脅威の侵略者編 第十二章
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二人の少年が酷く深刻な悩みを抱えていた。その悩み、一人は顕在化するほど追いつめられ、周囲から徐々に異変を悟られつつあった。しかしもう一方は悩んでいること自体をひた隠しにしており、誰にも彼に最も近しい人にも明瞭に悟られてはいなかった。この二人の少年の悩み事は違うように見えたが、実の所根底は同じものであった。
――――力が欲しい。
誰よりも強い力を彼らは心の底から求めていた。
❀
福岡のとある中学で円堂大介のノートが発見されたらしい。
そんな話が円堂らの元へと舞い込んできた。何でも響木監督がずっとエイリアの調査を続けていくうえで知り得た情報なのらしい。そのノートを手に入れるため、一行は福岡にある陽花戸中学へと向かうことになった。
「じいちゃんのノートか! きっとスッゲー技が一杯載ってるんだぜ! 楽しみだよなあ!」
風丸の隣で円堂がはしゃぐ。円堂の祖父、円堂大介はサッカーの必殺技を何冊かのノートに残している。円堂にとってそれは祖父の形見であり、強くなるための足掛かりになるものであった。
「エイリア学園を倒すためにきっと役に立つはずだ! な、風丸、月島!」
「……ああ、そうだな」
風丸が心なしか低い声で円堂の言葉に返答した。風丸は俯く、新しい必殺技を仮に修得できたとしてエイリア学園に勝てるだろうか。奴らとは根本的に力差があるような気がしてならない。前回イプシロンと引き分けてからずっと考えている。自分たちの努力を遥かに超えた強さでエイリア学園の新たなチームが現れるかもしれない。
「ん? 風丸何か元気ないな……、ってああ、月島が寝てるのか」
円堂は風丸の声のトーンの変化に気が付いたようだが、それは風丸の隣で眠っている花織の為だと思ったようだ。現在、シートには通路側から円堂、風丸そして花織の順で腰かけている。風丸がたとえ幼馴染であろうと円堂の隣に花織を座らせるのを嫌ったためだ。
そして現在、花織は風丸の肩に凭れてすうすうと寝息を立てている。今朝大阪を出発したばかりなのだが、彼女は夜遅くまでナニワの練習所で練習をしていた為、寝不足気味だったのである。円堂が同じシートで騒いでいても目が覚めないほど、彼女はぐっすりと眠りこんでいる。
「……ああ悪いな、円堂。花織も疲れてるみたいなんだ」
「そっかー。月島、最近頑張ってるみたいだもんな。秋が言ってたぜ、練習に参加する為に早起きして料理とか洗濯とかしてくれてるって」
「ああ。……そうみたいだな」
風丸が花織の手に手を添えながら円堂の言葉を肯定した。静かに眠る花織の顔を見つめる。
花織に対しても風丸は思い悩んでいることがあった。一つは今、円堂が言うように花織が無茶苦茶な特訓をしているらしいことだ。花織が深夜に特訓をしていることを今まで確信は持てなかったが、今花織が眠っているのを見て確信した。彼女はチームの為に必死で努力をしている。選手ではなく、マネージャーという身分にも関わらず。そしてその努力での疲労を一切見せないで風丸に対して、いつも労いの言葉を掛ける。風丸だけに応援を投げかけてくれる。
だからこの頃、自分を応援してくれる花織の笑顔に結果で答えられない自分が益々情けなかった。円堂に似た眩しさを持っているように思えてしまう自分の恋人。彼女の気持ちに答えられないことで彼女がどんどん自分から離れて行ってしまうようで怖くなる。
そう思う理由はもう一つあった。先日の吹雪と密会している姿を見てからだ。あれから花織が吹雪と話している様子はないが、随分と吹雪を気に掛けているようだった。自分より速い、吹雪のことを。それがいったい何を意味しているのかは分からない。もちろん花織を信じているが、もしかしてという気持ちも拭えない。すべてがネガティブに思えて仕方がないのだ。
「花織の為にもっと強くならないと……」
ぼそりと風丸が呟く。ぎゅっと花織の手を握り締めた。花織が自分から離れていかない様に、誰にも奪われてしまわない様に。花織にとって誰よりも速い人間で居られるように。そんな切実な思いを抱きながら。
「……風丸」
そんな風丸の呟きを円堂は確かに聞いていた。ただ彼は風丸の底意を汲み取れたわけではなく、上辺の言葉だけを真実だと思い込んでいた。