脅威の侵略者編 第十七章
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その晩、花織は自室で考え事をしていた。監督とエイリアの事、ヒロトの事、吹雪の事、そして風丸の事……。彼女には考えるべき事が多くあった。
ただ明日富士山麓へ行く決心はできている。行かないという選択肢は彼女の中にはない。
円堂の言うように真実を知るために、吹雪の傍にいるために、そして雷門の一員としてエイリア学園、ザ・ジェネシスとの戦いに参戦し、風丸がサッカーに戻ってこれるようにするために。花織にはその思いがある。もちろん病院で待つ、彼らの為にも明日はたとえどんな立場での戦いになろうともせめて見届けなければならない。
花織はぎゅっと胸に下げたペンダントを握る。一郎太くん、私が貴方の代わりにできることをするから。……だから待っていてほしい。彼を想いただ祈る。花織には祈ることしかできない。
そのとき、コンコンと花織の部屋の窓が叩かれるような音がした。花織は顔を顰め、窓の方へと歩み寄る。この窓はベランダに通ずる窓だが、特に物は置いていなかったはずだ。風で何かが当たったとも考えにくい。そんなことを考えながら花織はカーテンを開ける。そして窓の外に立っていた人物に目を見開いた。
「ヒロトさん……!」
花織は窓の鍵を開けてヒロトを凝視する。一応ここは二階だ。神出鬼没の彼はどこにでも現れるののだろうが、こんなところに出てくるとなるとやはり人間ではないのか、と思わずにはいられない。こんなに人間に似た容姿をしているのに。ヒロトは部屋には入ってこず、その場に立ち尽くしたまま花織に向かって微笑んだ。
「こんばんは、月島さん。こんなところにお邪魔してしまってごめん」
申し訳なさそうにヒロトが微笑む。花織はヒロトのその気さくな話し方に困ったように彼に笑い掛けた。しかし彼のこの態度で確信できる。先日の不審な男たちはやはり少なくともヒロトの差し金ではなさそうだ。でなければこんな態度で花織に会いにくることなどできないだろう。
「今日は君にお別れを言いに来たんだ」
「お別れ……?」
ヒロトに対し何と声を掛ければよいか、言葉に詰まっていた花織はヒロトの言葉に首を傾げた。ヒロトは少し寂しげな表情をして花織を見つめる。
「大切な人の目的のためなら何でもできる。この間の君の言葉、それで俺の心に決心がついたから。……月島さん」
ヒロトは花織の腕を取って花織を自分の胸に引き寄せた。突然のことに反応できなかった花織はバランスを崩してヒロトの胸に倒れ込む。彼は花織を強く抱きよせ、花織の髪に顔を寄せた。花織は一瞬何が起こったのか分からずに呆然としていたが、すぐに我に返るとヒロトの腕から逃れて部屋へと逃げ戻ろうとする。ヒロトは逃げる花織の左腕を掴み、花織を見つめた。
「な、何を……っ」
「好きだったよ、君の事」
寂しそうな表情のヒロトが言葉を紡いだ。花織の瞳が衝撃的なヒロトの言葉に揺れる。ヒロトは花織の左手首に口づけを落すと花織の腕を離した。解放された花織は自分の左腕を胸に抱き、ヒロトから距離を取る。
「ひ、ヒロトさん……?」
一体今のは何だったのか、その一連の行動の真意を聞こうと花織がヒロトを呼ぶ。だが次に顔を上げたヒロトは今まで見たことがないほど花織に対して冷たい表情をしていた。ヒロトは花織を見据えて静かに、先ほどよりも低い声で言葉を放った。
「俺はジェネシスのグラン。……基山ヒロトじゃない」
ぞく、と花織はヒロトと初めて出会った時に感じた得体のしれない恐怖の様なものを感じる。今のヒロトは最近自分に会いに来て、何となく慰めの言葉を呟いていく彼ではないと思った。ヒロトはじっと花織に冷めた目を向けながら続けた。
「これから世界中が変わる、凄いことが始まる。……人間が変わるのさ、人間の歴史がね」
「……ヒロトさん、いったい何を」
花織が困惑した様にヒロトを呼ぶ。ヒロトの言葉の意味が分からない。それにヒロトにもいっぱい聞きたいことがある。花織はヒロトにきちんとした説明を求めたかった。だが彼は花織が呼んだヒロトという名に、彼は険しく顔を顰めた。
「俺はエイリア学園ザ・ジェネシスのキャプテングラン。……基山ヒロトの名前でサッカーはしない」
まるで自分に言い聞かせているような言葉だ、花織は彼の言葉をそんなふうに感じた。ヒロトはそう言いながら踵を返す。そしてベランダの柵に手を掛け、ちらと花織を振り返った。
「それじゃあ明日、待っているよ。……雷門イレブンのマネージャーさん」
その言葉を言い終わると同時にヒロトはベランダの柵を乗り越えた。花織は急いでヒロトがいた場所へと駆け、階下を覗き込む。だが彼の姿はどこにも無く、ただ夜の静かな住宅街の景色だけが広がっていた。