脅威の侵略者編 第十三章
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翌日、土砂降りだった雨は止み、空には快晴が戻った。だがキャプテンの円堂は未だ陽花戸中学の屋上で座り込んだまま、食事もとらないでいる。彼はキャプテンとして吹雪や風丸のことに重く責任を感じているようだった。チームの誰もがあんな円堂を見たことがなかった。
一方で花織は練習にこそ参加しないものの、マネージャー業はいつも通りこなしているようだった。ただその表情には笑顔は無く、どこか呆然としたふうに黙々と作業をこなしている。秋や春奈が休んでいたら声を掛けるが大丈夫、の一点張りでマネージャーの仕事を続けている。
チームは今、ガタガタだった。風丸の離脱、円堂の練習拒否それによって練習に全く身が入らない様子だ。簡単なボールのトラップミス、パスも繋がらない、ボールを蹴っても見当違いの方向へ飛んでいく有様。きちんと練習に取り組めているのは鬼道だけのようだ。
「皆、練習に集中できてないな……」
「そういう俺たちもな」
練習上がりに一之瀬がぽつりとつぶやき、それに土門が同調した。彼らもこの二日間で起こった出来事に動揺を隠しきれないでいるのだ。一之瀬がフッと視線を逸らす。視線の先には今にも消えてしまいそうな花織の姿があった。
「花織、大丈夫かな……」
「円堂も心配だけど、花織ちゃんも無理しちゃってるよな」
ガシガシと土門が頭を掻く。この二人はなんだかんだ花織と仲が良く、花織にとって風丸と鬼道の次くらいには過ごす時間が長い。
だから彼女が今、どれだけ辛い思いをしているかはよくわかる。特に土門は花織と風丸が付き合い始めたころの仲睦まじい様子から今まで、ずっと彼らのことを近くで見てきた。風丸がどれだけ花織を好いていたかも知っているし、もちろん花織がどれだけ風丸を想っていたかもわかっている。
「一之瀬、花織ちゃんと話してみないか? 俺、あんな顔してる花織ちゃんを放って置けないし」
「そうだね。……いいよ、俺も友達が悩んでるのを放って置けないからさ」
いつでも彼らは花織の相談役だ。彼女が以前悩み苦しんだ時も彼らは花織の助けになった。
今回もたとえ微力であろうと助けになればと思った。きっと辛いことを話すだけでも楽になるに違いない。花織を元気づけようと花織の元へ二人は向かう。
「花織ちゃん!」
土門が花織を呼べば、花織はゆっくりと振り返った。土門は思わず口籠ってしまう、近くにいくと益々彼女は痛々しくて悲痛さに満ちていた。何と声を掛けるのが正しいのだろう。土門は思いつく言葉を述べる。
「あのさ……、元気出せよ。風丸なら絶対戻って来るさ」
「……そうだね」
花織が俯き土門の言葉に肯定する。いつもの様な明るさ、微笑は無い。今にも泣き出しそうな目をして花織は黙り込んでいる。土門は分からなかった、何を言って花織を励ませばいつもの彼女に戻ってくれるのか。今度は一之瀬が花織に言葉を掛けようとする、だがそれよりも速く二人の間に静かな声が分け入った。
「一之瀬、土門」
名前を呼ばれて彼らは振り返る。そこにはかつての彼女の想い人、鬼道有人の姿があった。実質今、チームを引っ張っている存在。彼は普段通り落ち着いた様子をしていて両腕を組んで二人を、そして奥にいる花織を見ている。花織は顔を上げた、そして鬼道にじっと視線を向ける。鬼道は黙って二人の間を裂き、花織の前に歩み出た。
「花織のことは一度俺に任せてくれないか」
「え?」
唐突な提案だった。一之瀬と土門は顔を見合わせる。確かに……、花織のことを熟知していると呼べるのは風丸を除けば鬼道だけだろう。何せ鬼道は花織にとってある種特別な人間であるのだ。そして鬼道にとっても。しかし、彼らが2人きりで話をするというのはどうだろう。
「え、でも鬼道……、君は」
「頼む、花織とふたりで話したい」
有無を言わせない口調だった。鬼道の声には何か固い意志の様なものが感じられた。何より彼からは花織に対する揺るぎ無い愛情を感じる。
……今でもこの男の想いは変わりはしないのだ。一之瀬と土門は分かった、と鬼道の言葉に頷きその場を退散する。鬼道は花織の手を取る。そしてマントを翻し、花織に微笑んだ。
「行くぞ、花織」
ズタズタになった花織の心に、鬼道の声は変わらずに響いた。