FFI編 第三章
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フットボールフロンティアインターナショナル。この世界大会で日本を背負う彼らのチーム名はイナズマジャパンだ。伝説のイナズマイレブンを目指した選手が多く選ばれたこのチームに、これ以上の命名は無い。
いよいよ、日本代表強化合宿が幕を開ける。すでにアジア予選抽選会まで一週間と迫っていた。ほとんどの代表選手たちは選出が決定した時点で合宿所、すなわち雷門中の元一年生用校舎へと引っ越しを済ませている。今日からここで寝泊まりし、厳しい練習をこなしていくことになる。
朝七時、合宿所一階の食堂にて花織は秋たち他のマネージャーと一緒に朝食の準備を行っていた。選手たちの食事の準備や洗濯はマネージャーの業務の一つだ。これはキャラバンに参加していたときから変わらないから彼女たちにとっては慣れたものだ。色違いのエプロンを付けてくるくると働いている。
「秋ちゃん、卵焼きの準備できたよ」
全部で二十人前以上の卵焼きを焼き、切り分け皿に盛りつけ終えた花織が秋に声を掛ける。今日はだし巻き卵にしてみた。形よく綺麗に巻くことができたと花織は卵焼きの出来に満足する。マネージャーとして活動するようになってからは自宅で料理の練習をするようになり、料理上手の秋から教わることも多くなったから料理の腕は少しずつ上がってきていると思う。彼らには栄養バランスの整った、少しでもおいしいものを食べてほしい。
「ありがとう、こっちももうすぐできるから」
秋は鮭を焼きつつ、花織の言葉に返答した。彼女たちはそれぞれ役割を分担して朝食を作っている。
「お味噌汁はもう準備ばっちりです!」
本日の味噌汁担当の春奈が元気よく言った。春奈の明るい声に微笑み、そのあと花織はちらりとカウンターの外を見た。ここの食堂はテーブル席がカウンターから見えるようになっている。そろそろ選手たちが朝食を摂りに来る頃だろう。現に何人かすでに選手たちは席を取り始めている。
からりと教室の扉が開く。花織は自然とそちらに目をやった。見えたのは蒼い髪のポニーテール。彼は豪炎寺と談笑しながら食堂に入ってきた。そして花織の視線に気が付くと花織に笑顔を向けた。
「おはよう、花織」
彼と交わす挨拶はもう何度目になるかはわからない。それでも爽やかで明るい彼の笑顔はいつだって花織の心を明るくする。何度だって胸が騒ぐ。ほんのりと花織の頬が赤くなった。
「おはよう、一郎太くん。……豪炎寺くんも」
風丸を見つめて、そのあとに豪炎寺へ視線を移した。豪炎寺は呆れたように花織を見て笑う。俺は風丸のついでか、そんなことを言いたげに花織を見て豪炎寺は花織へ挨拶を返した。
「おはよう。朝から仲がいいな」
「おい、茶化すなよ豪炎寺」
からかうような豪炎寺の言葉に風丸が困り顔で言った。少しだけ彼の頬も照れたように赤くなる。そんな彼がやはり好きで、花織は自然と表情が綻ぶ。彼女の背後で炊飯器がご飯が炊けたことを知らせ、花織はそれを振り返る。
「ご飯、もうすぐだから。ちょっと待っててね」
「ああ」
もう一度風丸を見つめて花織が言えば、その言葉に風丸が頷く。そんな仲睦まじげな様子を見て豪炎寺が何か言いたげに風丸の肩を叩いた。何だよ、と風丸が豪炎寺を振り返る。彼の耳は頬と同じように少し赤い。彼らは中学生らしいやり取りをしながらカウンターを離れていく。花織はただただそれが微笑ましいと思った。
「ほんと、仲良しですね。先輩!」
花織の隣でふたりのやり取りを見ていた春奈が微笑ましいと言わんばかりに花織の両肩を叩く。花織は春奈の言葉に赤い頬を益々赤くしたが、それを否定したりはしなかった。
朝食後、選手たちが練習の準備を始めている間、マネージャーは朝食の片づけをしている。やはり人数が多いと片付けにも時間がかかる。キャラバンの時は使い捨てのお皿を使うことが多かったから洗い物は比較的少なかったが、合宿中は学校の食器を使うためそうはいかない。
「みんな、朝から一杯食べてたね。もう十人前くらい準備しておかないと足りないかも……」
泡の付いたスポンジで皿を次々洗いながら花織が呟く。実際花織の言葉の通りだった。一応おかわりができるようにと味噌汁とご飯は多めに準備しておいたのだが、今日の朝食は綺麗になくなってしまった。むしろ足りなかったぐらいだ。
「今日は特に練習初めだから気合が入ってたもんね。私たちも頑張らないと」
花織の隣で花織が洗った食器を洗い流しながら秋が答えた。春奈はテーブル拭き、目金は床を磨いている。三人のマネージャーと一人の戦略アドバイザー(記録係)では選手に対して人数が多いような気もしたが、そんなこともないのかもしれない。
「夏未さん、今頃どうしてるのかなあ」
花織がぽつりとつぶやいた。日本代表のマネージャー候補として選ばれたのは春奈、秋、花織、そして夏未の四人だった。実際説明会には夏未も呼ばれていたのに、選考試合の時には夏未の姿がなかった。よくよく秋に聞いてみれば選抜試合の二日前に海外へ留学するために日本を発ったのだという。いつも四人でマネージャー活動をしてきていたから、夏未がいないというのは正直妙な感覚だ。
「ずっとマネージャーを一緒にやってたから、夏未さんがいないのすごく変な感じがする。やっぱり寂しいね」
花織と夏未はあまり話をする仲ではなかったが、彼女はフットボールフロンティア地区予選のときから一緒に戦ってきた仲間だ。いなくなってしまったのはやはり寂しいと思う。彼女自身で選んだ道で頑張ってほしいという気持ちはあるが、一緒に世界一を目指したかったとも思う。
「そういえば、マネージャーの事なんだけどね」
秋が流した食器を立てかけながら思い出したように呟いた。花織は食器を洗う手を止め、秋の言葉に首を傾げる。秋は花織を見つめ、ふふと笑った。
「新しいマネージャーが来るんだよ。今日から」
「そうなの?」
完全に初耳だった。花織が驚き目を丸くすると秋はくすくす、と笑った。秋は事前に知らされていたらしい。秋は残り三枚になった汚れ皿を自分の元へと引き寄せ、花織の手からスポンジをそっと受け取ると手早く洗いながらそうだよ、と言った。
「八時半になったら久遠監督が連れてくるって。先に私たちに紹介してくれるみたい」
「八時半って……」
花織がちらりとカウンターの外にかかった時計を見る。時刻は八時二十五分。秋が言っている時刻まであと五分しかない。花織はええ……、と困ったように声を漏らした。
「秋ちゃん、もうちょっと早く教えてよ……。片づけがまだ」
「大丈夫よ。これでお終い」
花織が戸惑っているうちに秋は綺麗に皿を並べて収納し、食器乾燥機のスイッチを押す。振り返ってみれば春奈も目金もすでに掃除道具を片付け始めていた。秋は汚れた手を洗い、タオルで手をふくと秋はにっこりと笑う。
「みんなをびっくりさせたくて黙ってたんだ」
珍しい秋のお茶目な一面。思わず花織は肩をすくめる。そして自らも流水に手を差し出した。