脅威の侵略者編 第十一章
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風丸は花織の姿が再び見えないことに気が付いてピッチを出た。毎度毎度、彼女の姿を探して練り歩いている自分に呆れの気持ちすら湧いてくるくらいだ。しかしもしものことがあってはいけないと言い訳をして彼女を探す、何しろここはエイリア学園の所有する建物だからだ。
歩きながら風丸は今日の試合を思い返していた。引き分けた、チームの皆はそれにとても喜んでいた。だが風丸はあまり素直に喜べなかった。他の気持ちの方が彼の心の中での大半を占めていたからだった。
――――勝てなかった、こんなに頑張ったのに。
この練習所で特訓を重ねて、風丸は自身かなりパワーアップをしたつもりだった。前半が終わった時点でこれなら勝てると思った。だが勝てなかった。それどころか自分の技は奴らには通用しなかった。たった一度繰り出した疾風ダッシュはイプシロンのディフェンスに止められてしまった。
この戦いはいつまで続くのだろう。イプシロンを倒して、本当にそれで終わりになるだろうか? またジェミニストームを倒した時のように新たなさらに強いチームが現れたら? 特訓しても勝てなかったらどうすればいいのだろう。
エイリア学園を倒すために自分は今特訓を重ねている。でもエイリア学園を倒せなかったらどうすればいい。花織に愛想を尽かされてしまったらどうすればいい。
強くなりたかった。もっと、自分がもっと強ければイプシロンに勝てたかもしれない。誰よりも速く在れたかもしれない。力が欲しくて努力を重ねているのにその努力に自分のパワーアップは見合わない。
風丸は鬱々とした気分で暗い廊下を歩いている。するとその時声が聞こえた。少女の高い声だ、よくは聞こえなかったが風丸はそれを花織の声だと確信した。急いで廊下を駆ける。そして声のする、先の廊下を覗き込んだ。
「……‼」
そこには吹雪と花織の姿があった。何やら二人で話し込んでいるようだが、内容は風丸までは届いてこない。唯花織が心配そうに吹雪の顔を覗きこんでいる姿が目に入った。
――――どうして、吹雪と花織が?
風丸の中で黒い感情が溢れ出す。吹雪は、今日の試合でも大活躍だった。誰よりも雷門の勝利に貢献して、何よりもエターナルブリザードでデザームのゴールをこじ開けた。俺とは違う、強い人間だ。
風丸はこっそりとふたりの様子を窺う。何故こんなところに二人はいるのだろう。そういえば、今日のハーフタイムもふたりの姿が無かった。もしかしてこんなふうに密会していたのか? しかしそもそも何故、風丸に隠れてコソコソ密会をする必要がある? もしかして自分の知らぬところでふたりは親密な仲になっているのではないだろうか、とそんな考えが風丸の頭を過った。風丸は吹雪が花織に対して他とは違う、特別な想いを持っていることは知っていた。
――――でも花織は昨日の朝にも、風丸に改めて好きだと言ってくれたはずなのに。
もしかして今日の試合結果のせいだろうか、と風丸はひとりありもしない考えを思う。今日の試合、活躍していたのは吹雪だった。心なしか彼女の視線が吹雪の方を向いていたような気がする。だから愛想を尽かされたのか。
すっと花織の手が吹雪の手に重ねられるのが見えた。風丸は眉間に皺を寄せ、険しい表情をした。このまま黙って見ていることはできなかった。だがもしも、二人には風丸の知らない何かがあってずかずかと踏み込むことになるのは怖かった。だから彼は、たった今ここに来た体を装った。
「花織」
風丸は平静を装って自分の彼女の名前を呼ぶ。すると花織はハッとして自分の方を見た。ふっと一瞬のうちに表情が変わったのは気のせいではないはずだ。風丸は花織の方へと歩み寄ると何気なく二人に尋ねた。
「どうしたんだよ、こんなところで。何かあったのか?」
「え、えっと……」
ちら、と花織は吹雪を振り返った。彼女には彼女の考えがあった。吹雪の悩みを自分の恋人で吹雪のチームメイトであるとはいえ、風丸に打ち明けてもいいものだろうか。吹雪はとても深刻に悩んでいる様に思える。もしかして人に言ってほしくはないことなのかもしれない。
「な、何でもないよ。……トイレに来たらばったり吹雪くんと会って、少し話してただけだから」
「……そうか」
花織は黙っていることを選んで風丸には吹雪との話を誤魔化した。だが風丸は彼女が何かを隠していることを悟った。彼女の一瞬の表情、吹雪の様子を窺った時点で何か自分に隠していると確信できた。でも彼女は何故、自分に隠し事をするのだろうか。後ろめたいことが、あるのだろうか……。
「だったら戻ろうぜ。……花織の姿が見えなかったから心配だったんだ」
「えっ、探しに来てくれたの?」
花織は驚いたような顔をした。そして少し嬉しそうに風丸に微笑んでみせる。風丸はぎゅうと胸が締め付けられるような感覚に陥った。いつもと変わらないじゃないか、花織が隠している何かは俺の勘違いなのだろうか。そう思うくらい彼女の表情は素直だった。
「ありがとう、一郎太くん。……吹雪くんも一緒に戻ろう?」
だが花織はそこで吹雪のことを気に掛けた。風丸は吹雪を振り返った花織越しに吹雪のことを睨んだ。……やっぱり何かあるのだろうか、風丸は疑心暗鬼になっていた。吹雪は自分が風丸に向けられた視線を受けて花織の言葉に首を振る。
「僕はもう少しここに居るよ。花織さんと風丸くんは先に戻ってて……」
「わかった。戻るぞ、花織」
半ば強引に花織の腕を引っ張り、風丸はもう一度牽制するように吹雪を睨んだ。吹雪はその表情に困ったような表情を見せる。そして胸のうちでは明らかに自分が落胆しているのを感じていた。
吹雪が自分をわかってくれると可能性を感じていた花織に、相談できない理由は風丸だ。風丸は花織さえ絡まなければ吹雪に良くしてくれる優しい人物なのだが、花織が絡むとどうにも吹雪に敵対心を感じているようだった。それは吹雪の中にある花織に対する特別な気持ちに気づいての事だろう。今までも吹雪が花織に話しかけようものなら即座に気に入らない様子を見せていた。
今回もそうだ、今にも吹雪を睨み殺しそうな勢いで睨んで半ば強引に花織を連れてこの場を去った。
……花織さんには言えない。
吹雪はまた一つ、自分の気持ちを吐き出す術をここで失ったのだ。彼自身が壊れてしまう前に。