脅威の侵略者編 第十五章
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砕け散った氷が空を待った。彼の目の前には信じられない光景があった。エターナルブリザードが止められている、片手で軽々と、今までどんなゴールもこじ開けてきた完璧だった必殺技。それがいとも容易く止められている。
「そんな……、バカな」
目の前で起こったことに吹雪の声は動揺を隠しきれなかった。全身がぶるぶると震えているのが分かる。目の前に立つ、今まで自分が破れなかったゴールキーパーはボールを片手でつかんだまま、不愉快そうに吐き捨てた。
「楽しみにしていたのに、この程度とはな」
ゴールキーパーはボールを放り捨てる。そして吹雪に背を向けて目を逸らし、吐き捨てるようにその言葉を口にした。
「お前はもう必要ない」
その言葉にどれだけの衝撃が走ったのか、吹雪自身にもわからなかった。感じたことの無い様な衝撃、雪崩に襲われてそして目が覚めてすべてを知った時に感じた衝撃によく似ているものが全身を駆けた。
世界が揺れ、視界が黒く染まってゆく。身体が指先から冷えていくのがわかった。しかし身体は動かない、吹雪の中では必要ない、という無慈悲な宣告が何度も何度も繰り返された。二つの人格が彼の中で動揺していた。
士郎としても必要ない、アツヤとしても必要ない。
自分の存在意義を否定された。吹雪士郎もアツヤも必要のない人間だ、だったらなんでここに自分はいるんだ。吹雪士郎もアツヤも必要ない、だったら自分はいったいなんなんだというのだろうか。自分、というものに亀裂が入ってゆく。そしてそれはガラスをたたき割ったように粉々に崩壊した。
その衝撃に彼は咆哮した。叫びは心の中にうち止められ、誰にも届くことは無い。
❀
「士郎くん……‼」
花織は思わず立ち上がった。声もなく吹雪がピッチに崩れ落ちたのが見えた。嫌な予感が全身を駆ける。円堂が、鬼道がそしてフィールドにいる選手たちが吹雪の元へ駆け寄る。だが吹雪は返事をしないようだ。円堂が肩を揺すぶっても反応が無いように見える。
「監督! これ以上は吹雪くんが……」
秋が監督に訴えかける。花織はズボンを握る。これ以上は吹雪くんが、と秋は言った。でも違うのではないか、これ以上どころかもうすでに彼の心は崩壊してしまっているかもしれない。チームが恐れていた自体がついに来てしまったのではないか、花織は息を呑む。流石に監督もこれ以上吹雪に無理をさせる気はないようで選手交代を叫んだ。
「選手交代! 目金くん、吹雪くんと変わりなさい」
「は、はい!」
監督は吹雪の代わりに花織ではなく、目金を呼んだ。花織は妥当だと思った。単純な実力で言えば目金よりは花織の方がピッチで動くことができる。圧倒的に運動神経に優れているのは花織だ。だがフォワードの経験はほとんどない、そして目金は元々フォワード。どちらを起用するかははっきりしている。
「月島さん」
「……!」
突然監督に名を呼ばれて花織は監督を見上げる。監督はいつものクールな様子に見えたが、少し表情からは焦りが伺えるように思えた。
「吹雪くんをお願い」
監督が花織に命じる、花織は黙ってうなずいた。そして両脇から吹雪を抱え、ベンチへと連れてきた鬼道と円堂が彼を座らせるのを見届けた。花織は屈んで吹雪の顔を覗きこむ。思わず息が詰まった。
死んだような顔をしている、この表現にこれほど相応しい顔があるだろうか。そんな表情を吹雪はしていた。瞳は光なく、何も映していない。焦点も合わなかった。士郎くん、と小声で吹雪を呼んでみても返事はない。
「吹雪、ここで見ていてくれ。俺たちみんなでお前の分まで戦い抜く」
円堂が吹雪を見ながら宣言する。花織は吹雪の両手をそっと自分の手で包んだ。いつになく冷たい吹雪の手。まるで死んでしまったように……。
「士郎くん……」
花織は吹雪の手を握る。花織にはそれしかできなかった。
❀
吹雪がピッチを出てから、試合は防戦一方になっていった。前線でボールがキープできず、すぐにボールを奪われて攻め込まれてしまうのだ。それによって徐々に選手たちは消耗させられていった。円堂が正義の鉄拳で辛くもゴールを守っているが、それもいつまでもつだろうか。
そんなときに唐突にゴールキーパーのデザームがポジションチェンジを提案した。デザームはフォワードのゼルとポジションを代り、圧倒的な存在感で前線に現れた。デザームはイプシロンのどの選手よりも速く、そして強かった。そしてとうとう、デザームの放ったグングニルというシュートが正義の鉄拳を打ち破り、イプシロンが雷門から先取点をもぎ取った。
その後は何とかディフェンダーと協力して攻撃を凌いでいるが、いつゴールが再びこじ開けられるかはわからない。見ているだけでも辛い、花織は吹雪の手を握ったまま試合を見守る。私も一緒に戦いたい、見ているだけなんてやっぱり嫌だ。
円堂が進化させた正義の鉄拳でデザームのシュートからゴールを守る。ラインを越えたボールを誰かが止めた。
「……」
フードを目深にかぶった男はピッチへ踏み込む。そしてフードを取り去り、素顔を陽光の元へ晒す。逆立った白髪、精悍な顔立ち、待ち望んでいた救世主の姿がそこにはあった。
「豪炎寺‼」
円堂の歓喜に満ちた叫びがフィールドに響く。間違いない、そこに立っているのは雷門のエースストライカー豪炎寺修也の姿だ。数週間前、チームを去ってしまった彼の姿がそこにある。彼がいれば絶対大丈夫だという雰囲気、絶対的な存在感。
「待たせたな」
「いつもお前は遅いんだよ!」
頼もしく笑った豪炎寺に円堂が言う。花織は思わずくすりと笑ってしまった、それにしても豪炎寺が来ただけでこの安心感は何だろう。フィールドでは豪炎寺の帰還を喜ぶ声が響く。それを見ていると嬉しさと何とも言えない気持ちがこみ上げてくる。隣にいる吹雪が豪炎寺、という名前に僅かながらに反応を示したのに花織は気づいた。
「選手交代‼ 10番、豪炎寺修也!」
監督が交代を叫ぶ。
豪炎寺はパワーアップして帰ってきた。ファイアトルネードで一点をもぎ取り、そして新技爆炎ストームでもう一点をもぎ取った。雷門のエースストライカーの帰還、これによって雷門はエイリア学園ファーストランク、イプシロンに初めて勝利を修めたのであった。