FF編 第二章
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風丸は本当にサッカー部へ行ってしまった。まだ明るい空の下で花織はため息をつく。部活終了後は涼しく晴れやかな気持ちになるのが常なのだが、彼がサッカー部に行くといったあの日からそんな風には感じられなかった。
やはり男子陸上部で女子一人というのは仲介役がいなければ少し厳しい。今までは風丸がそうであってくれたから、花織には男子陸上部にいることに何の不便もなかったのだが、今は少しやりにくい部分がある。もちろん男子陸上部の選手たちは花織に良くしてくれている。
それでも風丸がいるのといないのとでは、全然違う。そうでなくとも風丸と話ができないということが、花織にとって心に影を落とす原因になっていた。もっとも部活以外で彼を避けているのは花織なのだが。
花織自身にもただそれが虚しい行為だということは、はっきりと分かっている。自分の一喜一憂に風丸を付き合わせるというのはおかしな話だ。この一人ぼっちの帰り道も自分自身が作り出したもの。花織は己の行動にため息しか出てこなかった。
「花織ちゃん」
「あき、ちゃん……」
背後から声をかけられて花織が振り向くと、ジャージ姿でサッカーボールを抱えている秋がいた。サッカー部はまだ練習しているのだろうか。花織がボールと秋の顔を見比べていると秋はふわりと微笑んだ。
「ちょっとお話しない?」
「いいけど……。秋ちゃん、練習は?」
花織は眉間に皺を寄せ、質問を返す。普段マネージャーが選手の管理をしている部は特にマネージャーがいないと活動が回らないだろうに。秋はそれでも笑みを浮かべて花織を見ている。
「大丈夫、もう終わるから」
花織はそれなら、と首を縦に振り頷くと、部室へ向かう秋に続いた。秋は夕焼け色に染まった空を見上げながら花織に言葉を掛けた。
「花織ちゃん。風丸くん、頑張ってるよ。もの凄く一生懸命なの。まるでしっかり者の円堂くんがいるみたい。それにね、元々運動神経も良いからもう他の部員に追いついてるくらい」
秋は花織と風丸が喧嘩とは言えないが、現在微妙な関係になっていることを知っていた。だからこそ、ふたりの仲直りのきっかけを作るべく話を切り出したのであった。
「そうなの……」
サッカーをする風丸の報告に花織は言葉に詰まる。そうなのか、と納得するほか秋の言葉を受け止める方法がない。ただ、風丸がサッカー部、そしてサッカーに馴染んでいる。そう聞くと心が針先で突かれたようにちくりと痛んだ。
「うん。だから、明日の試合見に来ない?」
「私がサッカーの試合を……?」
肩に掛けた鞄の紐を力強く握りしめながら、花織は髪を揺らす。短い髪は微かに花織の肩に触れて動きを止めた。見てみたいような気もする。
彼があの青い髪を揺らし、あの圧倒的な速さでフィールドを駆ける姿を。無論、相手が帝国学園ではそんなものは見れないだろうと分かっていても。だが、花織に決断を悩ませる原因もまた帝国学園だ。
一目鬼道を見つめれば、花織の心はどうなるだろう。思い出だけでこれほど悩み、焦がされているのだ。もしかすれば気持ちは大きく鬼道へ傾くかもしれない。そうすれば風丸を酷く傷つけることになる。
「とにかく、一晩考えてみて? 試合は明日の放課後だから」
「うん。……考えてみる」
サッカー部の部室へと戻る秋の後ろ姿を見つめて、花織は一人複雑な気持ちで俯く。どうすればいい、どの選択が正しいのだろう。思い悩んでも正しい答えは浮かばなかった