脅威の侵略者編 第十四章
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夜、花織は再びテントを抜け出して一人で星を眺めていた。
本日、マジン・ザ・ハンドを習得した立向居勇気がイナズマキャラバンに加わった。円堂以外の初めてのゴールキーパー。真面目で素直なその性格からチームに馴染むのにはそう時間はかからないだろう。それはとても喜ばしいことのはずなのに、花織にとってみれば少し寂しさを感じた。
そして明日にも福岡を出発し、炎のストライカーを探しに沖縄へ向かう。チームの皆がきっとそれは豪炎寺だ、と沸き立った。花織も豪炎寺に会えるのだとしたらとても楽しみだ。豪炎寺がチームを去るまでは、花織はよく豪炎寺とも話をすることが多かった。風丸と一緒に。
仮に豪炎寺が戻ってきたら、今の雷門を見て彼はどう思うだろう。染岡、栗松、そして風丸。特に染岡は同じフォワードとして豪炎寺のパートナー的存在だった。フットボールフロンティアを共に戦った彼らがいないチームを見て豪炎寺は何を感じるだろうか。
花織は右手の中にある自分の携帯を握り締める。
花織は夜間の抜け出しの常習だ。それはいつもチームに追いつくための練習をこっそりするための抜け出しだった。でも風丸が去ってからは違う。風丸がいなくなってしまってからは自ら進んでサッカーをやりたいとは思えなかった。それだけではない、日中のチームに参加して練習する意欲も無くしてしまっていた。淡々とマネージャー業だけをこなす日々だ。
そんな中で花織がどうしてテントを抜け出して外にいるのか、答えは彼女の手に握られている携帯にある。花織は待っているのだ、自分の恋人からの連絡を。
風丸はあの日から一向に連絡を寄越さなかった。花織は一日に一から二度ほど彼の携帯に電話を入れていたが、彼は電話に出てくれない。今は彼をそっとしておくべきだとも思うが、それでもやはり心配なものは心配だし、彼の悩みを理解できなかったことを謝りたかった。しかしもう時刻はそろそろ深夜を回ろうとしている、彼からの連絡が今日も来ないことなんてわかりきっている。なのに来るかもしれないという期待を捨てられなくて花織はずっとこの場所に二時間も座り込んでいる。
花織は携帯を開いてみる。着信ゼロ、彼からの連絡はやはりない。
「……一郎太くん」
大好きな人の名前を呼びながら花織は膝に顔を埋めた。四六時中一緒に居たのだ、夜は特に静かで寂しさを感じ、感傷的になってしまう。彼がいないことをより実感してしまって、止めどなく涙が溢れた。夜は誰もいないから人目を気にせずに涙を流すことができた。きっと鬼道ですら花織が夜にこんなに女々しいことをしているとは知らないだろう。
「……月島さん」
その時、顔を埋めて涙を流す花織に声を掛けた人物がいた。その声に覚えがあった花織はハッと顔を上げる。そこには先日、風丸が離脱するきっかけになったとも呼べるエイリア学園ザ・ジェネシスのキャプテンヒロトの姿があった。彼はいつもの髪を下ろした姿をして、心なしか心配そうに花織のことを見ているようだった。
「……何なんですか、一体」
花織はこんな人に涙は見せまいと涙を堪え、絞り出すような声で言った。ヒロトの顔を見ない様にして立ち上がり、顔を背けたまま冷たい声で彼に応対した。
「何をしに来たんですか。一体何を企んでこんなところへのこのこと……!」
花織の声は行き場の無い怒りに震えていた。花織はヒロトに対して嫌悪を感じていた。何しろ彼はエイリア学園の一員で、風丸の離脱の引き金を引いたジェネシスのキャプテンなのだから。現在彼に対する得体のしれぬ恐怖などなく、単純に花織はこんなところへやってきたヒロトへ怒りを感じていた。
「違うよ、何かを企んでここに来たわけじゃない。…………ただ、君と話をしたかったんだ」
戯言を言う、花織はそう思って顔を上げヒロトを睨んだ。地球を侵略しようと目論むエイリア学園のチーム。そんなヒロトがいったい何をいうのか、彼の言葉の白々しさに花織の怒りは増幅した。
「何を話すことがあるって言うんですか……! エイリア学園の者である貴方と!」
