脅威の侵略者編 第十八章
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キャラバンの修理も終わり、一行は稲妻町へ向けて出発をした。あともう10分もすれば高速を降りて、見慣れた街並みが見えるようになるだろう。まずは雷門中学に戻るのか、と思いきや円堂が入院している半田たちに会いに行こう、と提案した。仲間たちはそれもそうだ、と円堂の意見に賛成する。何しろ半田たちだって共にエイリアと戦ってきた仲間なのだから。
花織は豪炎寺や吹雪と談笑していた。これから戻って何をしたいかや、豪炎寺の妹の話など。先刻吹雪の告白を受け止めた花織だったが、吹雪との仲にはあまり変化を持たせていない。吹雪は、以前鬼道がそうしたように仲間でいることを花織に望んだからだった。
そうして三人が話をしていると花織の携帯が着信を知らせた。もしかして……。花織は携帯の着信音に少し期待する。花織は急いでポケットから携帯を取り出した。そして画面に表れている相手の名前を確認して目を見張った。
"風丸一郎太"
「もっ、もしもし……」
花織は慌てて通話ボタンを押して携帯を耳に当てた。彼の名前を見た瞬間に心臓が飛び上がるほど大きく音を立てた。若干の緊張のせいで声も上ずってしまう。花織は胸の高鳴りを抑えて彼の言葉を待った。
「花織」
電話越しにいつも通りの落ち着いた彼の声が聞こえた。久しぶりに聞いたその声に、花織は言葉に詰まってしまう。たった数週間、会っていなかっただけなのにこんなに彼の声を懐かしく思うなんて。久々に彼に名前を呼ばれ胸がいっぱいになる。
「……一郎太くん」
花織が呟いた名前に隣に居た豪炎寺や吹雪、その周囲の人間が反応した。花織は携帯を持ち直して彼の声に耳を澄ませる。
「今どこにいるんだ?」
「まだキャラバンの中……。あともう五分くらいで稲妻町に戻るよ」
花織が窓から見える道路の標識を見ながら風丸の問いに答えた。彼はそうか、と返答して一呼吸置く。そして静かに花織に花織に語りかけた。
「花織とふたりきりで会いたい。サッカー部の部室で待ってる」
「あ……っ」
風丸はそれだけ言うと通話を切ってしまった。ツーツーという携帯の通話が切れてしまった音が花織の耳に届く。花織は携帯を閉じて静かに彼の言葉を反芻した。二人きりで会いたい、サッカー部の部室で待ってる。
……半田くんたちには悪いが、先に彼に会いに行こう。
花織はぎゅっと携帯を握り締める。今は彼を優先させたい、というよりも花織が風丸に会いたいという気持ちが強かった。幸いにも稲妻総合病院から学校まではすぐであるから歩いて学校まで戻れるだろう。
やっと一郎太君に会えるんだ……。
花織は喜びに綻ぶ口元をぎゅっと結んで堪えた。早く到着してほしい、その一心で。
円堂に風丸から連絡があったことを伝え、花織は一足先に雷門中学へと戻った。円堂は花織の説明に対して、自分たちは後から行くからすぐに行ってこいと言ってくれた。結果的にふたりきりにしてくれたのは円堂が図ってか図らずかはわからないが。
雷門中はもう立て直し工事が終わり、すっかり校舎は元通りになっている。花織は校舎を眺めるでもなく部室へ向かって駆ける。はやる気持ちを抑えながら花織はきっと同じように元通りになっているであろう部室へと急ぐ。やっと彼に会える。花織は勢いよく部室の扉を開く、鍵はかかっていなかった。
「……っ」
中で待っていてくれる彼の姿を見つけて、思わず目頭が熱くなった。言いたいことが一杯あったはずなのに言葉が出てこない。青い髪、茶色の瞳、頼もしい笑顔。ぎゅっと胸が締め付けられるような感覚。幻覚ではなく間違いなく彼がここに居る。ずっと会いたかった、戻ってきてくれることを誰よりも待ち望んでいた。
「花織……」
風丸が微笑んで花織に対して軽く手を広げる。花織は彼の腕の中へと飛び込んだ。強く強く花織を押しつぶしてしまうのではないかというほどの力で風丸が花織を抱きしめる。花織は変わらない彼の匂いと優しい瞳に安堵した。
……変わらない?
