脅威の侵略者編 第十六章
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翌日の練習からは円堂はリベロ、立向居はゴールキーパーという形でスタートした。雷門の革命ということでそれぞれに新しいユニフォームを渡され、円堂から立向居に向けて究極奥義ムゲン・ザ・ハンドが託された。
ふたつのチーム、一つは円堂のリベロ技の習得にもう一つは立向居のキーパー技の習得に別れて練習を始める。
花織はマネージャーの仕事をこなしながらちらと吹雪に視線を向けた。彼はサッカーボールを抱えてベンチに座っている。練習にはまだ戻れないようだ。花織は吹雪を見つめる。ゆっくりでいい、いつか戻れるはずだと彼を見てそうなる様に祈る。
練習を終えたその日の夕方、花織は円堂を探した。彼女は円堂に頼みたいことがあったのだ。花織はきょろきょろと円堂の姿を見つけようと辺りを見回す。彼は立向居とキーパー技の話をしているようだった。
「キャプテン!」
「……ん? 月島、どうしたんだ?」
「この後……、少し時間を頂けませんか?」
円堂は首を傾げて花織を見る。円堂は風丸と仲が良いのだが、花織と円堂はと言われるとあまり直接話すことは無い。花織が秋や夏未を気遣っているというのもあるし、特訓好きな面はともかく、性格が違うというのが理由だろうか。そんなこんなで円堂は花織がこの練習の後に時間が欲しいといった意味を考えていた。
「いいけど……、どうしたんだ?」
「要件は後で言います。……片づけが終わったら校門のところにいてください」
花織は立向居に気を遣って話をすぐに切り上げた。軽く頭を下げると走ってまだ荷物の残っているベンチの方へと駆けていく。花織の唐突な申し出に円堂はまた首を傾げた。
花織の折り入っての頼み事とはいったい何なのだろうか。
花織はグラウンド整備を急いで終わらせ、身だしなみを整えると待たせている円堂の元へと向かった。円堂は花織の言った通り校門の前で待っていてくれた。花織はほっと胸を撫で下ろす。円堂のことだから何人か選手を連れているかとも思ったが、一人で待ってくれていたようだ。
「おう! 月島!」
「キャプテン、お待たせしてすみません」
花織がぺこっと頭を下げる。円堂は別にいいって、と手を振って笑り、彼女に要件を尋ねた。
「でもどうしたんだ、ここで待っててくれって」
「キャプテンに頼みがあったんです」
「頼み?」
花織は頷く。東京へ戻ることが決まってからずっと円堂に頼まなければと思っていた。花織はぎゅっとシャツの中にあるペンダントを握り締める。
「一郎太くんのお家の場所、知ってますか?」
花織は心の底から風丸に会いたかった。会ってきちんと話をしたかったのだ。だから東京に戻ってきたら絶対に彼の所へ行こうと決めていた。ただそれには一つ決定的な問題があった。花織は風丸の自宅を知らないのだ。
風丸は花織の家を知っている。彼は何度も花織をそこまで送り届けたことがあり、迎えに来たこともあった。ただ花織はというと風丸の家を知らないのだ、自分の家と逆の方向にあるということは知っているがそれ以上の情報を持たなかった。その情報をくれた秋にも詳しい話を聞こうとしたが、秋も細かい住所までは知らないようだった。
「風丸の……?」
「はい! ……私、彼と会って話がしたいんです。全然連絡が取れないから心配で……」
円堂はそう言って少し寂しげな表情を浮かべる花織を見た。円堂は彼女と風丸の深い関係までは知らないが、互いに好きあって一緒に居るのだということは知っていた。円堂だってチームを去ってしまった風丸のことが心配なのだから、花織だって心配に決まっているだろうと思った。
「わかった。じゃあ今から一緒に行くか! 俺もアイツと話がしたいしな!」
「ありがとうございます……! キャプテン!」
円堂はどんと胸を叩いて頼もしく言った。花織はその答えに表情を綻ばせる。風丸に会えるかもしれない。そう思うとやはり無性に嬉しさがこみ上げて、心臓が高鳴っていくのを感じた。
❀
