。風丸のジャージは洗ってから返す、と彼に言っておいた。
花織は制服に着替えてリボンを結ぶ。やはり胸元がすこしきつい。でも見苦しいほどではないから大丈夫かと鏡を見ながら自分の姿を確認する。次いで櫛で髪を梳かし、アップに整える。アップにしていると暑くなくて良い。鏡を見ながら身だしなみを整え、最後にリカがくれたリップでピンクの線をひいた。
それにしても、一郎太くんはどう思ってくれているんだろうか。
色々工夫はしてみたけれど、彼の態度が良くなるどころか益々余所余所しい気がする。あまり目を合わせてくれないし、花織に対してどこか素っ気無いような気がしてしまう。無論それは花織が彼を煽っているからなのだが、花織自身はそんなことは分からない。むしろ、あのハプニングのせいで花織の方も風丸と話しづらいくらいなのだから。
「花織さん」
玄関口で靴を履いていると声を掛けられた。声の主をきょろきょろと探すと自主練を追えたらしい吹雪がユニフォーム姿で玄関口に立っていた。
「どうしたの、今から買い出し?」
「うん、色々不足が出ちゃって……。明日の練習に支障があったらいけないから」
花織はそう言いながらローファーを履いて、肩を竦める。吹雪はそうなんだ、と頷きつつ心配そうに太い眉を寄せた。
「もう暗くなるし、僕も一緒に行こうか?」
「いいよ、商店街までだから。そんなに遠くもないしね」
吹雪の言う通り、もうすでに日は落ちかけていた。帰り道は恐らく真っ暗になっているだろう。でもこの辺りは街灯も多く、人通りもさほど少ないわけではない。そして何より慣れた道だからと花織は大丈夫だよ、と微笑む。
「でも心配だよ、最近この辺不良がうろついてるって話だし……。それに今日の花織さん特に綺麗だから」
「えっ……」
吹雪の思わぬ言葉に花織の頬が桃色に染まる。それは決して茶化すようにではなく真剣な面持ちで告げられた。予想外のことに花織はたじろぐ。
「そ、そんなことないよ……」
「ううん、綺麗だよ。僕、今日の朝は見惚れちゃった。……髪型変えてるし、可愛いリップつけてるみたいだし。素敵だなあって」
素直な言葉で吹雪は花織を褒める。花織はかあっと頬を赤く染めて両手で自らの頬を包む。まさかこんな風に誰かに褒められるなんて思ってもみなかった。風丸に褒められたら良いな……、と考えてはいたがまさかそれ以外の人間に指摘されるとは夢にも思っていなかった。
「綺麗だよ、花織さん」
吹雪はニコニコと笑って花織に歩み寄る。そうっと白いその手を花織の肩にかけて、耳元で彼は甘い声で囁いた。
「……風丸くんなんてやめて、僕の彼女になってほしいなって思うくらい」
その囁き声、低めのトーンは紛れもなく冗談などではなかった。
「―――っ」
あまりの恥ずかしさに花織の白い頬はリンゴのように真っ赤になってしまった。花織は気恥ずかしさから吹雪から距離を取る。お世辞にしたって言いすぎだ、と花織は思った。恥ずかしすぎて吹雪の顔が見られないほどだった。
「……あ、あの、私急ぐから」
「あっ! 花織さん!」
ぴゅうっと風のように彼女は走って吹雪の元から逃げ出してしまった。吹雪は引き留めようと手を伸ばしたが、彼女の方が素早かった。追いかけるのを諦めて吹雪は肩を竦めて息をつく。今の反応を見るに冗談だとは取られていないのだとは思うけれど、受け入れる気もないのだとわかった。
「風丸くんが羨ましいなあ……」
ぽつりと取り残された吹雪が呟く。見ていればわかる、あれは風丸のためのお洒落なのだと。
「……風丸くん、ちゃんと花織さんの事、褒めてあげたのかな」