FFI編 第二章
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「ただいま」
玄関の戸を開けて、誰の返事が返ってこなくても挨拶をしてしまうのは彼女の幼いころからの癖だ。小学校高学年になるまでは母が花織の帰宅を待っていてくれたが、今は彼女の父母は共働きで時にはこんなふうに帰りが遅いことがある。だから今日のように風丸と練習をして遅くに帰宅する方が寂しくなくて良い。
花織はリビングに入り、電気を付ける。ふとテーブルに置かれた新聞の隣、仰々しい封筒が目に入った。彼女は気にかかってその封筒を手に取ってみる。封筒を縁取る上品な金線を見つつ封筒を裏返せば、宛名を見て花織は目を見開いた。どうやら自分あての手紙のようだ。差し出し人には日本サッカー協会と書かれている。
「何これ……?」
首を傾げながら封を切る。中には四枚の用紙が入っている。一枚が説明文書、二枚目が注意書き、三枚目は履歴書のような用紙。そして四枚目はどうやら誓約書のようだ。花織は戸惑いながらとりあえず一枚目の用紙を手に取った。
”フットボールフロンティア・インターナショナル(FFI)日本代表専属マネージャー登録について”
「フットボールフロンティア・インターナショナル?」
聞いたことのない謎の言葉を呟く。花織は食い入るように用紙を見つめ、その文書を読み込む。
この用紙によればフットボールフロンティア・インターナショナル、通称FFIはU-15の少年サッカーの世界大会のことらしい。そのFFIが近々開催されることになり、日本代表が選ばれるようだ。この用紙に書いてある内容を要約するとその日本代表の練習サポートや日常生活のサポートを行うマネージャー候補として花織が選ばれた、ということらしい。
「……」
文書に目を通してみて花織はまず内容の真偽を疑った。FFIなんて聞いたこともない。毎日毎日サッカー少年たちと過ごしているし、何より花織自身もサッカーに興味を持っているのにこんな大きな大会の情報が入ってこないものだろうか。試しに携帯で検索を掛けてみても何もかからない。ただ単純にまだ未発表なだけだろうか。彼女の恋人の風丸も何も知らなかったようだった。
「うーん……」
ソファに身体を投げ出し、困り顔で花織は携帯の電話帳からある一人の名前を呼び出そうとする。通話ボタンを押しかけて、少し考え押しとどまった。相手はきっと構わない、といって許してくれるだろうが、この遅い時間にこんな信憑性のないことで連絡するのは迷惑だ。何より、この用紙の注意書きに”本件に関しましては機密保持をお願いいたします”と記載されている。もしもこの文書が真実だったとしたら守るべき事項だろう。
「……あ」
花織はとある事項に気が付いて文書の日程の要綱に目を通す。日本代表候補選手発表が明日の正午より雷門中学にてとなっている。マネージャーの説明はその一時間前だ。奇しくも秋に指定された時間と場所が指定されている。
よくよく思い返してみれば、今日秋は去り際に妙なことを言っていたような気がする。明日を楽しみにしててね、とか。試合でもないのに何を言っているのだろうと彼女の言葉に疑問を抱いたのだがこれは。
一郎太くんが響木監督に呼ばれた理由って……。
花織は考えを巡らせる。もしもこの話が真実なのだとしたら。……あり得なくはないだろう。彼らはフットボールフロンティアの優勝校の選手。日本を救ったヒーローで、地上最強のサッカーチームの一員。日本中学サッカー界においてトップレベルのプレイヤーだ。
「……よし」
花織は信じてみることを決意して立ち上がる。すべては明日。明日になればすべてわかるはずだ。