FFI編 第五章
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デザートライオンとの試合は3-2で辛くもイナズマジャパンが勝利した。前半で体力を消耗してしまったイナズマジャパンのピンチを救い、この試合の要となったのは後半綱海に代わって投入された宇都宮虎丸だった。
今までずっと消極的なプレーをし続けていた虎丸、それはかつてのチームで、あまりの実力の高さゆえに浮いてしまったということが理由だった。だから今までイナズマジャパンという日本代表に選ばれても自分を抑えたプレーをしていたのだと試合後に彼自身の口から語られた。
そのトラウマを払拭したのは彼が憧れる豪炎寺で、例によって治療シュートを虎丸にお見舞いし、ここにはお前を受け止められないやつはいないと虎丸に告げた。そこからは虎丸の独壇場で、カタールもそしてイナズマジャパンの面々も驚くような軽快なプレーを炸裂させ、彼の必殺技タイガードライブで決勝点をもぎ取った。
アジア予選準決勝を勝ち抜いたことで、残すは決勝戦のみとなった。対戦相手も既に決まっている。反対側のブロックの準決勝を勝ち抜いてきたのは元々優勝候補と名高かった韓国、ファイアードラゴンだ。この試合に勝ち、アジア予選で優勝しなければ本当の意味で世界とは戦えない。
「オーストラリア戦とカタール戦、二試合を戦ってみんなも世界のレベルの高さを実感したと思う。アジア予選を勝ち抜き世界大会へと進むためにはより強力な必殺技が必要だ」
そのためにと朝食の最中にも関わらず鬼道がミーティングを始めた。今日の練習メニューの変更が必要になる案件だからだ。花織は各テーブルを回って水を注いで回っている。だが話に耳は傾けていた。
「風丸、日本代表メンバーを決める紅白戦でお前が綱海を抜こうとしたときのことを覚えているか?」
彼の名前が出て花織はくるりと風丸の方を振り返る。鬼道の言葉を頼りに彼女もその時のことを思い出そうとした。ちらりと風丸のことを見る彼はすぐにはその時のことが思い浮かばないようで眉間に皺を寄せている。
「俺が綱海を?」
「ああ。……花織、覚えていないか?お前は良く風丸を見ているだろう」
鬼道の視線が花織を捕らえ、唐突に名指しで花織を呼んだ。花織はどきっとしてお冷が入ったボトルを落としそうになる。風丸が綱海を抜いた瞬間のこと……。覚えている、確証はないが思い当たる場面はある。確か後半が始まって割とすぐのことだった。疾風怒濤のスピードで綱海を抜き去り、そのままシュートへ持ち込んだプレーだったと思う。シュートは決まらなかったが、一人で選手を抜き、シュートを放ったという点でポイントが高いのではないかと花織が思ったプレーだった。
「はい。……えっと、後半始まってすぐの、綱海くんを抜いてそのまま一郎太くんがシュートしたときのプレイですか?」
「ああ、そうだ」
「あ、あのときか!」
花織の言葉で円堂が思い出したように声を漏らした。
「一瞬風がぶわあっとなって」
「覚えてるぜ、確かにすげえ風だった」
横から綱海も口を挟む。実際、そのスピードを一番体感したのは綱海だろう。ベンチから見ていた花織からしても綱海はあの時バランスを崩していたように見えた。相当のスピードで風丸が駆け抜けたからに違いない。
「あの風に更なる磨きをかければ強力な必殺技になるはずだ」
「……」
鬼道の指摘に風丸の表情が引き締まる。頼もしい、男らしい表情。きゅん、と花織は胸の奥がときめくのを感じる。チームのためにと思案する彼はいつみても素敵だ。
「久遠監督にも自主練習の許可はとってある」
「わかった。その必殺技を完成させればいいんだな」
「ああ」
鬼道が頷く。そして風丸から視線を逸らして花織を見つめた。彼はふたりを見据えて言葉を続ける。
「校外に出るなら花織といっしょに行け。花織、お前は風丸のマネジメントとアシストを頼む。お前なら風丸の練習相手にもなれるだろう」
ふっと口元に笑みを漏らす。花織は別の意味でドキッとしてしまった。鬼道は風丸と花織が恋人同士であるから気を遣ってくれた、というわけではないようだ。鬼道と花織は付き合いが長いからこそお互いが言わんとすることがよくわかる。花織の目には、鬼道が言葉なくとも”またお前が時間外に練習しているのは知っているぞ”と言いたげだと思えた。
「わ、わかりました」
気づかれていないと思っていたのに。花織は少々口ごもって鬼道の提案に賛成する。だが夜間の練習についてここで忠告してこないということは一応容認はしてくれているのだろう。ここは一応学校内でキャラバンで旅をしていたときよりは危険も少ないから大丈夫だろうと踏んでいるのか。
「花織」
風丸が振り返って花織を見上げる。花織は風丸を見つめて首を傾げた。彼はにっこりと爽やかに笑う。
「よろしくな、一緒に頑張ろうぜ」
ああ、もう。どうしてこんなに格好いいんだろうか。
「うん、よろしくね」
面映ゆさを隠して花織が微笑み、ふっと視線を逸らす。ふと目に映ったのは風丸と同じポニーテールの少年。彼は浮かない表情をして席を立った。テーブルに残された食事は、殆ど手が付けられていなかった。