脅威の侵略者編 第十八章
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円堂の言葉によって、ダークエンペラーズを名乗っていた風丸を始めとするメンバーの目は覚めた。エイリア石は彼の言葉に砕け散り、研崎の野望も阻止された。これで本当にすべてが終わったのだ。
試合の後は雷門イレブンの勝利を祝って祝賀会が行われた。学校の先生や伝説のイナズマイレブンOBの持ち寄ってくれた食材使ってBBQが開催されたのだ。雷門の選手たちも、ダークエンペラーズとして集まっていたメンバーも。それだけではなくそこにいたメンバーでエイリア学園との戦いの終わりを喜んだ。
風丸はその中できょろきょろと花織の姿を探していた。試合が終わってから、彼女の姿をちらとも見ていないのだ。花織と普段仲良くしている者たちに花織の所在を尋ねてみても、誰も花織を見ていないらしい。どこへ行ってしまったのだろう。風丸は考える。
「花織はいたのか?」
鬼道が、風丸が花織を探していることを察してか、風丸に声を掛けた。風丸は黙って首を振る。先ほど鬼道にも花織の所在を確認したが、彼も知らないらしい。鬼道すら花織の居場所を知らないなんて、と風丸は少し心配になった。しかし鬼道は心配するそぶりは無く風丸の肩を叩いて笑う。
「随分お前が待たせたからな。……まあ、どこかにいるだろう。俺は普段花織が雷門のどこで過ごしているか知らないから何とも言えないが」
鬼道はそう言ってひらりと手を振る。花織が普段いる場所か……。風丸は記憶を巡らせる。今まで花織と一緒に居た場所、彼女の言葉。誰よりも花織と一緒に過ごした時間が長い風丸しか知らない場所はあっただろうか。そう考えてみるとふっと彼女の言葉が彼の頭の中で思い浮かぶ。
"すべてが終わったら陸上グラウンドのそばのベンチで"
フットボールフロンティア決勝戦の直前、彼女とそんな約束をしたことを思いだす。きっとそれは風丸に対しての想いの話であったし、その約束が未だ効力のあるものであるかはわからない。しかし風丸は不思議と花織はそこにいる気がした。
騒ぎの中を抜け出して風丸は陸上グラウンドへと向かった。懐かしい風景が目の前に広がる。サッカーの前に走っていたフィールド、自分と基盤となる場所。その景色の中、約束の場所に黒髪の少女が立っている。
自分に背を向けた黒髪の少女、見間違うことの無い自分が愛してやまない人。美しい黒髪が風に靡く。近くの木々の葉がざわめいた。
「花織……」
か細い声で風丸が彼女を呼ぶ。その声には何となく躊躇いがあった。エイリア石の呪縛から逃れた今、風丸は自分が何をしてしまったのかを自覚してしまっていた。彼女を探していたくせに今の自分が花織と話す資格があるのか、そんな戸惑いが声色に現れている。
本当に嫌われてしまっていてもおかしくない。自分が彼女にしてしまった仕打ちを思い出してみると許されない気がした。風丸は不安げな面持ちで彼女の反応を待つ。花織は何も言わずに風丸を振り返った。
「一郎太くん」
風丸を見つめる優しい声色が彼の名を呼んだ。振り返った彼女のその表情には柔らかな微笑があった。いつも風丸に見せてくれる変わらない笑顔。彼女は風丸を見つめるとずっと彼に掛けたかった一言を彼に告げた。
「おかえりなさい」
花織は風丸を見つめていた。青い髪、茶色い目……、ずっと会いたかったいつも通りの風丸の姿を見て、彼女は思わず涙ぐみそうになってしまう。そんな花織の表情を見て風丸は罪悪感に駆られずにはいなかった。ずっと彼女からの電話もメールも無視し続け、卑屈になっていたあげく、あんなことをしてしまった。そう思い返すだけで自分が情けなくまた恥ずかしかった。
「……すまなかった」
風丸が頭を下げて謝罪の言葉を告げる、彼の髪が流れるようにさらりとゆれた。もちろん、こんな言葉で許してもらえるとは思っていないが謝るしかないと思った。風丸は花織に頭を下げ続ける。花織はそんな風丸の傍に歩み寄った。風丸が恐る恐る顔を上げれば、彼女はふんわりとした変わらない微笑を浮かべて風丸を見つめていた。