花織の目には未だ涙が溜まっていた。彼女の携帯を握った手はぶるぶると震えている。花織が自分をどう思っているのかヒロトは理解していた。それでもヒロトは花織に言葉を掛ける。花織の心を今最も揺さぶる言葉を。
「……君の恋人、雷門から離れてしまったみたいだね」
花織の瞳が動揺に揺れた、どうしてヒロトがそんなことを知っているのか。花織は唇を噛んでヒロトから目を逸らす。敵から恋人のことを指摘され、花織は二の句を告げなくなってしまった。ヒロトがゆっくりと花織に歩み寄る。
「君たち雷門のことはもちろん調査している。俺たちとの試合が終わった後、彼が雷門を去ってしまったことで円堂くんがショックを受けていたことも。……君が夜な夜な彼を想って一人で泣いていたことも」
「……っ」
誰にも気づかれていないと思った自分の行動すら、ヒロトには筒抜けだった。花織はヒロトに何を言われるのも辛くてヒロトを振り切って逃げてしまおうと踵を返す。だがその彼女の手をヒロトは掴んだ。
「……君を傷つけるためにこんなことを言いに来たんじゃない。ただ、君が一人で泣いていることを知って、放っておけなくて」
花織の後姿にヒロトが言葉を掛ける。ヒロトもそう言いながら視線を足元へと落とした。元々、花織に対しての興味を彼は持っていた。それはサッカーを始めた境遇が自分と似ていること、そして円堂とは違う意味で人を、主に異性を惹きつける部分に対しての興味だった。そしてジェミニストームとの試合で美しいフォームでフィールドを駆けていたのも印象深い。そこまでであれば雷門の選手の一人としての認識で終わっていただろう。
だが彼女と密会するたびに、ヒロトの中で彼女に対する興味は強まった。前述したが彼にとってついこの間まで、月島花織という少女はただの円堂の周りにいるその他大勢の人物のひとりでしかなかった。むしろ雷門にとって異色である彼女の存在に違和感を覚えるくらいだったのに。
決定的にヒロトの中で彼女に対しての何かが変わったのは、先日の彼女の意志の強そうな瞳を見てからだ。悪戯に彼女の首を絞め、自分が花織に会いに来ているという事実を言葉無くして口封じさせようとしたあの時。
彼女の恋人への危害を仄めかせた瞬間、彼女の瞳は自分に対する恐怖を捨てた。固い意志を持った瞳でヒロトを睨み、彼の腕を掴んだ。そんな彼女の瞳は彼女自身が想い慕う人のためならば何でもやりとげるだろうという思いをヒロトに感じさせた。
大切な人の目的を果たすためには手段を選ばず、その人が望むものすべてを叶えたいと願うヒロトにとって、彼女の瞳は自分と同類の瞳だと思った。
「俺は、円堂君たちに興味があって……。この間の試合は円堂君のサッカーを知りたいだけだったんだ、円堂君が楽しそうにサッカーをする姿を見ていたから」
ヒロトは自分の方を振り向きもしない花織の背中に訴えかけた。先日の雷門の試合はヒロトが言った通り、雷門中を潰すための試合ではなかった。自分の独断で他から非難を受ける可能性があったにもかかわらず円堂への、雷門中への興味を抑えきれずに行ったものだ。円堂がいう楽しいサッカーという物を体験してみたかった。
彼にとってサッカーとは花織にも話した通り、大切な人にとって大事な物という認識しかなかったからだ。結果は大差でジェネシスが勝利したが、雷門にはまだまだ成長の余地と円堂を中心としたメンバーから諦めない闘志を感じた。ヒロトにとって新鮮な試合だった。
「試合の後、俺は俺の必殺技を受けて倒れた選手が心配だったんだ。……病院へ行った帰り、その時にこの場所で泣いている君を見つけた」
あの日の夜、流星ブレードを受け倒れてしまった吹雪のことが心配だった彼はこっそりと病院へ忍び込み、彼の無事を確認しに来た。その時に今夜のように一人泣いている花織の姿を見つけたのだ。携帯電話を握り締め、一人で背を震わせている姿を見るとヒロトは胸が締め付けられるような感覚に襲われた。何が彼女を悲しませているのか。雷門の内情を探ればジェネシスとの試合の直後、彼女の恋人が雷門を去ってしまったという事実を知った。
