脅威の侵略者編 第十六章
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練習を重ね、円堂がリベロ技メガトンヘッドを完成させた。それは正義の鉄拳を応用したヘディング技で、頭にパワーを集中させボールを弾き返すというブロックの必殺技だ。だが鬼道はそれだけでは足りない、もっと必殺技が必要だと言い、そのカギは帝国にあるといった。
かくして、雷門イレブンは帝国学園にて新しい必殺技の練習を行うことになった。鬼道が提案した技は何と帝国の必殺技であるデスゾーンだった。鬼道を中心に土門と円堂が現在特訓をしている。そして鬼道の呼びだした帝国の面々により、今から練習試合を行うことになった。必殺技の特訓も実戦でやったほうが身につきやすいだろう、とのことである。円堂と鬼道、そして土門は帝国学園チームに入り、試合を行っている。雷門は1人人数が欠けるため、花織がサイドバックに入った。練習試合は前半が終わり、今はハーフタイムだ。無断でここに来てしまっているが、たぶん大丈夫だろう。選手としてもマネージャーとしての仕事も今特にない。
「……」
花織は懐かしさを体いっぱいに感じながら階下に広がるフィールドを見る。ほんの半年前までここから帝国学園サッカー部の練習を眺めていた。いつも、ここからフィールドを駆ける赤いマントを追いかけていた。
帝国学園にいた一年間、その思い出のほとんどはこの場所にある。この場所から練習を眺め、彼を見つめていた事。彼と話したあの日。一人で走っていた陸上のグラウンドより、こっちの方がよっぽど愛着がある。
「花織」
呼ばれなくても誰かがこの場所に来た時点で誰であるかは分かっていた。花織は振り向く、そこにはやはり鬼道の姿があった。何せここは花織と鬼道のみが知る、他からは見えずサッカーグラウンドを見渡すことのできる唯一の場所なのだ。
「よくここに居るってわかりましたね、鬼道さん」
「寧ろ、ここ以外でお前がいる場所を探す方が難しい」
鬼道がフッと笑いながら花織の方へと歩み寄る。花織は目を細める、鬼道を見つめれば見つめるほど胸にこみ上げてくる思いがあった。
「やっぱり似合いますね。帝国学園のユニフォーム」
そう、鬼道は現在帝国学園の深緑色のユニフォームを身に纏い、赤いマントを羽織っている。それは花織が去年の一年間ずっと追い続けていた姿だ。花織が焦がれていたそのままの鬼道がこの場所にいると、何だか帝国にいたころに戻ったような感覚だった。
「フッ、そうか。まあ、お前はこちらの俺の方が見慣れているだろうからな」
鬼道の不敵な微笑に花織は胸の中でちりりと燻る様な感覚を感じる。ああ、本当にあの頃に戻ったみたいだ。ただあの頃と違うのは花織の中にある感情だ。きっとあの頃の花織なら鬼道の言葉に息ができなくなるほどのときめきを感じていたに違いない。今心の中にある、燻るこの気持ちは、おそらくその名残なのだ。
「行こう、後半が始まる」
「……」
鬼道が花織を連れ、下のフィールドへ降りようと声を掛ける。だが花織はなんとも言わずフィールドに戻るのを渋った。鬼道は始め、彼女がまだこの場所にいることに懐かしさと名残惜しさを感じているのだろうかと思った。だが彼女の表情を見るにそれは違うようだ。花織はどうやら下に降りたくないらしい。
「どうしたんだ、花織」
鬼道が花織の肩に触れる。花織はふいと鬼道から視線を逸らした。花織は今まで考えない様にしていたことを口にする。
「……帝国の選手にとって、私って目障りな存在だったんでしょうか」
花織は、それこそもう帝国学園とは関わらないと思っていたから今まで気にしない様にしていた。だが今日ここへ来てしまって、帝国の選手たちが来ると知ってハーフタイムになって逃げるようにこの場所へ駆けこんでしまったのだ。理由は真帝国学園の一件での佐久間と源田の言葉にある。
鬼道を誑かした女として花織を嫌悪するような言葉の数々。あの時は源田と佐久間の気持ちを汲むのに必死で何も思わなかった。でも今日、ここへ来るときふと思ってしまった。自分は帝国イレブンにとって邪魔な存在だったのではないかと。
佐久間と源田に花織はあれだけ辛辣な言葉を掛けられた。たまたま佐久間と源田だっただけで他のメンバーだってそう思っていたかもしれない。
