脅威の侵略者編 第十六章
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あれから練習を続け、円堂、鬼道、土門はデスゾーンを完成させた。そしてデスゾーンをエイリアに通用するものにするためと、デスゾーンをデスゾーン2へと進化させた。そんな時にエイリア学園ザ・カオスと名乗るチームが帝国グラウンドへと現れた。
彼らカオスはプロミネンスとダイヤモンドダストの混成チームらしく、チームはバーンとガゼルが指揮を執っていた。ヒロトとバーンのやり取りをみるに恐らくエイリア学園のチーム間は仲が悪いのだろうと思っていた。しかし、手を組んだところをみるにそうではないのか。いや、そうせざるを得なかったのかもしれないが。
とにかく試合を翌日に控え、今日は雷門に戻って練習だ。立向居はムゲン・ザ・ハンドの修得を、円堂たちはデスゾーン2の強化をそして他の面々はフォーメーションの確認をと明日の試合に向けての練習に励んでいる。
……やっぱり、彼がいないと無性に寂しい。
彼がいないことが普通になってしまった練習風景。少しは慣れたものの、本当は慣れたくなかった。青い髪を探しても絶対に見つからない。それに段々と落胆しなくなっている。それは彼が戻ってくるという自信があるからともいえるが、彼がいないことを当たり前として認識し始めているからかもしれない。
「吹雪くん……」
秋が心配そうに放った声に花織は我に返る。隣に立っている秋が練習から目を背けて、後ろへと目を向けていた。それに吹雪という言葉、吹雪がどうしたのだろう。
「秋ちゃん、どうしたの?」
「吹雪くん、どこかに行っちゃったから……。大丈夫かなと思って」
「え?」
よくよく辺りを見回してみるが、秋の言うとおり吹雪の姿が見えない。どこへいったのだろうか、吹雪はこの辺の地理には詳しくないはずだが。花織はメモとペンをポケットに仕舞う。そして秋を見た。
「私、ちょっと探してくるね」
「あ、うん。じゃあ頼んでもいいかな。……吹雪くん、花織ちゃんには気を許してるみたいだし」
傍目から見ても吹雪が花織に対し、特別な思いを持っているのは以前から明白だった。花織は頷くと校門の方へと向かって走り出す。当ては少ないが、彼が行ったことのあるであろう場所を回ってみようと思った。
吹雪はかつて練習を行った河川敷のグラウンドへとやってきていた。グラウンドでは幼い子供たち、おそらく小学生低学年くらいの子どもたちがサッカーをしている。それをぼんやりと立ち尽くしながらそれを眺めていた。
皆成長している。キャプテンたちはデスゾーン2を会得したし、立向居はムゲン・ザ・ハンドのヒントを掴んだみたいだ。他の皆だってどんどん精度を上げている。
本当は僕だってサッカーがやりたい。でもボールを蹴るとアツヤが出てきてしまう。アツヤになってしまえばいいのかもしれない。でもそうすれば僕はどうなるのだろう。
……アツヤさえいなければ。
僕は吹雪士郎としてサッカーができる。こんなに苦しまなくてもいいのかもしれない。
そのとき、背後の草むらが揺れた。テンテン、とボールの転がる音がする。吹雪が不思議に思って振り返ってみるとサッカーボールが自分の足元に転がっていた。
「すいませーん、ボールとってもらえますかー‼」
そこから遠く離れた場所で男の子が二人、こちらに手を振っている。どうやらこのボールを吹雪に取ってほしいらしい。可愛いな、と吹雪は思いながらボールを拾い上げる。そしてそのボールを彼らの元へ投げようとした瞬間、二人の姿が過去の自分と重なった。
昔、アツヤが変なところに蹴ったボールをこうやって取ってもらったりしてたっけ……。
「あのー‼」
懐かしい情景が頭の中を巡っていた。ぼうっと硬直していたのを男の子たちは怪訝に思ったらしく吹雪を大きな声で呼ぶ。吹雪は男の子の声に我に返って、ごめんごめんと謝った。ボールを上手で投げ、彼らに渡す。去っていく男の子の後姿にアツヤの面影を見た。
「アツヤ!」
思わず手を伸ばしてしまう。しかしそれはやはり幻覚で、彼の弟はもうどこにもいない。この世のどこにも。その事実を噛みしめて吹雪は何度でも絶望する。
「やっぱり無理だよ……、アツヤを追い出すなんて」