雷門中から歩いて数十分、花織が住んでいる場所からは結構遠い住宅街へとふたりはやってきた。何でも円堂の自宅もこの辺にあって、風丸とはご近所なのらしい。だからこそ二人は幼い頃から仲が良く、彼は円堂の相談相手となっていたのだという。
「いないのかなあ、風丸」
彼の家に辿り着いてもう三度目の呼び鈴を押した。学校は現在ああなっているせいで休校であるし、いるならば家だと思ったのだが誰も出てこない。円堂曰く彼の両親は共働きだから夜しか家にいないそうだ。花織は一度彼の携帯電話に電話をかけてみる、やはり電話には出てくれなかった。
「……今日はもう戻りましょうか。私、また明日来てみます。今日は一緒に来てくださってありがとうございました」
円堂に礼を言い、花織は名残惜しそうに彼の家を見つめていた。声からは明らかに落胆の色が見えている。携帯電話を寂しげに見つめ、鞄の中に仕舞った。円堂はそんな花織を見て、勢いよく花織の肩を叩いた。
「元気出せって! 今日はタイミングが合わなかっただけだって、明日はきっと会えるさ!」
「キャプテン……」
円堂の励ましに花織はぎこちなく微笑む。帰路に付くため、二人はどちらともなく歩き始めた。今日はもうキャラバンでの宿泊になる。また学校に戻らなければならない。花織は何も言わないで俯いている。円堂は花織を元気づけるためにバン、と背中を叩いた。
「月島は、本当に風丸のことを心配してくれてるんだな」
「……」
花織は円堂をみる。円堂は単純に自分の幼馴染を心配してくれる花織の存在をありがたいと思っていた。彼女がサッカー部に入部した時のことを思いだす。彼女は風丸の後、帝国との初試合の後に風丸と一緒にサッカー部のマネージャーになりたいと頼みに来た。サッカーの事はわからないけれど精一杯やりますと気合の入った挨拶をしてくれた。
「月島は転校してきてから、ずっと風丸と一緒にいたんだもんな。……なあ、月島」
「キャプテン……?」
円堂は空を見上げて呟く。彼女が入部してから、自分の幼馴染は自分の知っている幼馴染とは少し違うような感覚があったのを思い出す。正確に言うと少し違う、風丸が変わったのは花織が転校してきてからだ。
「俺、風丸とは小さい頃からの付き合いだけど、月島に出会って風丸は変わった。もちろんいい意味でさ」
風丸は円堂にとって良い理解者だった。いつも相談に乗ってくれ、いつだって円堂が無茶をすれば呆れ顔で宥めてくれた。落ち着いた、円堂から見れば大人っぽい友人。
「何ていうか、アイツはいつだって優しいけど、月島と一緒に居る時はもっと優しい顔をしてるんだ。月島とサッカーしてる時は特に楽しそうだしさ」
キャラバンに乗っている時、眠っている花織を見つめている風丸の横顔、花織とふたりでボールを蹴り合っているとき、いつになく楽しそうな風丸の表情。花織と過ごすようになってから、風丸は今まで見せなかった表情を見せるようになった。今思えば円堂ですら、風丸がどれだけ花織のことを大切に思っていたか容易にわかる。
「地区予選の決勝の前の日に月島が危ない目に遭った時、お前の声に気付いたのは風丸だったし。お前がエイリア学園との試合に出るのに反対したり。アイツにとって月島は本当に大切な人なんだよな」
花織は円堂の言葉に頬を染める。そして思わず綻ぶ口元を手で隠した。自分たちの付き合いをオープンにしているのだから恥ずかしいも何もないが、改めて指摘されるとどうしても恥ずかしくなってしまう。
「そんなアイツが、月島をいつまでも放っておいたりしないさ! な!」
「キャプテン……」
円堂の言葉には言いようのない頼もしさがあった。花織は瞳を潤ませる。サラサラと花織の黒髪を風が揺らした。大丈夫だ、きっと。円堂の言葉は常にその人を前向きにさせてくれる何かがある。
「だから、待っててやってほしいんだ。アイツが帰ってくるのを。で、お前が一番に風丸に言ってやってほしい。お帰りってさ!」
「はい!」
屈託なく円堂が笑ってくれる。その言葉に花織は胸の中にある痞えが取れたような気分になった。花織だけではない、彼の帰りを、キャラバンを去ってしまった彼の帰りを待ってくれている人はやはりいるのだ。