FF編 第二章
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「ふざけるな……。こんなの……っ、こんなのサッカーじゃねぇっ!!」
花織の言葉が声とはならずに零れた。彼女の眼前では風丸が円堂を庇い、頭からボールに突っ込んだところだった。何と無謀なことを。そしてそのボールの威力に風丸の身体はゴールの中へと弾き飛ばされた。
「風丸っ!!」
「風丸くん!」
「風丸!!」
雷門イレブンの声が風丸を呼ぶ。花織は肩に置かれた豪炎寺の手を無意識に振り払う。そしてなりふり構わずにグラウンドへと駆け出した。
「おい……!」
花織を引き留めようと伸ばされた豪炎寺の手が空を掴む。そして花織は先ほどの皆の声とは比べ物にならないほど大きく、大切な彼の名をフィールドに響かせた。
「一郎太くんっ!!」
彼女の叫び声が選手たちの視線を集める。花織はタッチラインぎりぎりの所で足を踏み留めた。さすがにフィールド内に入るのは同じスポーツをする者としての理性が制した。花織の瞳からは一筋、涙が頬を伝っている。
「花織……?」
地に伏した風丸が彼女の名を呟く。叫んで力が抜けたのか花織がその場にへたり込むと花織の顔を影が覆う。それに気づいた花織は、ぴくりと瞼を震わせ顔をあげた。
「……月島か」
「き、どうさん……」
口元に微笑みを浮かべて鬼道が花織を見下ろす。ぞわりと花織の胸に痺れが走る。鬼道は花織と風丸を見比べ、にやりと微笑んだ。花織の傍に屈み込んだ鬼道は花織の涙をそっと右手の人差し指で拭い、彼女の耳元に低い声で囁いた。
「あとで話がある。……この校舎の裏門に来い、この試合の直後にだ」
花織が言葉を返す前に鬼道はマントを翻して試合へ戻っていった。呆然と座り込んだままの花織はその彼の背中を見つめるしかない。
「花織ちゃん!」
そのとき、花織の名を呼び肩を掴んだのは反対側のベンチにいたはずの秋だった。その背後には青髪の少女が心配そうに花織を見つめている。秋は心配そうに花織の顔を覗き込んで優しく言葉を掛けた。
「やっぱり来てたんだ。とにかく、ベンチに行こう? ここじゃ危ないよ」
秋の言葉に半ば呆然とぎこちなく花織は頷く。秋はその答えだけで満足だったのか青髪の少女と二人で花織の身体を支えてベンチへと歩を進めた。
❀
「一郎太くんっ!!」
頭に受けた衝撃のせいで歪む視界の中で、自分の名前を呼ぶ花織の声が耳に飛び込んできた。一瞬幻聴かとすら思った。しかし徐々に鮮明になる視界に自分が望んでいた少女の姿がはっきりと映り思わず胸が軽くなる。たとえそれが帝国の奴らの誰かのついでだったとしてもだ。
しかし彼女がそのまま座り込んでしまったところを見ると、酷く彼女を不安にさせてしまったのだと風丸の中で罪悪感が生まれる。しかしそんな思いは彼女に近付いたある人物によって掻き消された。
「鬼道……?」
帝国学園サッカー部キャプテン、鬼道有人が花織の傍へと跪いた。どうやら鬼道は花織の頬へと手を伸ばしているようだ。風丸の中で泥状のどす黒い感情が増幅する。花織の想い人はまさか、鬼道なのではないだろうか。
❀
試合終了後、花織は鬼道に言われた通り、雷門中学の裏門で彼を待っていた。あの後、目金が試合放棄をしたことで、代わりに豪炎寺が試合に入り一点を帝国からもぎ取った。そして結果的には帝国が試合を棄権したことにより、事実上雷門は勝利を収めたという結果で試合は幕を閉じた。
そして雷門中学側が勝利に喜び合っているところを彼女は抜け出してきたのだ。雷門が勝利を収めるというのは少々微妙だが、試合放棄自体は帝国学園の中では決まっていたことなのだろう。きっと帝国学園の狙いは豪炎寺だったのだ、花織はそう思う。きっと彼のデータを取るための試合だったのだ。でなければ、帝国学園にとってこんな屈辱的な終わり方をするわけがない。
「月島」
どくんと大きく胸が高鳴った。花織が名前を呼ばれて振り向くと、ユニフォームを着たままの鬼道が彼女の背後に立っていた。
「鬼道さん……。何か御用ですか」
あえて目を合わせないように、花織は俯く。鬼道は花織の方へと歩み寄り、耳元で小さく囁く。
「フッ……。お前、雷門に来ていたんだな」
「……」
鬼道は何が言いたいのだろうか、花織は固く目を閉じたまま思う。何か都合の悪いことでもあるのか。
「急に帝国からお前が消えて、ずっと心配していた」
「え……?」
思わず花織は顔を上げ、鬼道を見つめる。不敵に微笑む鬼道の姿に抑えられない胸の鼓動を感じた。あの時掛けられた酷い言葉でも、先ほど掛けられた言葉によって払拭されたような気さえする。花織は内心複雑だった。
「お前、俺をひっぱたいたとき手帳を落としていっただろう?」
「あ……」
花織は口元を手で押さえる。今の今まで忘れていたのだ、帝国に在学していた時に使っていた手帳のことなど。あれには花織の予定や練習メニューが綴られている。引っ越しの前に失くし、持っていても仕方がないだろうと割り切った品だった。
「俺が持っている、また会えたら返してやろう。……それと」
じりっと鬼道が花織の方へと詰め寄る。花織は後ずさったが、すぐに壁が彼女の退路を塞いだ。彼が近づくと共に花織の胸の鼓動はどんどん激しくなっていく。そして彼女を追い詰め、嗜虐的に笑んだ鬼道は花織の顔の横に手をついた。
「月島、お前はあの青髪の男とどういう関係なんだ?」
予想だにしなかった質問に思わず、花織は鬼道を見つめる。日の光でゴーグルの中の赤い瞳が透けて見え、思わず顔が熱くなる。
「いや、あの……その」
「顔が赤いぞ。……フッ、まぁいい。……またな」