FF編 第一章
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放課後、花織は教室で風丸を待っていた。転校してきて初めての学校生活。秋が気さくに声をかけてくれたため、花織は一人にはならずに済んだ。アニメや漫画では、転校生はよくクラスメイトに囲まれて質問攻めにあったりするものだが、そんなことは無かった。
花織は窓の外を見つめる。帝国学園とは何もかもが違うこの学校。授業制度も進行具合もすべてが帝国学園に劣っている……。だが、この雷門もかなりの進学校だというのは意外だった。
「月島」
不意に掛けられた声に花織はびくりと肩を揺らす。振り返れば、急いできた様子の風丸が花織の傍に歩み寄った。彼は掃除当番だったために、花織を少し待たせることになってしまったらしい。
「すまない、待たせたな」
「いいえ、こちらこそわざわざごめんなさい」
花織が申し訳なさそうに眉根を寄せる。
「気にするなよ、円堂が勝手に俺を呼びつけたんだから。それより、早く行こうぜ」
風丸はふっと微笑みを浮かべながら髪を揺らす。花織は頷きつつ、彼の顔をじっと見た。こうやって見ていると女の子には見えなかった。結構、男らしい顔立ちをしている。そんなことを思いながら花織は、部室へと足を進める風丸の後へついて行った。
雷門中学の昇降口を出て右に進むと、そこには部室棟が立ち並んでいる。並んでいるその建物の左側を指さして風丸は花織を見た。
「あれが女子の部室だからな。……ここから俺はついていってやれないけど大丈夫か?」
心配そうに風丸が花織に問いかける。花織は頷きながら、微笑んだ。こうして案内してくれたのもそうだが、彼はとても親切な人だと彼女は実感していた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございました」
花織が頭を下げると、風丸は軽く手を振って右側の建物へ入っていった。どうやら男子陸上部の部室は少し離れた場所にあるようだ。風丸が男子陸上部の部室に入るのを見送ってから、花織は女子陸上部の扉と向き合った。深く深呼吸をして扉をノックする。
「はい」
返答があったのを確認して花織はドアノブを回し、ゆっくりとドアを押し開けた。遠慮がちに失礼します、と呟き顔を中へと覗かせる。
「どなた?」
花織が顔を上げる。部室の中には五人ほど練習着を来た少女たちがいて、こちらを見ていた。その少女たちの中心にいる釣り目の大人びたショートヘアの少女が、怪訝そうに花織の姿を見て顔を顰める。花織はその大人びた少女に気圧されて怯んでしまったが、はっきりとした声で要件を伝える。
「あの、入部希望で来ました」
「そう。じゃあさっさとこっちに来て。扉はちゃんと閉めてね」
やけに冷たい口調でその人は花織を呼ぶ。花織は他の部員の視線にも、なんとなく嫌なものを感じながら彼女の元へと歩み寄った。
「私がこの部のキャプテン、入山よ。あんたは?」
「月島花織です」
花織が頭を下げ、名を名乗ったが、入山は花織のことには興味なさそうに鼻を鳴らす。
「希望競技とかあるの? ウチ、部員少ないから特にこだわりはしないけど」
「あの……、私短距離走がやりたいです」
さっと部室の空気が一段と冷えた気がした。あまり居心地の良い雰囲気ではないなと花織は内心思う。何故これほどまでに殺伐としているのだろうか。そんなことを疑問に感じていたが、何も言わずに真っすぐに花織は入山を見ていた。
「そう、まあ別にいいけど」
嫌味のように入山が花織に言う。
「とりあえず、礼儀だけはわきまえて。あんた以外みんな三年なんだから」
入山はつんとしたまま、花織を置いて部室を出て行った。花織が部室を見回せば、いつの間にか他の四人の部員たちも部室から立ち去っていた。花織は小さくため息を零し、帝国学園の陸上部に所属していた時から使用している練習着を、鞄の中から引っ張り出した。手早く練習着に着替えて部室を出る。