「平気で人を傷つけるエイリア学園の貴方が、私一人を心配してこんなところに来たっていうんですか? ……嘘はいい加減にして下さい」
花織の言葉はヒロトを突き放す様に冷たい。花織の声は震えていた。彼女は自分の恋人を追い詰める引き金となった人物に、言葉がどうであれ慰められているという事実に情けなさを感じていた。
「嘘じゃない。……俺、月島さんが泣いている姿を見ると、なぜか胸が苦しくなるんだ。あの試合のせいで君にそんな顔をさせるつもりじゃなかった。……俺を嫌うのは構わないからこれだけは信じてほしい」
ヒロトは痛切に胸の内を花織に伝える。胸の中を急に蝕み始めた今までなかった感情。ただ花織が苦しみに涙している姿を見たくなかった。本当にただそれだけなのだ。ヒロトは花織の腕を掴んでいた力を緩めた。彼は花織が逃げ出すだろうと考えたが、花織はそうしなかった。ヒロトをちらと振り返る、その瞳には困惑の色が浮かんでいた。
「貴方は……」
「月島さん、まだ彼には連絡がつかないんだよね」
花織の言葉を遮るようにヒロトが問う。花織は益々訳の分からないといった顔をしたが、反射的に握っていた携帯を持つ手に力が籠った。それだけでヒロトは彼女が自分の問いかけに肯定したことを悟る。できる限り彼女に対して優しく微笑みかけ、ヒロトは提案した。
「君が手に持っているそれ、通信機だよね。確か通話と文章メッセージが送れるとか」
花織がヒロトの指摘に自らの携帯へ視線を落とす。ヒロトは続けた。
「君の近況を君の大切な人へ伝えてあげたらどうかな。……きっと君のことを彼は心配しているはずだから」
その言葉に花織はハッとした。どうして今までこんなに単純なことに気が付かなかったのだろうと。風丸は電話に出てくれない、いつも彼が電話を切ってしまう。でもメールなら、彼が気の向いたときに読んでくれるはずだ。時間が経って彼の気持ちが落ち着いたとき、彼が戻ってこようとした時に花織が近況をきちんと文章化して送っていれば彼はチームに戻りやすいかもしれない。
「……それじゃあまたね、月島さん」
花織がヒロトへと視線を戻す。だがもうそこにヒロトの姿はなかった。花織が周囲を見回してみても、彼の姿どころかヒロトがいた痕跡すら見つからなかった。花織は複雑な思いで携帯を握り締める。ヒロトは本当に花織のことを心配してここまで来たのだろうか。俄かに信じがたい。しかしヒロトが自身の気持ちを花織に訴えかけた時の声色は、とても嘘をついているようには思えなかった。
ヒロトに気を許したわけではない。だが確かに花織の中でヒロトへの印象は揺らいでいた。
❀
翌朝、キャラバンは沖縄へ向かって出発した。皆が炎のストライカーへの期待で盛り上がる中、花織は黙々と携帯に向かっていた。隣に座っている吹雪が何事かと花織の方をちらとみる。キャラバンの座席だが、円堂の隣には立向居が座ることになりどうにも気まずくなってしまった。そこで花織は隣が空席の吹雪の隣に掛けている。
「花織さん、どうしたの?」
彼女が携帯を弄っている姿はこのキャラバンの旅でほとんどなかった。吹雪が不思議そうに花織を見つめる。花織は吹雪に微笑んで携帯を折りたたんだ。
「一郎太くんにメールをしてたんだ。……きっと一郎太くん、チームの事気にしてると思うから」
いつか彼が戻ることを信じ、花織は携帯をぎゅっと握りしめた。
『突然のメール、ごめんなさい。
一郎太くん、元気にしていますか?
イナズマキャラバンは今、沖縄へ向かっています。沖縄には炎のストライカーと呼ばれる人がいるそうで、皆それが豪炎寺くんではないかと盛り上がっています。私もその人が豪炎寺くんであればいいなと思っています。
一郎太くん、貴方がいないと私はとても寂しいです。それにたった数日間あっていないだけなのに、とても貴方がどうしているかが心配です。我儘な願いですが、貴方の気持ちに整理が付いたら声を聞かせてほしいです。メールでも構わないので。
でも今は無理をしないでゆっくり休んでくださいね。貴方に無理だけはしてほしくないです。
ではまた何かあったら連絡します。
月島花織より』