「私こそ、ごめんね」
花織はそう言って風丸の両肩に手を掛け、彼の右肩に自分の顔を伏せた。風丸は大きく目を見開いて花織の身体を受け止める。花織は風丸の普段通りの雰囲気に安堵していた。いつもの風丸だ。もう髪型もいつも通りに直して、雷門のジャージを身に纏っている。正直ダークエンペラーズのユニフォームで、ここに彼が現れたらどうしようかと思ったが……。
花織は喜びを噛みしめる。風丸が戻ってきてくれた、それだけでいいのだ。
「私……、転校してきてからずっと一郎太くんの傍にいたのに、一郎太くんの悩みに全然気づけなかったから。それに一郎太くんを追い詰めてしまった要因は私にもあると思う」
花織は風丸の肩に顔を寄せたまま囁く。ダークエンペラーズとして花織の前に現れた時も頻りに彼が言っていたのは花織を守る力を手に入れた、そして花織に見合う力を手に入れたという言葉たちだ。それが花織の言葉の根拠となる。やはり、彼がエイリア石に手を出してしまったのは花織も要因のうちだと言えるだろう。
「だが俺は、……してはいけないことをした。誰にも負けない力を、速さを欲する余り、お前を傷つけてエイリア石にも手を出してしまった……」
「一郎太くん」
悔やむような表情を浮かべ風丸が顔を逸らす。花織はそっと顔を上げ、風丸の頬に自らの右手を添えた。じんわりと涙で潤む瞳で風丸を見つめている。その表情には風丸を責めるような感情は一つも混じっていない。
「……ちゃんと戻ってきてくれた、私はそれだけで十分だから」
そんな瞳で見つめられるだけで風丸の心は締め付けられるようだった。どうしてこの瞳を今まで無視できたのだろう。今の風丸には分かる、他の誰も関係なく自分をひたすらに愛し、想ってくれている黒い瞳。その瞳で花織は今も風丸を見据えている。かつてはその瞳が欲しくてずっと悩んでいた、この瞳をどうして放って置けたのだろうと風丸は思う。
「でも、一つだけはっきりしておかないといけないことがあると思ったの」
微笑みながら花織が風丸に言う。きっと彼がずっと悩むきっかけになってしまった要因。花織を大切に思うがゆえに空回りしてしまった彼の気持ち。痛いほどその気持ちが分かるから、今この場ではっきりとさせないといけない。
「力が無かったから一郎太くんは私を守れないって言ってたね。……でも一郎太くんはいつでも私を守ってくれてたよ。それは一郎太くんがいう強さではなかったけど」
出会って間もなく、花織は風丸に惹かれた。もちろん彼の足が速かったことが花織の興味を引いたことは否定しない。だがそれはきっかけに過ぎず、理由ではない。花織が風丸を好くようになったその理由こそが、ずっと花織のことを守り続けてきた。胸元に飾られた彼の贈り物がきらりと陽光を受けて煌めく。
「……私は、ずっと一郎太くんの優しさに守られてる」
花織が柔らかく笑みながら風丸の頬を撫でた。
「花織……」
そう、出会ってからずっと、彼はその優しさで花織の心を温めてきた。初めて出会った時から彼は花織に優しくしてくれた。鬼道を愛していた花織を自らの心を犠牲にして、励まし傍にいてくれた。彼の思いやりが確実に花織の心を動かして、今という状況を作り出している。
「一郎太くんは私を変えてくれたんだよ」
「え……?」
風丸が不思議そうな声を上げた。花織は微笑む。帝国に居たころの花織は鬼道に見てもらえることがすべてだった。走るという行為は彼の目に留まるための手段でしかなかった。でも、今は違う。風丸が花織の認識を変えてくれた。
「……ずっと私の傍にいて、私に誰かと一緒に走ることの楽しさを教えてくれた。一郎太くんが傍にいてくれるだけで、私は幸せだよ」