「一郎太くん……?」
風丸の胸に手をついて風丸の顔を見ようと少し風丸から上体を離す。先ほどは夢中で分からなかったが、どうしてこんな妙な黒いローブを着ているのだろうか。それに、何か違う。いつもの風丸と、何が違うかは分からないが何か決定的に違うものがある。
「花織」
花織が風丸に疑問を伝えようとしたが、それより早く風丸が花織の後頭部を抑え、花織に噛みつくように口づけを施した。酸素を絡め取られて、花織は風丸にしがみ付く。花織のすべてを支配し、奪うようなキスに花織の瞳が生理的に潤む。大好きな風丸との口づけ、それなのにやっぱり何か違う。いつもの風丸らしくない。
風丸とのキスは基本的には軽く口づけるようなものが多い。時折風丸が花織を求めるようなものを施すこともあったが、それにはそれなりの理由があった。それにそのときだって花織を愛おしみ、花織が自分の手の中にあることを喜ぶような目で彼は花織を見ている。
この加虐的に色づく瞳を以前にも見たことがあるが、あの時の瞳とは違う。あの時の彼はこんなに冷たい目をしていなかった。
「……はっ、一郎太、くん」
花織が苦しげに息を吐く。風丸はそのまま花織の首筋に唇を這わせていく。されたことの無い行為に花織は思わず声を漏らした。花織はそのくすぐったさに風丸のローブを掴む。風丸はそのまま花織の制服のリボンを解こうとした。
「い、いやっ……」
花織は慌てて風丸を突き飛ばした。今日の彼はやっぱり変だ。花織は風丸から距離を取る。風丸は俯いてフフフ、と笑いを零した。そしてゆっくりと彼は花織に歩み寄る。風丸から得体の知らない恐怖を感じた。
「花織、どうしたんだ?」
猫なで声で風丸が花織を呼ぶ。手を差し出しながら花織に静かに歩み寄った。その表情には薄らと笑みを浮かべていて、やはりいつもの頼もしい笑顔を見せている彼とは違っている。
「久しぶりに会ったんだ。それにお前だって、俺に会いたいとずっと連絡をしてきたんじゃないか」
一歩一歩彼がにじり寄る。花織は思わず半歩後ずさってしまった。どうして今日の風丸をこんなに怖いと思ってしまうのだろう。あれほど会いたいと、ずっと望んでいたのに。花織は部室の入り口付近まで後ずさる。風丸は花織に手を伸ばして妖艶に微笑んだ。
「ほら、花織こっちに来い」
「……嫌。今日の一郎太くん、いつもと違う」
花織は風丸に向かって自信なく呟いた。風丸は花織の言葉に一瞬きょとんとしていたが、すぐにまたどこか不気味に微笑む。
「違う? フフ、当たり前だろ。お前の為に強くなって戻ってきたんだから」
そう言いながら彼はにやりと口元を歪めた。風丸は自分の結っていた自分の髪をほどく。するとサラサラで真っ直ぐなはずの彼の髪の毛先は重力に反してフワフワと浮き上がっていた。花織はそれも気に掛かったが風丸の言葉も気に掛かっていた。強くなって戻ってきた? いったいそれはどういう意味なのだろうか。
「……強く?」
「そう。俺は誰よりも強く、大いなる力を手に入れた。もう花織を幻滅させることもない、俺が花織にとっての一番で在り続けられる」
風丸は花織との距離を詰め、花織の頬を愛おしげに撫でた。普段なら嬉しいはずの行為が今日は恐怖しか感じない。だがどうにも風丸の言葉に引っ掛かりを感じる。大いなる力を手に入れた。まるで自分で得た力ではなく、第三者から与えられたものであるかのような……、そんなニュアンスが感じられる。それにマントの下に除く、ユニフォームのような衣装。何となく彷彿とさせるものがある。
「大いなる力って……、何の事なの?それにその格好って」
「……フフ」
風丸は花織に微笑みかけ、じっと顔を寄せる。花織は自分を抱き寄せる風丸の手に抵抗できないでいながらも、何か嫌な予感を感じていた。ふと視線を落とした彼の首元に紫色の光が見える。この光にはどこか見覚えがあった。
「……エイリア石」
「なんだ知っているのか、花織」
風丸は愉快そうに笑い、胸元からペンダントのようにして吊り下げたエイリア石を取り出した。人を惑わせるような強い光を放つ美しい石。風丸はそれを掌に乗せるとうっとりとした表情で語り始めた。
「このエイリア石に触れた時、力が漲るのを感じた。求めていた力が」
「求めていた、力……?」
花織の瞳が困惑と絶望に色づく。感じていた違和感はこれだったのだ、この人は花織の好いている風丸一郎太ではない。エイリア石を見つめ狂気に満ちた微笑を浮かべるこの人は、花織が愛している人ではないのだ。
「俺は強くなりたかった。強くなりたくても自分の力では超えられない限界を感じていた。……力が無いせいでお前をエイリアとの戦いに参加させなければいけない、みすみす危険な目に合わせなければならない。お前を守れない自分に落胆していた。……そして誰よりも速くフィールドを駆ける俺が好きだと言ってくれたお前に答えることができない」
