脅威の侵略者編 第十八章
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軽い頭痛を感じながら花織はゆっくりと目を開けた。まだ視界はぼんやりとしていて、身体も怠い。目の前に映る灰色が花織の視界を覆っている。
「花織ちゃん!」
秋の声が花織の耳に届く。それと同時に心配そうな秋の顔が花織のことを覗き込んだ。花織は頭を抑えながらゆっくりと身体を起こす。秋と春奈がそっとそれを支えた。
「花織! 目ぇ覚ましたんか⁉」
リカが花織の正面に回り、花織の肩を掴む。花織はハッとして周りを見回した。ここがどこかわからなかったのだ。だが周りの景色をみて確信する。ここは雷門中のグラウンド、そして今目の前で始まろうとしているのは……。
「大変や、風丸が‼」
「……」
フィールドに立っているのはイナズマキャラバンの選手たち、そして風丸を始めとした風丸と同じようなユニフォームを身に纏った雷門中サッカー部のメンバーだった。段々と風丸との会話を思い出す。俺たち、彼が言っていたのは彼らの事だったのだ。
「みんな……」
半田やマックスの姿もそこにある。入院中、彼らも力を求めるような発言をしていた。……風丸と同じ理由で皆エイリア石に手を出したというのだろうか。でも、どうしてこんなことに
「大丈夫?いったい何があったの?」
秋が心配そうに花織のことを覗き込む。花織は首を振った。花織も秋たちを見つめる。
「私のことはいい。……それより今の状況を教えて」
震える声で花織が秋に頼む。その時、試合開始を告げるホイッスルの音が鳴り響いた。
❀
彼らは風丸が率いるエイリア学園最後のチーム、ダークエンペラーズと名乗ったらしい。星の使徒研究所からこっそりとエイリア石を持ち出した吉良の秘書であった研崎。彼がエイリア石の力を何倍にも高める研究を施し、劣等感を抱えていた風丸たちに甘言を吹き込みそれを与えたのだという。そして彼らを究極のハイソルジャーだとのたまった。
風丸たちは自分たちの意思で雷門イレブンに勝負を挑み、断れば学校を破壊すると脅し、今に至るという。
秋たちの説明を受けて花織は胸苦しい気持ちだった。何がそんなに彼を変えてしまったのか。これもエイリア石の力なのだというのだろうか。
花織は尚も秋の話を聞きながら風丸に視線を向ける。似合わないユニフォーム、これほど彼のユニフォーム姿にときめかないのも初めてかもしれない。風丸は花織の視線に気づくとフッと微笑を口元に浮かべた。花織の好きな彼の笑顔ではなかった。
雷門側のキックオフで試合が始まり、今は円堂がドリブルで切り込んでいる。が、風丸にすぐにボールを取られてしまった。花織は目を見張る。彼のスピードは今までとは比べ物にならない。次は鬼道と土門が風丸を止めに走る。
「無駄だ、疾風ダッシュ‼」
まるでそれは瞬間移動だった。花織は目を擦る、風丸の動きがほとんど見えなかった。あれが疾風ダッシュ? 花織は困惑する、今の風丸のプレーは花織の知る彼のプレーではない。それどころか走る際のフォームすら違う。ディフェンダーの壁山目掛けてボールを蹴りつけるところなども彼らしくない。
花織は悲痛な表情を浮かべて目を伏せる。花織が知り尽くした風丸のプレーはどこにも見当たらない。花織はそれがとてもショックだった。
……私の知っている一郎太くんじゃない。
いつもなら、彼を見ているだけで楽しいのに今はひたすらに胸が痛い。
だがプレーが違うのは決して彼だけではなかった。他のメンバーもいつになく攻撃的で、パワーが格段に上がっている。ジェネシスとの試合を終えて実質地上最強となったはずの雷門イレブンの技やプレーを軽々と止めた。きっと彼ら自身もパワーアップしていたのだろう、それをエイリア石が人間離れしたものへと跳ねあげた。