風丸は花織を守れていないと悔やむが、決してそんなことは無い。彼の存在が花織に色々なものを与えてくれた。走る場所、仲間、サッカー、そして限りない花織に対する愛をくれた。それがどれだけ花織を救ってきたか分からない。洗脳状態だった彼にも告げたが、花織はそういう風丸の人柄に惹かれてきたのだ。そして同時に感謝もしていた。
「だから、私だけが一郎太くんに守られてばかりじゃ嫌だよ。……私も一郎太くんを守りたかった。今回の件も本当は相談してほしかった」
「すまない。……ただ、情けないと思ったんだ。男のくせに他の奴らに劣ることをずっと悩んでいるのは」
風丸が申し訳なさそうに花織に言う。花織に話さなかったのは男としてのプライドがあったからだった。他の奴らに嫉妬しているようなところを、たとえ宣言してたとしても花織の前に曝け出すのは気が引けた。
「私はそんなこと気にしない。……私だって初めは一郎太くんの足の速さが羨ましくて堪らなかった。きっと誰にだってそんな気持ちはあるよ。……もちろん、ヤキモチだって」
ふふ、と花織が悪戯っぽく笑う。風丸だけではない、嫉妬深いのは花織も一緒だ。そしてお互いにお互いの嫉妬深さを煩わしく思ったことなどないのだから、もっと言ってくれても構わないという彼女の気持ちの表れだった。
花織は諭すように風丸に言いながら、そっと手を下した。真剣な眼差しで風丸を見据えて懸命に話した。
「だからね、もう一人で悩んだりしないで。私だって一緒に悩めるし、考えることだってできる。一郎太くんの気持ちに共感して少しでも悩みを減らすことができるかもしれない」
「……花織」
風丸は花織の言葉が自分の中にあった不安や蟠りを静かに溶かしていくのを感じていた。今まで自分を覆い尽くしていた悩みが彼女の真意を聞いてしまえば、これほどちっぽけなものになるのかと思うほどに胸がすっきりとする。同時に益々花織を愛おしいと思った、自分を受容し強くある彼女を。
「一緒に走っていこう?お互いのこと、もっと良く知りながら」
「……ああ」
やっと風丸が花織の好きな笑みを浮かべた。花織の手を握り、じっと花織を見据える。
風丸よりも小さくて柔らかな花織の手。守ると誓っていながら、二度もこの手を離してしまった。でも、もう決して離したりはしない。己のすべてを掛けて、花織の手を握り続ける。
「ありがとう。……あのさ、花織」
「……うん」
花織は風丸の言葉を待つ。風丸は一度大きく息をついて、目を伏せた。ゆっくりと目を開ければ自分の大切な人がいる。それが堪らなく幸せだと思えた。意志が強く優しい、自分にとってかけがえのない恋人。出会った時からきっと好きだった。
彼はまたこの約束の場所で告げる。ここで言おうと約束していた花織を想い、愛する気持ちを。
「改めて言うよ。俺はお前のことが好きだ。……好きで堪らないんだ。初めてお前と一緒に走ったあの日から、ずっと」
「……うん。……私も、一郎太くんのことが好きだよ」
風丸が愛おしげに花織を見つめながら花織の手を左手で握ったまま、右手を花織の頬に這わせた。花織は何も言わずにそっと目を伏せる。彼とのこの行為は初めてではないはずなのに、どうしてか妙に緊張した。静かに風丸の唇が花織の唇に重ねられる。
サラサラと優しい風が花織と風丸の髪を揺らした。しばらくするとどちらともなく、二人はお互いを見つめる。と同時に互いにくす、と笑みを零してしまった。今のシチュエーションが初めて二人が付き合い始めた時に酷似していたことを思いだしたのだ。日が暮れた教室でこんなふうに二人の想いを通じあわせた。ふたりの関係の始まりの時だ。
ふたりはどちらともなく手を取り合う。風丸がふっと花織に微笑みかけた。
「そろそろ戻るか。あんまり戻らないと心配されるかもしれないからな」
「うん」
手を握ったまま、ふたりは仲間たちの元へと駆けだす。決して本気で走っているわけではないのにふたりの速さは他を寄せ付けないようなものがあった。
その姿を何かに例えるならばまさに風、それ以外の言葉は当て嵌まらなかった。
<続く>