脅威の侵略者編 第十四章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
あの後、瞳子が花織と吹雪を迎えに来て三人で病院を後にした。誰もほとんど何も話さなかった。花織は吹雪の荷物を持って歩く。隣に立つ吹雪を見て彼の様子を窺った。風丸がキャラバンを去って四日目、今日の夕方には福岡を出発する。行き先はまだ決まっていない。
この四日間、風丸がいなくなってからまだそれだけの時間しか経っていないのが嘘のようだった。もう随分と長い間彼と会っていない気がする。今まで転校してきてからほとんど毎日顔を合わせていたから、彼がいないことが花織にとって不自然なことだった。
あれから何度か風丸に電話をしてみた。しかし彼はわざと電話を切ってしまうようだ。少なくとも着信拒否はされていないようだが、きっと今は話したくないのだろう。彼の心もきっと疲れ切っているのだから休ませるべきだ。……それでも、サッカーのことを抜きにして声だけでも聴きたいと思ってしまう。それは我儘なのだろうか。
「……花織さん」
「……どうしたの? 士郎くん」
突然呼ばれた名前に慌てて吹雪を見た。彼が戻ってくるまで、彼の居場所を守るためにまずは吹雪の心を守ろうと決めた。自分が吹雪のためにできることなら何でもしようと思った。風丸は吹雪と一緒にいてほしくないというかもしれない。でも、それでも風丸にとって吹雪は大切なチームメイト、花織にとっても大切なチームメイトだ。放っておけはしない。
「ううん。……ずっと険しい顔で黙ってるから、何かあったの?」
「あ……、ううん、考え事してただけ。心配させちゃってごめんね」
花織は眉根を下げて吹雪に謝る。一歩一歩踏みしめる足取りが重い。花織は陽花戸中学が見えてくると段々と自分が陰鬱な気分になるのを感じていた。だが足を止めることなく進み続け、花織と吹雪、そして瞳子はグラウンドへと足を踏み入れる。花織はそこで足を止めてしまった。
「……」
グッと息が詰まったような感覚。花織の目の前にはいつもと変わらないグラウンドが広がっている。そこではチームの皆がいつもと変わらない様子で練習していて、マネージャーの皆もいつも通りに皆を応援している。
いつも通りの普通の光景なのに、その中には彼がいない。
「……花織さん?」
急に足を止めた花織を吹雪が振り返る。花織は立ち尽くしてグラウンドを見つめていた。無意識に彼女の瞳は自分の大好きな青い髪を探している。ふと、一瞬青を捕えたような気がしたが、それは錯覚で実際は浦部リカの長い髪だった。花織は空しくなって目を細める。
風に揺れる青い髪、頼もしい声、楽しそうな笑顔……、記憶の中にある彼の姿が目に映ってもこの場に彼はいない。彼のいるべきポジションがぽっかりと空いていることだけが、彼がいなくなったことを確かめる唯一の術だ。
でもその空白もいつか埋まってしまう。それを埋めるのは今までいたチームの誰か、新しく入ってくるチームの誰か、もしかすると花織になってしまうかもしれない。彼の居場所が一つ減ってしまうような感覚だ。彼が戻ってくればきっと彼の為に彼の居場所ができるのだろうけど、彼がいない今、彼の居場所は無くなってゆくばかりだ。彼がいなくたってイナズマキャラバンは前進し続けるのだから。
「……」
――――だから、練習を見たくなかったのだ。
ぽろり、と花織の瞳から静かに一粒の涙が零れた。いくら探してもこのフィールドで風丸を見つけることはできない。今までサッカーをし、見ていく中で風丸だけを追い続けていたのに、彼の姿は今どこにもない。それを実感するのが怖くて花織は吹雪の病室に通い詰めていた。練習を見ていると意識下で風丸の姿を探し、そしていないことに落胆する。それを繰り返すのが堪らなく辛かった。だから吹雪の元へ行くことでグラウンドを避け続けていた。
「花織さん」
ぽん、と肩を叩かれて花織は我に返る。ハッとして自分の名が呼ばれた方を振り向けば、吹雪が心配そうに花織のことを見つめていた。花織は俯く、吹雪の方がよっぽど辛いはずなのに吹雪に心配を掛けてしまったことが途端に申し訳なさとして込み上げてきた。
「何でもないよ。……行こう、士郎くん」
さり気なく涙を拭い、いつものように花織は吹雪に笑って見せる。めそめそしている姿を見せていたのではみんなに迷惑が掛かってしまう。花織はチームでも吹雪の前でもできるだけ気丈に振る舞って見せた。しかしそれがただ無理をしているだけだということに気づいているものは気づいている。
花織さん……。
吹雪もその一人だ。彼女の痛々しい笑顔を見つめて吹雪は心配そうに微笑み返してはみたが、内心は笑えるような心境ではなかった。風丸がこの場を去ってしまったことに対して、彼女がそんなにすぐに立ち直れるわけがないことは分かっている。そんな彼女に一体なんて言葉が掛けられるだろうか。
吹雪は自分に微笑んでくれる花織を想う。彼女が吹雪をどのようなふうに思っているのか、わかってはいるが、それを認めたくはなかった。