FFI編 第四章
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緑川のことは心配ではあったが忙しいマネージャー業が始まってしまうと今朝の出来事は思考の隅に追いやられてしまった。バタバタと一日を過ごし、また夜が来る。
風丸一郎太はやはり花織と共に就寝前の時間を過ごしていた。明日にカタール戦が控えているが、それでもこの時間を無下にすることはできなかった。今日は来た時から妙に彼女の頬が赤いような気がした。熱があるのかと額に手を当ててみたが、熱はなさそうだった。暑いからだよ、と彼女はなぜか照れくさそうに笑った。それでも身を寄せていつものスタイルでふたりは言葉を交わす。
「最近は湿度が高いから、ちゃんと水分補給してね」
「ああ、わかってるよ」
何故だろう、気が散って仕方がない。
昨日花織が部屋を去ってからもずっと花織のことを考えていた。花織の笑顔や仕草が脳裏に焼き付いて離れなくて、どうしていいかわからなくなった。
今もうわべではきちんと会話を成立させているけれども、会話に集中できない。花織の唇の動きや、指の動きが気にかかってしまう。決して花織との話がつまらないわけではない。いつも通り話だけでなく声を聴くだけで癒される。でも、何か違う。
「いつもいつも蒸し風呂みたい。日本独特の暑さらしいね、こういうの。明日はもう少しマシだといいんだけど……」
パタパタ、と花織が服の胸元をつまんで仰いだ。大きく開いた襟元から覗く白い肌、僅かな膨らみとその間に落ちた自分が贈ったネックレスの飾り。視線が意図せずそこに釘付けになって離せなくなった。背筋を駆けるのはいつもより強い衝動。ムラムラと胸の中に蠢くこれは何だろう。
「一郎太くん……?」
花織が首を傾げて風丸の顔を覗き込む。さら、と流れた黒髪がシャツの中に落ちた。大きめのTシャツから覗く風丸の視線の向けられた先、ぎゅっと閉じ込められた果実が谷間を作っている。風丸はカッと身体が熱くなるのを感じた。
「大丈夫?」
彼女の桜色の唇が煽情的に艶めかしく風丸を誘う。風丸は思わず利き手で花織の二の腕を掴んだ。花織が驚いて目を見開く間もないまま、彼は花織に顔を寄せる。もう一方の手を彼女の頬に添えて深く口づけをする。二の腕を掴んだ腕をゆっくり緩めて唇を離した。
「……大丈夫じゃない。すまない、花織」
掠れた声で風丸が囁く。いつの間にか彼の手は一方は彼女の後頭部に、そしてもう一方は腰に回されていた。彼女を逃がさないように自然と体が動いている。ぎらりと情欲に光る風丸の瞳に花織が臆していることに、踏み止まる気持ちと加虐心が彼の内心で鬩ぎ合っている。
「お前が足りないんだ」
それは要求だった。花織はきゅっと唇を結んで彼の甘い言葉に酔いしれている。拒むはずがない、拒む理由もない。花織は恥じらいに息をついてこくりと頷く。
「……ん。……一郎太くん」
花織がそっと風丸の胸板に手を触れる。ふるふると震える瞳で彼を見つめて彼女は声を絞り出した。
「キス、して……?」
それは十分すぎる了承だった。風丸は花織の腰をぐっと抱き寄せて、先ほどよりも情熱的に唇を重ねる。何度も何度も角度を変えて唇を重ね、舌先で舐りのちにゆっくりと彼女を侵食する。彼女の全てを奪うように口づける。絡まり合う。でも足りない。圧倒的に何かが足りない。
これ以上に、花織の全てが欲しいのに。手段が分からない。
強く抱きしめてもこれ以上は手に入らない。風丸の心は未知の感情に包まれたまま、この行為は別れの鐘がなるまで続けられた。