花織はぎゅうと拳を握る。今にも泣きだしそうな表情をして風丸を見つめた。彼を追い詰めてしまったのはやはり私だったのだ。真面目な彼は自分の一言一言や責任を重く受け止めてずっと苦しんでいた。花織は風丸の嬉しそうな表情を見ながらそう感じていた。
「でもエイリア石が信じられないほどの力を与えてくれたんだ。俺のスピードとパワーは桁違いにアップした。……もう誰にもスピードで負けやしない」
風丸はそういってエイリア石を胸元に落とした。そして花織を見つめながら妖艶に微笑む。
「俺たちはこれから雷門イレブンに勝負を挑む。俺たちの力を証明してみせる。……お前の傍にいるに相応しいのは誰か証明するんだ」
「……っ。やめてよ! そんなことをして、いったい何になるの? エイリア石の力に頼ったって、そんなの何にもならないよ。……そこまでして得た強さで守られたって、私は嬉しくない」
花織は風丸のマントを掴み訴えかけるように言ったが、風丸は花織の言葉に呆れた様にため息をついた。花織、と彼女の名を呼んで花織の頬を撫でる。彼の瞳は花織を見つめていたが、その中にも静かな狂気が存在しているように感じられた。
「それはお前がエイリア石の素晴らしさを知らないから言えることだ。……俺の強さを見れば花織も考えを改めるさ。花織だって誰よりも速くフィールドを支配できる俺が好きだろ?」
「……一郎太くん」
違う、とは言い切れない。彼が試合をする中で彼のスピードで相手を圧倒する姿を見るのは花織の楽しみだ。でも根本的に違う。風丸の足が速いから風丸を好きになったわけではない。花織はそれを風丸に諭そうとする、だがその前に気が付いてしまった。風丸はさっきなんて言った?"俺たち"はこれから雷門イレブンに勝負を挑む。……俺"たち"?
「……ちょっと待って一郎太くん、俺たちって……」
「直にわかるさ」
その時花織の首元にびりっとした感覚が走る。その衝撃で花織の視界は揺らいだ。全身の力が抜け、ふっと意識がなくなるのを感じながら風丸の方へと花織の身体は倒れていく。風丸は花織の身体をしっかりと受け止めると花織の耳元に囁き掛けた。
「その言葉の意味も、俺の強さも。……分からせてやる」
風丸は強く花織の身体を抱き寄せる。優しく、愛おしげに。
❀
一方その頃、雷門イレブンはようやく雷門中学へと到着していた。彼らは半田たちに会うため稲妻総合病院へと向かったが、彼らの姿は無かった。看護師に確認してみるとリハビリに出ているんじゃないか、という曖昧な答えしか返ってこず、もしかしたら雷門中へ来ているのではないかと思い結局彼らも雷門中へとやってきたのだ。
雷門の上空はどこか薄暗く、辺りは霧の様なものに包まれている。そして人の気配が全くない。理事長からの電話で雷門イレブンの勝利を、学校を上げてお祝いするという連絡があったのだが、その気配すらない。
「妙だな……」
鬼道が呟く。この空間だけがどこか孤立していて、陰鬱な雰囲気を感じさせる。何か悪いことが起こる様な嫌な予感も。ふとその時鬼道はベンチに誰かが横たわっているのを目の端に捕えた。どこか見覚えのあるその姿に鬼道は歩み寄る。
「鬼道?」
円堂が急に歩き出した鬼道の名前を不思議そうに呼ぶ。鬼道は歩を進める度にベンチに横たわっているのが誰なのかを確信した。彼の足取りは次第に早くなり、ベンチの傍に跪いた。
「花織……!」
「えっ、月島?」
仲間たちがどよめいた。彼らは花織が風丸からの連絡を受けて一足先にこちらへ来ていることは知っていた。その花織がどうしてグラウンドのベンチに横たわっているのだろうか。鬼道は目を伏せている花織の身体の上体を抱え上げる。彼女は気を失っているようだった。
「花織っ! 花織……っ!」
花織、と何度も鬼道が彼女の名前を呼び、身体を揺さぶるが返事はない。彼女は力なくぐったりと倒れ込んでいる。
「どうして花織さんがこんなところに……?」
ぞろぞろと集まり始めた仲間の中で吹雪が心配そうに花織のことを覗き込みながら言う。鬼道は花織の表情を見ながら何が彼女に起こったのかを推測した。この雰囲気といい、花織が気を失ってこんなところにいることといい、嫌な予感が増幅してならない。その時雷門イレブンの背後から声が響いた。
「お待ちしていましたよ、雷門の皆さん」
彼らは突然聞こえた声に振り返る。そこには吉良の側近であった男、研崎と黒いマントに身を包んだ十一人の人物が立っている。
「皆さんにはまだ、最後の戦いが残っていますからね」
研崎の言葉にマントを被った人物のうち、一人がゆっくりと円堂の前に歩を進める。そして円堂の前まで歩み寄ると彼は顔を覆い隠しているフードを取り去った。青い髪が、マントの中から姿を現す。イナズマキャラバンのメンバーは衝撃に各々表情を変えた。
黒いマントの中から姿を現したのは風丸一郎太を始めとする、雷門中サッカー部のメンバーたちだった。