脅威の侵略者編 第十一章
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花織とリカは思うよりも気が合うようだった。夕食を終えて約束した通り、ふたりで女子トークを繰り広げた。手始めにリカが一之瀬と出会った時の話をし、次に花織はナニワランドでの風丸との話をした。そこからふたりの仲の良さにテンションの上がったリカが花織と風丸の出会いに興味を持ち、花織は結局彼との出会いからここまでの顛末を話すことになった。
それは随分長い話になったが、花織は人に話すことではないと思いつつも、聞き上手なリカの質問に答える形ですべてを話した。リカは花織の話に恋愛ドラマさながら涙を流す場面もあった。
熱い女子トークでふたりは仲を深め、明日もまた話をする約束をしてリカは実家へと帰って行った。また明日、彼女は練習所で雷門の皆と練習をするらしい。そして今、花織はシャワーから戻ってきた一之瀬と土門と出会い、話しをしているところであった。
「いやあ、一之瀬にいきなり彼女ができるなんて思わなかったなあ」
にやーっと笑いながら土門が一之瀬を見た。今は三人で練習所のベンチに掛けている。土門にからかいの言葉を掛けられた一之瀬は困ったように笑い、ため息をついた。
「だから彼女じゃないって。別に結婚するとかもないし」
「いい子だよ、リカちゃん。話してると面白くて」
花織が隣に掛けている一之瀬にくすりと笑い掛けた。一之瀬は花織まで……、と自分の境遇に同情してくれるだろうと思っていた花織の反応に眉根を下げる。ふう、とまたため息をつくと一之瀬は両手を組んだ。
「悪い子じゃないのは分かってるよ。でも俺は秋が好きだから」
ざっくりと自分の想いを一之瀬は口にする。花織はその言葉にふっと優しげに微笑んだ。一之瀬は自分を曲げない。リカを傷つけないために自分の想いを彼女の前で口にすることは無いが、自分の心はしっかりと持っている。
「そうだね。……一之瀬くんには秋ちゃんがいるもんね」
秋は円堂が好きだ。それでも一之瀬の想いは揺らがないのだからきっとリカが彼の心に触れることはできないのだろう。それを思うと花織はどうにも切なく感じてしまう。花織の今も、色々な人の気持ちを犠牲にしてここに在る。我を通すために他の誰かの気持ちを振り切ってきた。本当は全員の気持ちが実ればいいと思うのに。
「それはそうと花織、ちゃんと風丸と仲直りした?」
「あ、そういえば、俺も気になってたんだよな。風丸のやつ、練習の時かなり殺気立ってたし」
一之瀬が話を変えるために花織に尋ねた言葉に、土門も思い出すように言った。花織は困ったように笑ってその場を誤魔化そうとする。その態度からは彼女がきちんと風丸と話ができていないのが簡単に悟ることができる。
「まだ……。何だか話しかけ辛くて。一郎太くん、いつもと少し雰囲気が違うの。……やっぱり怒ってた?」
「俺たちと話してる時は普通だったけどな。……まあ、それなりにイラついてる感じはあるな。たまにめちゃくちゃ怖い顔してる時あったし」
「そっか……」
謝ろう、話しをしようとは常々思っている。だが食事の時も自由時間も彼に話しかける隙がない。それは花織が彼に負い目を感じているせいもあるかもしれないが、何となく避けられているような気もしていた。
「今日の花織と鬼道のやり取りは不味かったと思う。……風丸って花織のこと本当に好きだからさ、ワザと他の奴の衣服を身につけたりするのはダメだよ。特に、君が以前想いを寄せていた鬼道のはね」
「うん。……そうだね、私が一郎太くんの立場でも嫌だと思う。分かってはいたんだけど」
いつも自分が落ち込んでいる時、悩んでいる時は瞬時に自分の気持ちを察して心配してくれるくせに、今回に限って自分の気持ちに気づいてくれない彼にムッとして思わず取ってしまった行動。これがここまで尾を引くなんて思っていなかった。
初めは風丸の方に非があったのかもしれないが、今では自分の行動がどれだけ風丸の気に障るか自覚している分花織の方が非は大きい。もっとも、自覚していないのもどうかと思うが。
