脅威の侵略者編 第十二章
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
昨晩の出来事を花織は誰にも打ち明けることができなかった。
朝、円堂から今日は友達のチームと試合をすることになったという話が挙がった。正午に陽花戸グラウンドで、それは昨日花織にヒロトと名乗った少年が告げた約束そのままだった。恐らく昨日彼が言っていたことは本当の事なのだろう。そして円堂はそれがエイリア学園の者だとは全く気付いていない。
花織は何も言えなかった、ずっと。皆が試合の準備を始めても打ち明けることができなかった。円堂に、鬼道に……もしくは風丸に告げることを考えはした。でも言えなかった、言えば昨日の出来事をすべて話すことになる。きっと風丸は花織を酷く心配するに違いない。恐らくこれからエイリアとの戦いになる。そんなときに彼の心を動揺させたくない。
「一郎太くん……」
「花織?」
花織はぎゅうっと風丸の腕にしがみ付いて顔を伏せた。風丸が滅多に見ない彼女の仕草に照れるよりも先に不安を抱いた。彼女の身体が微かに震えている。見るからにただ事ではない。風丸は自分の腕に抱きついている花織にどうしたんだ、と声を掛ける。
「何かあったのか、花織。どうしてそんなに震えてるんだ?」
風丸が花織に問いかける。だが花織は首を振るだけで何も言わない。さらに風丸が質問を続けようとすると春奈が時計を見ながら大きな声で十二時になりましたと叫んだ。花織がビクッ、と身を震わせる。
刹那、陽花戸中の全域に暗雲が立ち込めはじめた。雷門イレブンは瞬時に何が起こるかを悟る。この不穏な空気、エイリア学園が現れる時に立ち込める黒い気……。エイリア学園が現れるのだ。花織はひしと風丸に縋る。風丸は花織の表情をちらと見つつ、困惑しているようだった。
「来た!」
鬼道が叫ぶ。するとグラウンドの中央に白い光が現れる。その光の中には十一人の選手たちが立っている。ユニフォームのデザインを見る限り、間違いなくエイリアのものだ。だが見覚えの無い者たちばかり。そしてその選手たちの中央には髪型こそ違うが、赤い髪の、花織が昨日あった少年が立っていた。
「やあ、円堂くん」
赤い髪の少年が微笑を浮かべて円堂の名を呼んだ。ちらりと花織の方にも視線を寄せたが、一瞬眉を寄せただけで彼女のことは何も言いはしない。名前を呼ばれた円堂は困惑していた。一瞬誰だかわかっていなかったようであるが、思い立ったように円堂は呟く。
「まさか、お前……ヒロト⁉」
ヒロト、という聞き覚えのある名前に花織は少し後ずさる。風丸の腕を静かに離した、が風丸は花織の方を見なかった。ただエイリア学園の者たちを見つめているようだ。
「これが俺のチーム、エイリア学園ザ・ジェネシスっていうんだ。よろしく」
ヒロトは円堂の動揺を気にも留めずに平然とチームを紹介した。円堂は雷門のメンバーの誰よりも動揺しているようだった。無理もないだろう、今まで人間だと思って接していた人物が宇宙人だったのだから。花織はジェネシスの面々から視線を逸らす。その時彼女は見た、自分の大切な彼の表情が見るからにショックを受け、絶望に染まったのを。
「エイリア学園にはまだほかのチームがあったって事か……!」
その声色と表情に花織は途轍もなく嫌な予感を覚えた。
「さあ円堂くん。サッカー、やろうよ」
ジェネシスと雷門の試合はジェネシスメンバーの中でも困惑があるようだった。どうやらヒロトことグランの独断で決めた試合らしい。彼の言い分は円堂たちのサッカーが気になるから、とのことだった。
吹雪とリカのツートップで試合はスタートした。
しかしジェネシスとの試合はまるでジェミニストームとの試合の再来だった。必殺技を使わないノーマルシュートでさえ止められない。それどころか選手一人も止められない。圧倒的に実力差の出た試合だった。
花織はこの圧倒的な試合に息の詰まる様な感覚を覚えていた。風丸がボールをカットしようと躍起になっているのが分かったが、彼はボールを奪うことができなかった。そしてヒロトに睨まれて以降、ずっと彼の足は止まりがちだ。昨日の試合とは一変して暗い表情、いや花織の見たことの無い表情をしていた。
……一郎太くん。
花織は風丸に何かあったことを悟った。だがもっと様子がおかしいのは吹雪だ。ミスと絶叫を繰り返し、とてもじゃないが普通ではない。どちらかといえば吹雪のことが気がかりだった。
「流星ブレード‼」
ヒロトが必殺技を放つ。鋭いボールがゴールへと向かった。円堂が危ない、誰もがそう思った。吹雪が絶叫しながらボールへ向かって走り出す。そして彼はボールに顔面から体当たりをし、試合は中断した。
「吹雪くん‼」
倒れたまま立ち上がらない吹雪に向かって花織は走り出す。彼女は自分の恋人が呆然と立ち尽くしているのに気付けなかった。目の前にいる怪我人に意識が完全に向かっていた、彼女は意識の戻らない吹雪の名前を必死で叫んでいる。
風丸はそんな様子をベールが掛かった白い靄の中で聞いていた。
――――勝てない、 勝てる気がしない。
圧倒的な実力差、吹雪なんて目ではないほど。ジェミニストームの時と同じ、目すら追いつけていなかった。こんなに努力してきたのに。風丸の心内はその想いで一杯だった。勝てない、勝てる気がしない。速すぎる、追いつけるわけがない。勝てない勝てない勝てない勝てない。
――――実力が違いすぎる。 才能だって違いすぎる。
「こんな奴らとやってもウォーミングアップにもなりゃしない」
ジェネシスの選手の誰かが呟いた言葉が、風丸の心に止めを差した。風丸はエイリア学園の選手との実力では超えることのできない壁を見た。高く大きく、自分の実力ではどうしようもできない黒い大きな壁。突きつけられた現実に彼の心は音もなく静かに崩壊していく。悔しさすらもう感じない、ただ感じるのは脱力感と絶望感だけだった。