吹雪はマフラーと一緒に自分の左胸を握った。あの事故以来、ずっとアツヤをここに宿して生きてきた。一人ぼっちで苦しむ僕を僕の中のアツヤが支えてくれた。そのアツヤを追い出すなんてできない。二度もアツヤを殺せない。僕の大切な弟を。
「士郎くん」
どき、っと大きく心臓が音を立てた。自分の名前に彼は振り返る。彼をこうして名前で呼ぶ人は今はひとりしかいない。きっと僕を探してきてくれたのだろうと思った。そこには優しい笑顔を浮かべた花織の姿があった。
「こんなところでどうしたの?」
平然を装っているが、彼女は少し汗をかいているようだ。きっと吹雪を探して走り回っていたのだろう。この人はやっぱり嘘偽りなく、僕のことを心配してくれているのかもしれないと思った。花織さん、と縋る様に彼女の名前を呼んでみる。
「僕にはアツヤが必要なんだ」
吹雪が潤んだ瞳を花織に向ける。花織は真面目な顔をして、ちょっと座ろうかと吹雪をベンチへ促した。花織は吹雪をベンチに掛けさせると覗き込むようにして彼の話を聞く。吹雪は俯いてぽつりと呟いた。
「一人ぼっちが怖かったんだ」
あの時のことを今でも覚えている。気が付けば真っ暗な闇の中に放りこまれていた。泣きじゃくって身もがいて、次に目が覚めた時は病院だった。でも僕の傍には誰もいなかった、お父さんもお母さんも、アツヤも。
「雪崩は一瞬で僕をひとりぼっちにした。……僕は寂しくて寂しくてどうにかなりそうだった。それで強くならなきゃって思ったんだ」
あの日の記憶は一層覚えている。雪の降る日だった、サッカーの試合の後お父さんの運転する車で家に帰ろうとしていた。お父さんは僕たちふたりが揃えば完璧だと言った。僕たちもそう思った。
「二人が揃えばもっと強くなれる。もっと強くなって完璧になれる」
唱えるように吹雪が言葉を紡ぐ。完璧、という言葉に花織が眉を顰めた。吹雪はずっとこの言葉に執着している。イプシロン改との試合の時にも言っていた気がする。そしてこの間の話でも。
「だから僕にはアツヤが必要だった。アイツがいれば弱い自分を変えられると思った。……その時あの声が聞こえてきたんだ」
お父さんもお母さんも、アツヤもいなくなって。僕はサッカーへの意欲も無くしかけていた。でもある日試合でミスをしたとき、頭の中でアツヤの声が響いた。兄ちゃん全然だめだよ。その口調にも声にも聴き覚えがあった。その瞬間、僕の中でアツヤが生まれていた。僕の中でアツヤが生き返った。
「アツヤに委ねると心の底から力で満たされるようで気持ちよかった。いつの間にか頼ってしまうようになって、でも段々それが怖くなってきた。アツヤでいればいるほど本当の僕が、吹雪士郎がどこかへいってしまいそうになる」
だからといってアツヤを消すような選択を吹雪は選べない。たとえ今心の中で息づいているアツヤが、吹雪が生み出した仮想のものなのだとしても、吹雪にとっては大切な弟であることに違いないのだから。
「僕はどうしたらいいんだろう……」
アツヤがいれば自己が揺らぎ、アツヤがいなくなれば僕は一人になって完璧にはなれなくなる。吹雪は苦しげに目を閉じる。そんな吹雪の手を花織が優しく握った。温かい体温。吹雪の小さな希望の欠片。
「アツヤくんの事を私はどうしようもできない、士郎くんが決めることだから。……でも士郎くん」
花織は吹雪の顔を覗きこむ。今にも泣き出しそうな吹雪の目を彼女の黒い瞳が見据えた。
「士郎くんは一人じゃないよ」
花織はそういって手をぎゅっと握る。吹雪は唇を噛んで涙を堪えた。一人ではない、彼女はそういうが、今の吹雪に居場所があるだろうか。花織は自分を受け止めてくれるが、それは花織だけかもしれない。
「それにね、完璧じゃなくても私は良いと思うよ。私は士郎くんが自由にサッカーをできればそれでいいと思う」
「花織さんはそう言ってくれるけど……。でもそれじゃ、僕はお荷物だ。地上最強のチームにいる資格がないよ」
吹雪は消え入りそうな声で呟く。花織は吹雪の手を握ったまま、空を見上げた。吹雪の心の中にある完璧に対するこだわりはとても固く強いものだ。恐らく彼の半生を縛ってきた言葉である。その中で苦しむ彼の気持ちを吐露させることで苦しみを和らげることはできても、その固い結び目を解くことは花織にはできない。
どうしたら、いいのだろうか。
花織は思い悩む彼の為に真剣に考える。だが答えは出ないままだった。