脅威の侵略者編 第十七章
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明朝八時、時刻通りイナズマキャラバンは出発した。
昨日あれだけ意見が割れたにもかかわらず、彼らは今朝自分の意思でキャラバンに乗り込んだ。この長かった戦いの意味を知りたい。エイリア学園を倒して、楽しいサッカーができるようにしたい。皆の想いはそれが根本にあった。
花織は昨日の出来事を鬼道には言わなかった。鬼道の頼みに何も言わずに背いた初めての事だった。あんな出来事を鬼道に伝える勇気は無かった。しかしきっとエイリアを倒せばヒロトの真意も分かるだろうと思った。……昨日の彼の宣言は、まるで基山ヒロトを捨てたように感じられた。
今日一日、それですべてが分かり、全てが終わる。
花織は大きく息を吐いた。ちらりと隣に座る吹雪の表情を窺った。昨日は河川敷で練習をすると言っていたが成果はあったのだろうか。彼も何か思いつめたような表情をしている。私に彼の悩みを解決することはできないが今日だってもちろん自分にできることはするつもりだ。花織はぎゅっとこぶしを握る。高速道路の看板をちらと見れば富士山麓まであと十キロメートル。どくんどくんと自らの心臓が響く音が聞こえて、花織は静かに目を伏せた。
富士山麓のおよそ四分の一、そこには大きな黒い円盤状の建物が食い込むようにして建てられていた。まるでUFOを模したような形のそれが恐らくエイリア学園の本拠地であるのだろう。
瞳子が入口の認証パスワードを解除し、エイリアのアジトへとキャラバンは進む。行き止まりで選手たちがキャラバンを降りれば、瞳子は静かにこの場所についての説明を始めた。
「ここは吉良財閥、兵器研究施設」
瞳子の告白、そして警備兵を乗り越え到達した部屋で語られたエイリア学園を統べる彼女の父、吉良星二郎の話。この二つによりエイリア学園の衝撃の真実が明らかになった。
このエイリア学園の本拠地の正式な施設名は、吉良財閥の兵器研究施設。自らの作りだした兵器で世界を支配しようと目論んでいる吉良財閥の総帥、吉良星二郎が建てたもので、雷門イレブンの監督である吉良瞳子はその男の娘だという。
そして吉良はエイリア学園の存在を揺るがす言葉を口にした。何とエイリア学園の者たちは実は宇宙人ではないという。
全ては五年前に飛来した隕石に始まったのだという。富士山麓に落下したその紫色の隕石、名称エイリア石から、人間の力を一部強化する物質が発見された。吉良財閥はそれを有効活用するすべを研究し、そしてエイリア石によって人間の身体能力を飛躍的に強化することに成功したのだという。
そして吉良は財前総理にはこの石を使って強化された人間を作りだす計画を提案した。ハイソルジャー、人間を戦うマシンに作り変えてしまう計画を。だが総理はこの計画を撥ね付けた。それを恨んだ吉良が財前総理にハイソルジャー計画の素晴らしさを理解させるための手段がエイリア学園なのだという。吉良は財前総理が好きなサッカーでハイソルジャーの素晴らしさを知らしめようとしたのだ。
即ち、エイリア石の力で身体能力を強化された子供、それがエイリア学園の正体だ。
瞳子はその計画を阻止しようとして雷門の監督になった。吉良はそれを見越して雷門がジェネシスの良い対戦相手になるまで待っていたのだという。その時の瞳子の表情は円堂ら雷門イレブンを騙していた人間の表情ではなかった。花織はその時初めて監督を理解した。
この人は目的のためにはどこまでもストイックで、手段を選ばない。そしてとても不器用だ。それでも選手のことを考えていないわけではない。ただそれを上手く表現することが苦手な人なのだと思った。
チームでも監督に対する不信感は払拭されていた。もう監督に対して何を言う気はない。あとは、ジェネシスを倒すだけだ。
❀
最終決戦。長かったエイリア学園との最後の戦いだ。
試合はジェネシスのキックオフで始まった。前回の対戦とは違い、ジェネシスの選手と互角に渡り合うことができている。ただシュートが決まらない。キーパーのネロを豪炎寺の爆熱ストームを持ってしても破ることができなかった。
その後雷門のこぼれ球を拾ってグランが流星ブレードを放つ。パワーアップしたムゲン・ザ・ハンドが破られ、グランのシュートがゴールに突き刺さる。先取点はジェネシスだ。
ムゲン・ザ・ハンドが破られたことで選手は動揺した。勝てないのではと揺らいでしまった。しかしそれを瞳子が立ち直らせた。今まで選手を叱咤激励することの無かった監督が、初めて選手に言葉を掛けた。
それによってピッチにいる選手たちは奮い立つ。そしてフィールドにいる選手たちの奮闘に吹雪は身体を震わせていた。そして彼は、ようやく立ち上がる。
「監督! 僕を試合に出してください!」
「……士郎くん」
彼の隣に座っていた花織も驚いて目を見開いた。吹雪はこぶしを握っていつになく大きな声で監督に頼み込む。
「僕もみんなの役に立ちたいんです!」
ボールが怖いと言っていた、アツヤが出てきてしまうのが怖いと言ってサッカーから遠ざかっていた吹雪が自分の意思でピッチに出ることを望んだ。瞳子は頷く、ホイッスルの後に吹雪とリカの交代を叫んだ。花織は靴ひもを結びなおしている吹雪の元へと歩み寄る。
