FF編 第二章
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鬼道は花織の耳元で低く囁きかけると、マントを翻し花織に背を向けた。一人残された花織は呆然と突っ立ち、彼の赤いマントを見つめる。残ったのは複雑に赤く染まる頬と答えの出ない疑問だけだった。鬼道さんは何故……、花織は目を細める。
何故心配を、何故またな、などと。彼は私を嫌っていたのではないだろうか。花織には分からない、鬼道のことが分らない。それでも一番、腹が立つのは自分自身の事だ。どうして今更揺れる、惹かれる理由も分からない。大切な人がいるはずなのに。
「花織……?」
花織が壁に寄りかかり俯いたままでいると、彼の声が聞こえた。
「一郎太くん……」
「こんなところにいたのか。……心配したんだぞ、急にいなくなるから」
「ごめんなさい……」
風丸は今、試合に勝ったばかりで、みんなと勝利の喜びを分かち合っていたいはずだというのに。そう思うと花織は心の底から申し訳なくなった。加えてグラウンドから抜け出した理由が鬼道に会っていたという彼にとって背徳的なものだ。それが余計に花織の心に突き刺さる。
「気にするなよ。そんなことより、今日花織が来てくれて嬉しかった」
「え……?」
花織が小さく声を漏らし、風丸の顔を見つめれば風丸は照れくさそうに頬を掻いた。
「見に来てくれないと思ってたんだ。でも、お前が俺の名前を呼んでくれて」
ああなんて……。花織は制服の胸元を握りしめる。焼け付くような胸の痛みが花織の呼吸を麻痺させた。こんなに自分を好いてくれる人がいる。これほど些細なことを幸せと感じてくれる人がいる。……なのに私は。
「え……っ。あ、花織……どうしたんだ、急に」
堪らなくなって花織は風丸の胸元に縋りつく。彼は驚いたようだったがそれでも確かに花織の身体を受け止めた。罪悪感と胸の鼓動に苦しむ息を吐いて、花織は呟く。
「私、一郎太くんのことが好き。誰よりも好きだから……、だから」
急に口を付いて出た言葉はそこで迷子になってしまった。次の句を何と告げればよいか分からない。だから……、なんだというのだろう。その時、迷う花織の髪にそっと風丸の手が触れる。
「花織……」
「……?」
「無理しなくていい。俺はどんな花織でも好きだ」
酷く優しい言葉に花織は胸が軽くなるのを感じた。
「ありがとう……」
この温もりを大切にしたい、いつまでも愛おしく思っていたい。そう思った。
❀
夕焼けの滲む空の下、花織と風丸は並んで帰路についていた。久しぶりに彼とふたりで帰るのだ。小恥ずかしいようなそれでも嬉しいようなそんな気持ちに包まれながら風丸の顔を花織は見つめる。今日の彼を見ていて一つ決めたことがあった。
「一郎太くん」
「どうしたんだ?」
風丸は花織の顔を見て微笑んだ。その笑みに花織は微笑み返すと、話を続けた。
「サッカー部で臨時マネージャーできないかな?」
「えっ……!?」
風丸の表情が驚愕に変わる。そう、花織は今日風丸のサッカーの試合を見ていて、マネージャーという立場で彼を見守れたらと思ったのだ。
「だって、今日みたいに私の知らない所で無茶されたら嫌だから」
きっと彼はまた無茶をするだろう、だからこそ傍にいたい。それに彼のいない陸上部には花織の居所はないのだから。しかし……、本心は違うかもしれない。
「俺は嬉しいが、陸上はいいのか?」
「もう決めたから。一郎太くんの足がどんなふうにサッカーで生かされるのか見てみたいの」
陸上は自主練で何とかするから、と花織がそういえば彼は納得したとはいえないものの、反対ではないという表情を見せた。
「じゃあ明日、一緒に円堂に頼みに行こうな」
「うん」
夕焼けの道、花織は複雑な思いを抱きながら風丸の傍へと寄り添った。