脅威の侵略者編 第十四章
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自分を売り込みに来た南雲晴矢は自分で言うだけの実力を持っていた。吹雪と土門も彼の力を評価し、メンバーに紹介した。そしてチームに対しても彼はマジン・ザ・ハンドを易々と破るアトミックフレアというシュートを決め、自分の実力を証明して見せた。
南雲晴矢をチームのメンバーとして迎え入れる。少し自分の実力を鼻に掛けたところはあるが、実力は本物だと認め、チームの総意で彼の参加を決定しようとした。しかし、そこで意外な人物が現れた。ヒロトだった。
ヒロトは南雲晴矢をエイリア学園の人間だと告発し、プロミネンスのキャプテン、バーンであることを認めさせた。バーンは正体を現すとヒロトに対して挑発的な態度をみせ、円堂らに興味があって見に来ただけだと言い張った。どうやら会話の内容からヒロトとバーンの仲は良くないようである。そして二人は睨みあい、黒いサッカーボールと共に姿を消してしまった。
エイリア学園にまだ他のチームがあった、そのことはチームの中で波紋を呼んだ。花織の心も揺れていた。木暮がプロミネンスの登場に対して言った、"風丸さん、さっさと撤退して良かったかもね"という言葉が耳に残っている。春奈がすぐに木暮を窘めたが、その言葉はまるで自分のことを言われたかのように花織を傷つけた。
逃げ出したわけではない。花織は月明かりに光るペンダントを見つめながらそう思った。彼は少し疲れてしまっただけ、戦略的撤退というやつだ。またきっと戻ってきてくれるはず。何度も何度もそう思い込んで自分を慰めた。本当のところは花織にはわからない。
小波の音が聞こえる。花織は浜辺に立ち尽くしているのだ。彼女は毎夜のようにテントから抜け出している。そして深夜まで星を眺めながら彼からの連絡待った。徐々に風丸がチームを去ったことが昔のことになってゆき、さらにはチームの皆が豪炎寺のことで盛り上がっているのが寂しいような気がした。
豪炎寺には戻ってきてほしい。でも風丸がいなくなったことを皆が受け入れ始めているのが、花織の胸をちくりと突く。花織が気にし過ぎなのかもしれないが、花織にとって風丸一郎太は特別なのだ。
「こんな夜更けにひとりで居るのは感心しないな」
穏やかな、聞き覚えのある声が花織の背筋を伸ばした。花織は髪を揺らして振り返る。そこには赤い髪を下ろしたヒロトの姿があった。今日に会うのは二度目になる。花織は黙ってヒロトを見つめた。彼のことを敵だとは理解している。でも先日、風丸に対してメールを送る様にアドバイスをくれたのはヒロトだった。たったそれだけのことなのに花織は彼への印象を若干良くしていた。黙って話を聞くくらいには。
「ヒロトさん……」
「やあ、今日は見苦しいところをみせちゃったね」
まるで友達とでも話す様にヒロトは手を挙げる。花織は何も言わないでヒロトを凝視していた。以前のように話を聞けないほど嫌悪はしていないが、自分から声を掛けるほど話したい相手ではない。ヒロトは自分を見つめている花織にそっと歩み寄った。
「今日は、君に聞きたいことがあってきたんだ」
「聞きたいこと……?」
花織が首を傾げる。ヒロトがそう、と言いながら花織の腕を引っ張る。急に腕を引かれて花織はよろめいた。花織のペンダントが衝撃に揺れ、きらりと煌めく。ヒロトは彼女の胸元を飾るそれに一瞬視線を向けたが何も言わなかった。花織はヒロトの唐突な行動に文句を言いたげに彼を見た。
「ちょっと……」
「ごめんね、もう少し人目に付かないところに行こう。話しているのを誰かに見られても困るからね、俺も君もさ」
ヒロトに連れられて花織は浜辺でも人目の付きにくい岩場へとやってきた。足を止めるとヒロトはじっと花織の顔を見つめる。その瞳はじっと花織を見透かすようだった、何を持って彼が花織を見つめているのか花織には分からない。花織は縋る様に首に掛かるペンダントを無意識に握り締めた。ヒロトが目を細める。
「それ、君の恋人からの贈り物かい?」
ヒロトが花織の手元を指差して尋ねた。花織は一瞬戸惑ったが首を静かに縦に振る。そうか、と一つ呟いたがヒロトはじっと花織を見つめ続けている。
「前に君は北海道で俺に話してくれたね。大切な人がサッカーをするからサッカーをするし、サッカーを見ることが好きだって」
確かに言った、花織はまた頷く。ヒロトは少し黙り込んだ。それでも花織から視線を外さずに花織を見据えている。波の音が遠く聞こえる。ヒロトは静かに核心を尋ねた。
「……君の恋人は雷門を去ってしまった。でも君は雷門に残り続けている。君の言っていた言葉を基にするなら君がここに居る理由は無いはずなのに」
夜風が二人の髪を揺らした。ヒロトは目を細めて花織に問いかける。
「それでも君はどうしてサッカーをするんだい?」
二人の間に沈黙が走る。ヒロトの言葉を花織は自身に問うた。私はどうしてサッカーをするのか、どうして風丸のいないこのチームに残り続けるのか。花織はふっと微笑を浮かべた。考えなくても答えは簡単な事だった。
「だって、一郎太くんがサッカーを嫌いになったわけじゃありませんから。それに私、一郎太くんが戻って来るって信じてます。彼が戻ってきたときに彼を温かく迎えるのが恋人の役目でしょう?」
花織は初めてヒロトに微笑んだ。ヒロトはその表情に心打たれる、一点の曇りなく真摯に向けられた大切な人への想い。その人のためなら何でもできるという明らかな決意が口調から見え隠れしていた。ヒロトと同じ信念だ。
「それに私、彼と一緒に走るのが大好きですから。私が走ることをやめてしまったら彼と同じ場所を共有できない。それだけは嫌なんです」
花織はヒロトに断言する。ヒロトはそんな花織を見てフッと表情を緩めた。目を伏せ、そしてまた顔を上げる。そして質問を続けた。
「君はその人のためなら何でもできるかい?」
「私にできることなら」
「……そうか」
ヒロトは頷いた、彼の中で何か強い決意が新たに芽生えたようであった。月明かりに照らされる彼の表情はそんな感じがする。花織はヒロトに質問の意図を問いかけようとした、それだけではなく彼には聞きたいことが一杯ある。今日言いかけた豪炎寺の事、エイリア学園にはいくつのチームが存在するのか、そしてなぜ花織の前にたびたび姿を現すのか。だがそれを遮る様にヒロトが一方的に花織に言葉を掛けた。
「君は本当にその人のことが大切なんだね。俺と同じだ、俺も大事な人のためなら何でもできる。本当に、何だってね」
何か特別な想いを感じさせる瞳でヒロトは呟く。何でもできる、その言葉には強い思いが込められているように感じた。花織はヒロトさん、と彼の名前を呼ぶ。ヒロトはそれじゃあね、と手を振って花織の前から姿を消してしまった。花織はヒロトの足跡の残る砂浜へと視線を落とした。
ヒロトは一体何を考えているのだろう。宇宙人の行動に理解などできないだろうが、花織は彼の残した言葉と意味深な瞳が気に掛かった。