「……花織さん」
吹雪は立ち上がる。その表情には硬い決意が見えたが、同時にどこかまだ何かに怯えているような色も見えた。花織は吹雪を見つめる。吹雪を見つめ、彼に一言だけ言葉を託した。
「見てるから。……士郎くんのプレー、ちゃんとここで」
普段なら絶対に風丸にしか花織が言わない言葉。それを吹雪に投げかけた、この試合がきっと吹雪にとって大事な試合となる。エイリア学園に勝つためには吹雪の力が必要不可欠なのだ。
花織は吹雪のプレーを集中して見つめていた。こんなに誰かに焦点を当てて試合を見るのは風丸が去ってから一度もなかった。でも今は彼の選択を見届けなければならない。
吹雪は交代してすぐにシュートチャンスを得てエターナルブリザードを放った。しかしそれはキーパーのネロに止められてしまう。士郎の必殺技、アイスグランドもジェネシスには通用しなかった。
――――完璧にならなきゃいけないのに……っ。
技を破られ吹雪は呆然と立ち尽くしてしまう。ボールをトラップミスし、ラインの外へ出してしまった。その吹雪のミスに豪炎寺からボールと叱責が飛んだ。お前にはあの声が聞こえないのか、と。再び自信喪失しかけていた吹雪は泣き出しそうな目で顔を上げた。
――――声なんて……。
士郎はそう思う、そしてピッチにいる仲間を見た。皆が一生懸命相手のボールを奪い、ドリブルでここまで駆け抜けてきた。皆が僕に繋いでくれようとしたボール。決してピッチで戦っているのは僕一人ではない。吹雪はベンチを振り返るそこには自分を見つめ、自分のことを信じてくれている花織の姿がある。一人じゃないと自分に言い続けてくれた彼女の姿が。
それを思い、吹雪は漸く気が付いた。
――――僕には仲間がいる。いつでも僕の周りには仲間がいる。
先日豪炎寺が河川敷で言ったことを思いだした。"俺は完璧じゃなくてもサッカーたのしいぜ"
僕自身が完璧になる必要はない。ましてや僕がアツヤになる必要はない。お父さんが言った完璧というのは仲間と一緒に戦うこと、そして一つになることなんだ……‼
暗闇の中に一筋の光が差した。その光は吹雪を包んで温かく光る。優しい温かい光、それは円堂を始めとするチームの皆だ。
(そうだ、兄貴はもう一人じゃない)
頭の中にアツヤの声が響く。吹雪は瞬間的に悟った。……僕の中のアツヤはきっとそれに気づいていたんだ。彼は宙を舞うボールを見上げ、地面を蹴った。心の中には温かく柔らかなものが満たされているような感覚がある。彼はやっと見えた真実を心の中で反芻する。
僕が気づけなかったから心配でどこにも行けなかったんだね。 ……君はとても優しいから。
――――でも君はここに居る。 アツヤを感じることができなくたって心の中に居る。
吹雪はマフラーに手を掛ける。大丈夫だよ、アツヤ。僕は仲間と一緒に完璧を目指す。その思いを胸に彼はマフラーを宙に放った。
❀
吹雪は自分を縛っていた鎖を漸く解き、チームはまた一つになった。彼が放ったウルフレジェンドという必殺技によって一点を奪い返した。
仲間を想う力は彼らをレベルアップさせた。吹雪だけではない、立向居も他のチーム全員も仲間が一丸となり、それぞれを想いあう力によって自らの力を強化させた。その力はリミッターを解除したジェネシスの力をも防ぎ、雷門はジェネシスを打倒し、とうとうエイリア学園に対して勝利を修めたのであった。
この試合を通して仲間の素晴らしさはジェネシスの皆にも伝わり、吉良星二郎も雷門の勝利に心の力を感じ、ジェネシス計画の間違いを認めさせた。そしてこのジェネシス計画というのは悲劇から作られた計画であったことが吉良の口から語られた。
吉良にはヒロトという息子がいた。とてもサッカーが好きで、将来の夢はサッカー選手という息子。しかしその息子はサッカー留学させた海外の地で謎の死を遂げたのだという。吉良は息子の死の真相の解明を求め、何度も警察に掛け合った。しかし事件に関与していたのが政府要人の一人息子ということもあり、その事件はもみ消されたのだという。
そして生きる気力を失った吉良におひさま園という身よりの無い子供たちの施設を瞳子が勧めた。子供たちの笑顔を見て、彼の心は癒されていった。だがエイリア石の飛来によってすべてが変わってしまった。
吉良はエイリア石の魅力に取りつかれ、心の奥底に眠っていた復讐心を呼び起こした。息子を殺した者どもに復讐してやるのだという気持ちを。
おひさま園の子どもたちも、きっとそれを拒否できなかっただろう。
花織はその話を聞きながらヒロトを見ていた。彼が先日言っていた言葉を思い出す。大切な人の為なら何でもできる。きっと彼は吉良のことを思っていたのだろう。ヒロトは特に吉良の息子に似ていたからヒロトという名前を付けられたのだという。彼にとって吉良は本当の父親以上の、自分にとって絶対的な存在だったはずだ。もちろん他のエイリア学園の子どもたちにとっても。
だからヒロトは基山ヒロトを捨て、グランになることをあの日決意したのだろう。自分が愛されたいと願う父親の為に。
それが、エイリア学園という存在を作り上げた悲しい事実であった。