脅威の侵略者編 第十一章
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とうとう、イプシロンとの約束の日がやってきた。
夏未たちが予想していた通り、大阪ギャルズたちが練習していたこの練習所はエイリア学園が所有していた物だったらしい。どうやら雷門イレブンがここで練習をしていたことも知っていたようだ。だが知っていて何故ここでの練習を黙認していたのだろうか、それは分からないが多分エイリア学園側にも考えがあるのだろう。
試合は練習所の地下にあるフィールドで行われることになった。今回の試合から大阪ギャルズCCCのキャプテン、浦部リカが正式にキャラバンに参加することになった。加入したばかりのリカをフォワードに置いて試合はスタートする。花織は今回、人数が足りている為ベンチで待機である。花織は春奈の隣に腰かけて試合展開をじっと見ていた。
特訓のおかげか、先日コテンパンにやられたイプシロンの選手たちに対して互角に戦えていると言える。シュートを打つチャンスも何度もあった。だがキーパー、デザームの守備力が高く、ゴールを崩すことができない。だが円堂の方もイプシロンのシュートを止めることができているから息詰まるような攻防が続いている。
ギリギリの試合展開、そんな中で花織は一人の選手が気に掛かって仕方がなかった。普段彼女は試合のほとんどの時間、自分の恋人である風丸に視線を注いでいる。だが今日はどうしても雷門の現在のエースストライカー吹雪の動きが気に掛かった。
イプシロンのキーパー、デザームに対して人一倍敵愾心を見せている。ディフェンスに参加している間も攻撃に気を取られ過ぎている。どこか様子がおかしいようにも感じた。
ハーフタイム、皆イプシロンと互角に戦えていることにチームの士気は上がっていた。
「いいぞ、皆! イプシロンの動きに負けてないぜ!」
「絶対に奴らの動きを止めてやるでヤンス!」
「俺たちの力を見せてやろう!」
風丸も、今日は何となく自信に満ちているような感じで花織は安堵した。エイリア学園との戦いで彼は楽しいサッカーができなくなっている様に感じていたから、彼が試合中笑顔でいるだけで安心できる。その時花織の目にふらりとどこかへ向かう吹雪の姿が見えた。その様子はやはりいつもと違ってどこか妙に見える。
「……」
花織は心配になって吹雪の後を追った。最近の吹雪はどこかおかしい。どことなく悩んでいるようだし、先日の夜の出来事も気になっている。一度じっくり話を聞いた方がいいかもしれない。
地下通路の暗い道、花織は吹雪の姿を探す。耳を澄ませてみればどこかから静かに水音が聞こえた。花織はその音を追って歩を進める。音はどうやら男子トイレから聞こえているようであった。流石に男子トイレに踏み込むことはできず、入り口の横に背を預けて中の様子を窺う。
人の気配は水音のせいでわからない。でもバシャバシャ、と不規則な水音がすることから誰かがいるような気がする。花織はじっと入口の傍で聞き耳を立てる。中からぼそぼそと誰かの声が聞こえた。
「点を取るんだ、僕が取らなければ……」
トイレは音が響いて良く声が聞こえた。花織は確信する、吹雪の声だ。誰かと話しているわけではなさそうで、まるでその声は自分に言い聞かせているような感じであった。花織は益々じっと中の様子に耳を澄ませる。
「フォワードもディフェンスも、ちゃんとやらなくちゃ」
花織はフッと顔を顰めた。チームの作戦が、吹雪にとって負担になっているのではないかと考える。後半も吹雪はディフェンススタートで、攻撃のチャンスが来れば即座に攻撃に切り替えるというスタンスで行くことに決まっていた。瞳子の作戦だ、鬼道が先ほど吹雪に負担が大きいのではと苦言を呈していた。吹雪はその時"僕は大丈夫だから"と言っていたが、やはり負担が大きいのではないかと花織は訝しむ。一度監督に抗議してみるべきかもしれない。
「……完璧になるんだ」
キュッと蛇口を捻る音がする。それと同時に足音がこちらへ近づいてくる気がした。花織は自身どうしてかわからないが、慌てて吹雪に見つからないよう女子トイレの中へと駆けこんだ。盗み聞きをしていたことに悪い気がしたのか、それともこの間の一件のせいで気まずいのか自分にもわからないが。花織に気づかず廊下を歩いていく吹雪の横顔を見る。鬼気迫る、ピリピリとした表情をしていた。とても大丈夫そうには思えなかった。
❀
一方その頃、風丸は突然姿の見えなくなった花織を探していた。いつもハーフタイムは一緒に話をしたり、後半に向けてのアドバイスを風丸にくれるのだが、どこにも姿が見当たらない。後半はもうすぐ始まってしまうというのに。
「あれ? 吹雪は?」
近くにいた円堂がきょろきょろとあたりを見回しながら呟く。その言葉に秋がそういえば見ていない、と一緒になって吹雪の姿を探し始めた。風丸はふっと眉間に皺を寄せる。
――――花織の姿がない、そして吹雪の姿も。
もしかしてと自分にとって不愉快な想像が沸き起こるのを、彼は押さえることができなかった。きっとそんなはずはないのに。