先取点はダークエンペラーズだった。闇野のダークトルネードが木暮と綱海を。染岡がワイバーンクラッシュを、吹雪を吹き飛ばして得点を叩き込む。ゴールには至らなかったが半田と松野もレボリューションVという技をゴールに向かって放った。
花織は風丸を見つめている。胸の中にあるぞわぞわとした感覚、風丸のプレーを見ていると落ち着かなくて、息が苦しくなる。
「絶対に通さない、この試合勝って見せる‼」
リベロの円堂が風丸を止めるべく風丸のマークに付く。風丸は自慢の速さで円堂を抜き去ろうとしたが円堂は何度も風丸の行く手を阻む。しつこく、粘り強い円堂のマークに風丸が苛立ったような表情を見せた。
「邪魔だ‼」
「……っ!」
風丸が円堂をボールで吹き飛ばす。花織は思わず立ち上がってしまった。今のプレーは、いくらなんでもあんまりだ。風丸の行動に花織はぶるぶると手を震わせる。風丸がそれに憤慨した綱海すらも突き飛ばした姿を見て、花織は唇をぎゅっと噛みしめた。
その後、雷門イレブンが何とか二点を返したが、ダークエンペラーズも一歩も引かなかった。むしろシュートを打つ回数が増え、チームのメンバーで立向居をサポートすることになり力強いシュートに選手が倒れていく。
「もう邪魔する者はいない‼」
風丸が嗤い、染岡、マックスとの連携技ダークフェニックスを叩き込んだ。強大なパワーでシュートは叩き込まれ、ダークエンペラーズに三点目が追加された。ダークフェニックスによって負傷した立向居、そしてそのカバーに入った円堂に風丸は冷たく言い放つ。
「どうする円堂?まだ続けるのか」
風丸は仁王立ちしてフィールドを振り返る。フィールドにいる雷門の選手は立ち上がれないほど傷つきボロボロになっている。風丸や他、ダークエンペラーズの選手たちはそれを見てニヤニヤと笑っていた。
「見ろ、あの無様な姿を。もう諦めろ」
「諦めない、諦めないぞ! ゴールは俺が守る‼」
風丸の見下したような言葉に円堂が叫んだ。ここでホイッスルが鳴る、前半が終了しハーフタイムに突入した。後半はおそらく立向居に代わって円堂がゴールを守ることになる。雷門は完全にダークエンペラーズに押されていた。
「……」
雷門のベンチに戻ってくる選手たちはダークエンペラーズの選手たちの猛攻によって消耗され、歩くのがやっとのようだ。恐らくハーフタイム内で体力は回復できないだろう。逆にダークエンペラーズの選手たちは余裕そうな表情をしている。
「花織先輩?」
選手たちにタオルを配りながらもダークエンペラーズ側のベンチの方をずっと見つめていた花織がタオルを置いてベンチを離れた。音無が声もなくふらりと歩き出した花織に気づく。花織は静かにダークエンペラーズ側のベンチへ歩み寄った。俯き、一歩一歩あちらのベンチへ向かっていく。それに気づいた風丸が振り返って花織に微笑んだ。
「どうだ、花織。強くなっただろ?」
自信に満ち溢れた表情で風丸は花織の元へと歩み寄る。風丸の言葉に花織は胸が締め付けられるように痛んで、ぐっと奥歯を噛みしめた。
「俺はもう、誰も寄せ付けないスピードを手に入れた。見ただろ、俺の圧倒的な速さもパワーも。……地上最強のイレブンだか知らないが、俺たちの力の前ではあれほど無様だ」
クックと喉を震わせて風丸が嗤う。花織は顔を上げた。エイリア石の力だろうが何だろうが関係ない。仲間をこんなふうに嘲けり笑える、今の風丸に花織は苛立ちを覚えた。細い眉が顰められる。
「……っ」
パン、と乾いた音が空に響いた。
突然の出来事に雷門イレブンもダークエンペラーズの選手たちもぽかんとしてふたりの様子を見つめていた。風丸は驚いた様子で花織のことを見つめている。彼女は唇を噛みしめ、手を振り切ったような姿勢をしていた。彼はジンジンと痛む左頬にそっと手をやった。……今の、花織が?