鬼道が雷門へ転校したことに花織の責任などないが、少なくとも源田たちのように考える者もいたのではないだろうか。
「花織」
鬼道が花織の肩を掴む。鬼道はじっとゴーグル越しに彼女を見つめた。
「俺は今日、この帝国にある気持ちの決着をつけに来た。世宇子へのリベンジの為、俺が雷門に転校したことをアイツらがどう感じているのか、裏切り者だと思っているのではないか。それを確かめるために」
鬼道の中でもまだ蟠りがあった。鬼道は今でも帝国の選手たちを仲間だと思っている。今日プレーしていて今でもアイコンタクトすらせずとも彼らと連携が取れることに自分の居場所がここであったことを実感した。その上で雷門へ自分が打倒世宇子の為に転校したことを彼らがどう思っているのか、ずっと気にしていた。
その悩みは今日、真帝国学園で鬼道を糾弾した佐久間の言葉によって解決した。鬼道は雷門にいる方が自分を出せている。誰もお前を裏切り者なんて思ってやしない。その時に帝国の皆が見せてくれた笑顔。自分をまだ仲間だと思ってくれているその言葉無き表現に、鬼道はこれから続くエイリア学園への戦いに対する決意を新たにさせた。
「皆、わかってくれていた。……俺が雷門でサッカーをすることを。花織、あの時のことを気にするな。誰もお前のことをそんなふうに思ってるわけないだろう」
「……そうでしょうか?」
花織は不安そうな面持ちで鬼道を見つめる。鬼道はああ、と頼もしく笑って花織の手を取った。力強く花織を引っ張りながらにやりと笑う。その微笑は帝国にいたころの彼を彷彿とさせた。
「証明しよう。……大丈夫、俺が付いている」
「……ふふ」
花織は思わず笑いを零す。鬼道のこういう男らしくて、自分を引っ張ってくれるところは今でも頼もしいと思う。帝国にいたころ控えめだった花織はこんなふうにチームを引っ張っている彼の姿が好きだった。
「お、鬼道がお気に入りを連れてるぜ!」
二人で帝国側のベンチへ降りていくと帝国の寺門が二人を指差して声を上げた。そうすると周りのメンバーがヒューヒューと言わんばかりに声を上げる。花織は驚いた、そもそも鬼道が花織に特別な想いを持っていること自体がチームにとって公認の事実だったのか。
「おいおいやめろよ。鬼道さん、一応振られてるんだぜ。鬼道さんが雷門に行く前からお気に入りには雷門に彼氏がいたんだと」
「えーっ、鬼道さんドンマイですね」
辺見がにやにやとしながら場を宥め、洞面がくすくすと笑いながら鬼道をからかった。鬼道は少しムッとした様子でふたりに詰め寄る。花織は呆然とその様子を見守っていた。何だか変な感じがする。あんなに近寄りがたかった帝国イレブンはこんな話をしたり、鬼道をからかったりするのかと。
「月島」
花織は名前を呼ばれて振り返る。そこには松葉杖をついた佐久間と、源田の姿があった。花織は少しドキリとする。彼らに話しかけられるのはあの一件のせいで少々警戒せずにはいられなかった。
「あの時は悪かった。……本当はあんなこと、思ってもなかったんだ。ただあの時はおかしくなってた。お前に酷いことを言ってしまった」
「……佐久間さん」
花織はあの時鬼のような形相で花織を糾弾した佐久間が、優しく自分に語りかけてくれることに安堵した。言葉のとおり、もう花織が鬼道を誑かしたとは思っていないらしい。源田も佐久間に続けて言う。
「元々、鬼道が勝手にお前に惚れこんでいたということはチームの皆、知っていた。何しろチームで持ちきりの話題だったからな。そのせいで可能性としては在り得るのではないかと思い込んでしまった」
「え?」
源田があっけらかんと放った衝撃の事実に花織はきょとん、と目を点にする。花織と鬼道についての話題は帝国イレブンにとって日常茶飯事だったというのか? 花織は鬼道を見た、鬼道はまだ辺見と洞面を説教するので忙しいらしい。
「鬼道の恋を応援する会、なんてのも立ち上がったくらいだしな」
「初心な鬼道がお前を見つめる様は中々面白かったんだ」
なんと、鬼道の恋心は帝国イレブンにとってみれば面白いおもちゃと同列だったらしい。花織は思わず吹き出してしまう。自分たちの行動一つ一つが話題になってしまったことは正直とても恥ずかしいが、自分を嫌悪しているのではないかという疑惑が晴れて花織は初めて彼らに対して屈託のない笑みを見せた。