FFI編 第四章
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迎えたアジア予選二回戦カタール代表、デザートライオンとの試合はじりじりと強い日差しの中で行われた。現在は前半5分を過ぎたあたり、まだゼロ対ゼロだがどちらかといえばイナズマジャパン優勢で試合が進んでいる。花織はぎゅっとこぶしを握って試合に見入る。オーストラリア戦でのぎこちなさも解消されて、当たり負けしていないし安心して試合を見ていられる。
――――頑張れ、一郎太くん……。
チームを応援していながらも花織が誰より気にかけるのはやはり風丸だ。いつも彼ばかりを見ているが、今日は彼から目が離せないのは昨日の夜の出来事が原因だろうか。
昨日の風丸は的確な言葉があるとするならば情熱的で、たっぷりの色気を滲ませて時間がくるまで花織を離そうとはしなかった。別れ際もいつもはさりげなく口づけるだけなのに、花織の身体を強く抱きしめて離そうとはしなかった。まるで先日のように帰したくないと言葉なく訴えているようだった。自分が今以上に求められていると錯覚した。
それでも今朝、朝食の時に顔を合わせてみればいつものように爽やかにおはよう、と声を掛けてくれて。自分が変に期待しすぎていたのかと来るときのバスの中で花織は悶々と考えたものだ。でもいつもの風丸が一番好きなのだから昨日のことは夢だったのだと考えようと試合開始前、いつものように頼もしく話をする彼を見て思った。
「ウルフレジェンド‼」
吹雪の声が響く。カタールのディフェンス陣の隙をついて豪炎寺が出したパスをシュートに持ち込んだのだ。彼のシュートは、受け止めようとしたカタール代表キャプテンビヨン・カイルを吹き飛ばし、わずかに軌道が逸れたもののゴールの右上に向かって飛ぶ。
「いっけえ‼」
花織の隣に座る春奈が叫ぶ。だがゴールキーパー、ナセル・ムスタファの好セーブにてシュートは決まらず、ゴールラインを越えてボールが転がっていった。
「ああっ、惜しかったですね」
「そうね、でもチャンスだわ」
秋が真剣な顔でフィールドを見つめている。そう、キーパーのパンチングによってラインを越えたのだからイナズマジャパンのボールで試合が続行する。コーナーキックからのセットプレイ、まだまだ得点のチャンスはある。
「一郎太くん……」
なんとコーナーキックに出たのは風丸だった。ここでストライカーへボールが繋げられるかで展開が決まるといっても過言ではない。緊張の一瞬、固唾をのんで花織は風丸を見つめる。思わずベンチから立ち上がり祈るように手を握り合わせる。
「……頑張れ」
ああ、応援しかできないのが本当に歯痒い。息を整え、彼がボールを蹴り上げる。
「これが俺の新必殺技だ!」
ボールは大きく弧を描く。大きすぎたか、豪炎寺や吹雪のいる位置よりも高い。お願いどうか。花織は痛いくらい手を握りしめる。すると回転のかかったボールは急カーブし、ゴール左上に抉るように突き刺さった。一点先制だ。あまりの大きなカーブにキーパーも反応できていなかった。
「やったっ……!」
きゃあきゃあと後ろで嬉しそうに語らうマネージャーの声を尻目に、花織はひとり安堵の息をつく。ピッチに立っている風丸も安堵の表情を浮かべているのを見るにかなり緊張していたみたいだ。花織は両手を顔の前に差し出して声を張る。何て言ったって重要な先制点、誰よりも早く彼を褒め称えたい。
「一郎太くん! かっこよかったよ‼」
惜しみない称賛の声に近くにいた選手たちがジャパン、カタール問わずに振り返った。無論風丸も。頬を紅潮させ、嬉しさを隠しきれない表情を浮かべる花織に風丸は軽く右手を挙げた。その動作が堪らなく格好いい。
「花織ちゃんったら……」
「花織先輩、どんどん大胆になりますねえ。風丸先輩が羨ましいです」
微笑まし気に笑う秋とにやにやとふたりのやり取りに春奈。花織ははにかんでそんな二人を振り返った。暑さのせいか、恥じらいのせいかその頬は赤い。
「だって本当に格好いいから」
ふう、とようやく落ち着きを取り戻して花織はベンチに座る。左隣に座る冬花が花織の顔を覗き込んで儚げに微笑んだ。
「花織さんは風丸くんが好きなんですね」
花織の表情が少しだけ強張る、それでもなんとか微笑んだ。さらりと結い上げたポニーテールを揺らして花織は頷く。かけられた言葉の意味はさほど秋や春奈とそう変わらないのに素直に応対できないでいた。
花織はいまだに新マネージャー冬花との距離を測りかねているのだ。