「……どうして?」
「花織……?」
風丸が困惑した表情で花織を見つめた。どうやら花織に頬を引っ叩かれたようだが、風丸にはその理由が分からなかった。花織は目にいっぱい涙を溜めて風丸を睨む。周囲は沈黙して二人のやりとりを見ていた。
「どうして貴方が、そんなことを言うの?」
「……」
風丸の髪が動揺と共に揺れた。花織の言葉に困惑したふうに風丸は何も言えず、彼女を見ていた。花織はこぶしを握る。
風丸がここまで力に固執し、エイリア石に手を染めてしまったことには花織にも一部責任があるかもしれない。彼を追い詰めたのはきっと花織の存在も関係あるのだろうから。
花織だって否定はしない。風丸がフィールドを誰よりも速く走る姿が見られれば、もちろん嬉しい。でもそれは誰かから与えられた力によるものでなければの話だ。
花織の知っている風丸はとても努力家で真面目な人だ。円堂たちとの特訓に毎日はげみ、花織との練習にも付き合ってくれて。いつだってどうすればもっと速く走れるのかを一緒に試行錯誤していた。花織はかつての自分と同じように、速く在るためにはどうすればいいか、真剣に考え練習に励む風丸が好きだ。そしてその結果として彼がピッチで誰よりも速く走ることができるのであれば一番いい。
それに決して速くなくたっていいのだ。風丸は初めて花織の隣で走ってくれた人だ。彼と一緒に走ることが花織にとっての楽しみだった。強いも弱いもどうでもいい、ただ風丸と一緒に走ることができるのならば。
「私は強さなんてどうでもいいよ。弱くたって一郎太くんと一緒にサッカーができれば、隣を走ることができればそれでいい」
風丸を見据えて静かに告げる。だが風丸の方も納得がいかなかった。弱ければ何も守れない、戦力にもならない。ただ永遠に辛酸を舐めさせられるだけ。風丸は強くなりたかった、自分自身のアイデンティティを守るため、他の誰でもない花織の為に。
「……でも、それじゃお前を守れなかった。エイリア学園を倒すこともできず、ただ負けを重ねるだけ。それに、お前が好いてくれたスピードを維持できなかったら意味がないんだ」
「私は、足が速いから一郎太くんを好きになったんじゃないよ」
花織は息をついてじっと風丸を見る。彼女の瞳は達観したかのようだった、落ち着きを払って堂々としている。もちろん、彼女は彼の一部分として彼の足の速さも彼の良い点として認め、好きだと思っている。だが彼に興味を持つきっかけだとはいえ、足が速いから彼を好きになったわけではない。
花織が風丸を好いた理由は、彼がどこまでも優しい人だったからだ。女子である花織をよきライバルとして認め、共に走ってくれた。鬼道が好きだからと一度は風丸を拒絶した花織に手を差し伸べ、忘れさせるからと傍にいてくれた。彼はいつだって花織を想って優しくしてくれた。それだけではない。
風丸は、廃部になりそうなサッカー部を助けたいと言い、花織の反対も振り切ってサッカー部に助っ人として参加した。帝国との試合では身を挺して円堂を庇った。面倒見がよく、後輩たちにも慕われていた。誰にでも優しく接することのできるその彼の人柄に何より花織は惹かれたのだ。
「私は一郎太くんの速さだけを好きになったんじゃない。私が貴方を好きになったのは、貴方がどんな時でも優しくしてくれたから。廃部になりそうなサッカー部を救うため、なんていって助っ人に行ってしまうような仲間思いの人だったからだよ。私は真面目で努力家で、仲間思いで……。そして私と一緒に走ってくれた風丸一郎太が好き」
花織は静かな声で宣言すると同時に堪えられず涙を零した。彼女の目から零れた一筋の涙が彼女の頬を伝っていく。彼女は一度目を伏せ、再び風丸を目に映す。その瞳には彼に対する怒りが浮かんでいた。
「だから、今みたいに努力してきた仲間を嘲り笑って、簡単に努力を否定してしまう一郎太くんは嫌い。……大っ嫌いよ」
「……っ」
風丸の瞳が大きく見開かれた。風丸は今自分の心が明らかに揺らいでいるのを感じていた。エイリア石で得た力を持てば自分は無敵だと思っていた。強さこそがすべてであると。段々と自分が間違っているのではないかというような感覚になってくる。
「俺は……」
俺は強くなりたかった。でもそれは何のためだったのだろう。宇宙人の侵略を阻止するため、すなわち仲間や家族を守るためだ。目の前にいる、自分を見つめて涙を流す花織を守るため。しかしそれは名目でしかない。
