脅威の侵略者編 第十一章
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後半は特に吹雪のワンマンプレーが目立った。花織は今回ばかりは吹雪のことが気に掛かって自然と吹雪のことを見ていた。吹雪は荒々しく、普段の穏やかさなど全く窺えないほど荒れていて、味方であるリカのボールを奪ったり、雄たけびを上げたりする姿も見られた。明らかに吹雪の様子がおかしく、ディフェンスミスも目立った。そしてそれに続く木暮のミスでイプシロンに一点リードされてしまった。
その後何とか持ち直し、吹雪はエターナルブリザードで一点をもぎ取った。イプシロンへの初得点にチームのテンションは上がり、このまま逆転できるかもしれないと思われた。しかし、そう上手くもいかなかった。キーパーのデザームが新たな必殺技を繰り出したのだ。ワームホールよりも格段上、ドリルスマッシャーという名前の必殺技だ。
その必殺技の前に得点は決まらず、結局一対一で引き分けという形で今回の試合は終結した。勝てなかった、だがそれでも引き分けだ。前回あんなにボロボロに負けたイプシロンに対し、引き分けという結果を収めたのだ。それは大きな進歩であると言えるだろう。
しかし得点を決めたはずの吹雪は浮かない顔をし、一人ピッチを去って行った。ずっと試合中も吹雪の様子を窺っていた花織は、その姿を目の端で捕えて吹雪の背を見つめる。やはり今日の彼はおかしい。先ほどは聞くことができなかったがやはり話を聞いてみるべきではないのだろうか。選手が悩んでいるならば話を聞くのは監督やマネージャーの役目だ。
花織は吹雪の姿を追って男子トイレに向かう。先ほどと同じ場所だ、きっと彼はそこにいると思った。男子トイレへと歩を進めてみる、さすがに男子トイレに踏み込むというのは気が引けた。恐る恐る中を覗き込む。
パアン、と何かを叩くような音が響いた。花織はびくりと肩を震わせる、どうやら吹雪が正面の鏡に手を突いたようだった。洗面台の鏡に映る吹雪は苦しそうに顔を歪めている。いったい何に苦しんでいるのだろうか、花織は覚悟を決めて中に入る吹雪に声を掛ける。
「吹雪くん」
トイレの中に花織の声は良く響いた。吹雪がハッとして入り口を振り返る。
「……花織さん」
「吹雪くん、どうしたの? 何かあったの?」
花織さん、と自分を呼んだその声にひとまず花織は安心した。今の吹雪は試合中の吹雪ではないようだ。花織は続けて吹雪に問いかける。吹雪はその問いに答えあぐねているようだった。それを察して花織は吹雪に提案する。
「とりあえず出てきてくれないかな。私、中には入れないから……」
花織がそういうと吹雪は俯き気味にトイレから出てきた。その表情は俯いていてわからなかったが、明らかに不安げで苦しげなのは明白だった。花織は吹雪の顔を覗きこもうとする。吹雪はふいとそっぽを向いた。
「最近、吹雪くん元気ないね。何かあった? ……私で良ければ話を聞くよ?」
優しく花織が吹雪に声を掛ける。吹雪はゆっくりと顔を上げ、花織を子犬の様な目で見つめた。
月島花織、彼女は吹雪にとって他とは違う女性に思えた。白恋で出会った時から単純に可愛くて優しい人だとは思っていた。仲良くなりたい、可能ならば自分の特別な存在になればいいのに。そんな中学生らしい単純な恋心くらいには恋人のいる花織を想っていた。
でもこの頃は違う、この頃は彼女に自分を理解してほしいと思うようになっていた。先日、深夜に彼女に会ってからだ。
花織は吹雪の中にある"もう一人の吹雪"を見分けた。無論彼女だけができるわけではない、白恋の皆だって分かってくれている。でも花織は"もう一人の吹雪"の存在すら知らないで吹雪を見分けたのだ。だから吹雪士郎は出来ることなら彼女に縋りたかった、自分を見つけてくれる可能性のある花織に。どこまでも底抜けに優しい雷門イレブンのマネージャーに。しかしそれは無理だと彼は思っていた。
「あの、花織さん……」
「うん」
「僕に元気がないって……、どうしてわかるの?」
吹雪は小手調べに彼女の言葉を繰り返す。花織はうーん、と少し困ったような声を上げながら吹雪の問いかけに答えた。
「最近、吹雪くんが無理をしているような気がするから。あんなに無茶に練習してたり、こんなふうに急にどこかに行っちゃったり。前の吹雪くんはそんなことしてなかったように思うから。それに今日の試合、吹雪くんいつもよりミスが多いように感じたの、ディフェンスのときだけ」
「そっか……」
吹雪はぎゅうと手を握り締めた。この人は思っているより自分のことを見てくれている。吹雪士郎という存在に触れようとしてくれている。たとえそれがマネージャーとしての行動だとしても。吹雪はぶるぶると手を震わせた。その手に花織の手がそっと重ねられる。吹雪は温かいその手に縋るように自分が聞きたかった言葉を繰り出した。
「花織さん……。今日の僕、変じゃなかった?」