「あの時は花織ちゃんも相当イライラしてたみたいだしなー。風丸にも悪いところはあったわけだし」
「だって、何か本当に頭に来ちゃって。……あんなに他の女の子にデレデレする一郎太くん、初めて見たし……」
思い出すと花織はまたむくれてそっぽを向く。土門はその様子に苦笑した。彼女も反省はしているものの、溜飲が下がったとは言えないようだ。鬼道の言うようにはさっさとはっきり自分の気持ちを風丸に伝えるべきだろう。
「俺の知る限りだと、風丸は花織ちゃん以外に見えて無いことばっかりだったからなあ。……まあ早めに仲直りしろよ」
「うん。……あの、ふたりにお願いしてもいい? 彼に言伝してほしいんだけど」
花織が申し訳なさそうに二人の顔を覗きこんだ。今日は時間的にも彼に会うのは難しそうだし、彼女にはこれからやりたいこともあった。彼もそろそろ休むだろう。明日の朝、練習の前にじっくり話す方がいいかもしれない。
「構わないよ。何て?」
「明日の朝、朝食を取ったら着替える前にキャラバンに来てほしい、って」
朝、朝食の時間から練習開始まで準備を含めて一時間ある。普段は着替えをするためにメンバーはキャラバンを使うが、この練習所には更衣室がある。恐らく、というか確実にキャラバンは無人になるだろう。そこで話せればいい、もちろん彼が来てくれれば、だが。
「了解!んじゃ、そろそろ戻りますか。消灯時間も近いしな」
「そうだな」
土門と一之瀬が立ち上がる。時刻はもうすぐ午後九時を過ぎる。キャラバンに戻らなければならないだろう。実際、点呼などはしないから戻ってなくても分からないのだが。花織も一緒に立ち上がったが、思い出したようにあっと声を上げた。
「私、更衣室に忘れ物しちゃったみたい。先に戻っててくれる? ……一郎太くんにくれぐれもよろしく」
「わかった。でも早く戻れよ?」
「おやすみ、花織」
ひらひらと手を振りながら二人は戻っていく。花織も手を振り返しながらふたりの背中を見送った。
さて、練習所に残った花織であるが彼女は別に忘れ物をしたわけではなかった。ふたりと別れて更衣室へと向かったが、別の用が彼女にはあった。彼女は自分が今日使用したロッカーの中に予め置いておいたジャージを取り出す。
今日の練習で自分の実力不足を自覚した。もっと練習をしなければ彼らにおいて行かれるばかりだ。そう思った花織は夜、そして早朝に自主練をすることに決めた。幸いにもここであれば一人であっても十分な練習を行うことができるだろう。
花織は手早くジャージに着替え、髪の毛を結ぶ。花織は今日の練習で風丸が使っていたトレーニングマシンの方へと向かった。
今日は変な意地を張って風丸がいるからと、このマシンを避けているところがあった。だが鬼道の言うとおり、自分に今足りていないのは彼と同じところだ。ここを強化しなければ戦力アップは望めないだろう。花織は軽く準備体操をする。春奈にちゃんと練習を行う旨を伝えてるから問題にはならないはずだ。監督も花織の自主練習を黙認している。
花織は大きく伸びをしてマシンを起動させた。まずはレベル一、少しでもみんなに追いつけるようにと意気込みながら彼女は歩を進めた。
しばらく一人で練習を積む。ここのマシンはイナビカリ修練所のものよりも高性能で、実戦に近い特訓ができた。花織は膝に手を付き、肩で息をする。今ではレベル4で精一杯。ここの上限はたしかレベル十まである。イプシロン戦まで一週間を切った。それまでに一つでもいいからレベル十までをクリアできるようにならなければならないと花織は思う。
自分が選手として出場する、というのは雷門にとって最悪のコンディションの場合だ。メンバーが足りない、負傷者が出ている、そんな時には彼女が出ることになる。花織が試合に出るような事態になってはいけないのだが、万が一を想定して準備をしておくことは必要だ。準備をしておかなければ自分が攻めの起点にされてしまうかもしれない。そんなことが起こってもきっとそれを誰も、仲間たちは攻めたりしないが花織のプライドが許さなかった。チームの足だけは引っ張りたくない。絶対に。
「よし、もう一度」
花織は汗を拭って顔を上げた。