脅威の侵略者編 第十四章
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漸く吹雪の退院が決定した。花織はマネージャーを代表して吹雪を病院まで迎えに行った。瞳子は会計などを済ませに行っている。花織は吹雪と一緒に荷物の片づけをしていた。目が覚めてから吹雪は妙に落ち着いている様に思えた。少なくとも面会時間一杯付き添っている花織の前では混乱している様子はない。もっとも、彼女のいない時間に何かあってもわからないわけだが。
「士郎くん、この荷物はこっちでいいかな」
「うん、ありがとう花織さん」
吹雪はせっせと自分の荷物整理を手伝ってくれている花織に視線を向ける。花織は吹雪の目が覚めてから、吹雪のことを"士郎くん"と呼ぶようになった。他人に士郎、と呼ばれたのは吹雪にとってかなり久しぶりの事だった。士郎と呼ばれることで"吹雪士郎"として接することを望まれているような気がした。……僕はアツヤになると決めたのに。吹雪士郎を消すことにしたのに。士郎と呼ばれると士郎で居ずにはいられなかった。
吹雪は花織が自分を名前で呼び始めた理由を尋ねようと思った、けれどそれは出来なかった。今、花織が自分に向けてくれている笑顔は、自分が今作って見せている様に無理をした笑顔のような気がした。そのわけは花織と同じマネージャーである秋から聞かされた。
自分が倒れた後、花織の恋人の風丸がいなくなったらしい。どうりで、と吹雪は思う。花織にとっては何より辛いことじゃないだろうか、と思った。今自分の前で気丈に振る舞えているのが不思議なくらいだ。彼女はきっと強い人なのだ。そして風丸がキャラバンにいなくなったから、花織が自分に付き添ってくれているのだろう。風丸がいるならそれをきっと彼は許しはしないだろうから。
「やっと練習に戻れるね。みんな士郎くんのことを待ってるよ」
吹雪は練習の話題が出ると少し表情が硬くなった。花織は荷物を纏めていてそれには気づかない。……チームの皆は本当に"士郎"を望んでくれているだろうか。花織だって実際を知れば"士郎"を望んでくれないだろう。チームで必要とされているのはフォワードのアツヤの力。ディフェンダーの士郎の力は必要ないのだ。シュートを決めるのが自分の役目、キャラバンに参加した時からの吹雪士郎の役目だから。
「そうだね、僕がんばらないと」
倒れる前は花織に打ち明けようとしていた話、あの試合の後は誰にも話したくなくなってしまった。あの試合でチームの皆の声が聞こえた、アツヤにボールを繋ぐのだと。花織にすべてを話しても花織にも求めているのはアツヤの方だと言われたら自分が壊れてしまうと思う。
「病み上がりだから無理しないでね。何かあったら相談に乗るよ」
「ありがとう、花織さん」
「ね、士郎くん」
花織が吹雪のことを見つめる。その瞳はいつもより大きく見えて、何かを堪えているようで吹雪は胸が締め付けられるような感覚に襲われる。彼女の微笑みは優しくていつも温かいのに、最近の彼女の笑顔を見ると息苦しさに襲われてしまう。
「しばらくは心配だから士郎くんの傍にいてもいいかな……」
「え?」
吹雪は思いもしなかった提案に首を傾げた。仮にも彼女は風丸と付き合っているわけだし、吹雪の傍にこれ以上いることを望まないと思ったのに。
「うん、ありがとう」
とにかく拒否はせずに礼を言っておく。吹雪にとっては花織が傍にいてくれるのは願ったりかなったりのはずだった。花織はありがとう、といってひとまず安堵したように笑う。その微笑もやっぱり何か自分の欲しい花織の笑顔と違っていて。
花織が自分に向かって笑っている、僕だけを見つめて。望んでいた事なのに何故か凄く胸が痛くて堪らない。