単純に、誰よりも速く在りたかった。円堂の様な強い人間でいたかった。劣っている自分が悔しかった。
でもそれは花織を、仲間を傷つけてまで得たかったものなのだろうか。
「一郎太くん」
花織が彼の名を呼び、静かに風丸の左手を取った。彼女はそれをぎゅっと両の手で胸元に抱きしめ風丸を見つめる。意志の強い、自分を大切に思ってくれているのだとわかる黒い瞳。
「お願い、……目を覚まして」
「……花織」
きらりと彼女の胸元に飾られたペンダントが煌めく。それは紛れもなく、他でもない風丸自身が花織へ贈ったものだ。彼女は自分を信じ、ずっと風丸を待っていてくれたのに。
風丸が花織に右手を伸ばそうとする。だがその間に顔を顰めた研崎が割り入って花織を突き飛ばした。
「きゃっ!」
花織は思わずその場に尻餅をつく。その際に風丸の手を離してしまった。風丸は花織に手を伸ばそうとしたが研崎に止められる。
「何をこんな小娘の言葉で動揺しているんですか⁉ 貴方はエイリア石を得た、選ばれし者。もっともっと貴方の力を見せつければ、この娘も理解するはずですよ!」
研崎が風丸に向かって叫んだ。その言葉と共に風丸の胸元から紫色の光が溢れる。エイリア石の光だ。その人を魅了する光は花織の説得によって揺らぎかけた風丸の心を再び悪い方向へと落ち着けようとしていた。
「そうだ……。花織は分かっていないだけだ。エイリア石の力を」
「一郎太くん‼」
花織が立ち上がって風丸の名を叫んだ。彼の元へ駆けだそうとしたが、そんな彼女の手を研崎の部下である黒服が掴んだ。研崎は風丸に背を向け、花織を振り返る。黒服に両脇を固められた花織に研崎は忌々しげな目を向ける。
「やはり貴女はハイソルジャーの心を乱す因子になりましたね……。ジェネシスとの戦いの前にこちら側へ引き込んでおくべきでした」
研崎が花織を睨みながら呟く。その研崎の言葉に今まで呆然と二人のやりとりを見ているしかなかった鬼道がハッと我に返る。気が付いたのだ、先日花織を誘拐しようとしたエイリアが誰の差し金で花織を襲ったのか。
「……っ! じゃあ花織を誘拐しようとしていた奴らは!」
「そうです。この娘は風丸くんの心を揺るがす存在、いわば邪魔だったのでね。まあ、今からでも遅くはない」
研崎は花織に近づき花織の目の前にエイリア石を翳した。花織は黒服から逃れようとみもがいていたが、急に反抗をやめる。魅力的な紫色の光に釘付けになったのだ。呆然と花織はエイリア石を見つめる。神秘的で怖いくらい綺麗だった。
「貴女にもわかるはずです、エイリア石の素晴らしさが。この力を持てば風丸くんは貴方の元へ戻ってきますよ」
甘い囁き、これを手にすれば風丸が戻ってくる。そう思うと無性にこの石が欲しかった。いや、そうでなくてもこれほど魅力的な石に手を伸ばさずにいられるだろうか。花織の瞳が徐々にぼんやりと光を失っていく。
「……一郎太くんが」
花織はぼうっとした様子で魅せられたようにエイリア石に釘づけになっている。鬼道は背後から花織に何が行われようとしているのかに気づいて駆けだした。研崎は花織を洗脳する気なのだ。風丸の心をかき乱されることが無いように。
「やめろ‼ 花織に手を出すな!」
だが鬼道よりも速く花織をエイリア石から遠ざけたのは風丸だった。風丸は目にもとまらぬ速さで花織の身体を黒服たちの拘束から解放した。風丸はまだ少しぼんやりしている花織を鬼道の傍で手放すと背を向け、ダークエンペラーズ側のベンチ側で困惑している研崎を見た。鬼道はすぐさま、その場に尻餅をついた花織の身体を支えた。
「花織には俺が力で証明する。……力を得ることの素晴らしさを」
背を向けながら風丸は研崎の方へと向かって歩き出す。花織の言葉に揺らいだように感じたが、ダメだったか……。鬼道は眉間に皺を寄せて風丸の後姿を見る。
そんな鬼道の支えを受けて我に返った花織は立ち上がる。花織は風丸の背中を見据えて大丈夫です、と鬼道に言った。
「花織……?」
「一郎太くんなら、わかってくれます。……大丈夫です」
花織は胸に提げている彼からの贈り物を握り締める。今話してみて分かったのだ、そして今の一連の行動の真意も。彼ならきっとわかってくれる。きっと、いや絶対に。
花織は風丸のことを信じている。