脅威の侵略者編 第十章
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「アンタ、あの変な眼鏡掛けた奴の彼女なん?」
彼女から唐突に掛けられた言葉はそれだった。練習を抜け、マネージャー業に入ろうとした花織に青髪の少女、浦部リカが声を掛けた。彼女は真面目な顔をして腰に手を当てていた。
「ウチとダーリンみたいにえらい仲ええなと思うたんや! で、どうなん?」
にこ、とリカが興味津々な女子の表情を浮かべて尋ねた。花織はその言葉に先ほどの出来事を思い浮かべる。風丸に嫉妬を抱かせるためにとったワザとらしい行動。彼の気を引きたかっただけなのに肝心の風丸は全然声を掛けてこない。自分から謝りに行こうとも思うが、中々彼の傍に行くタイミングも掴めなくてどうしようもなくなっていたところだ。そんな時にリカがこんなことを聞いてきたのである。
「……もしかして、鬼道さんのことですか?」
花織は変な眼鏡、という言葉に対してリカに問い直す。変な眼鏡を駆けている人物に確証が持てなかったのだ。確かに妙に見えるが、鬼道が掛けているあれは眼鏡ではなくゴーグルである。
「名前は知らんけど。ほらあそこで眼鏡掛けてマント付けとる奴や!アンタの彼氏やろ?」
リカは鬼道を指差して叫ぶ。花織はその大きな声にぎょっとして目を見開いた。鬼道は自分のことを指差されたと気づいたようで、花織を見て首を傾げる。花織も彼に首を傾げて見せればリカが花織に詰め寄った。
「なあ、どうなん?教えてくれてもええやろ~?」
リカが花織の腕に縋る。花織は困ったような表情でリカを一瞥したが、勘違いされていたままでは困ると考えて真実を話すことに決めた。黒髪をぐしゃりと右手で掻き上げて花織はふう、と息を付く。
「違います、鬼道さんは私の尊敬する人なんです。とても頼りになるかけがえのない人ではありますが」
「え~? そこにラブはないん? あるやん、憧れから始まる恋っちゅーのが!」
リカが心底がっかりしたかのように眉根を寄せた。きっと花織が自分と同じく恋をする女の子であることに期待していたのだろう。花織はリカの言葉に微笑む。憧れから始まる恋、まさにそうだったかもしれない。花織はずっと鬼道に憧れていた、そして焦がれていた。
「ありませんよ。……今ではやっぱり憧れでしかありませんから。それに恋人ならちゃんといます」
「え?」
花織はくす、と悪戯っぽく笑って見せる。花織の言葉にリカは一瞬きょとんとした。だがその言葉の意味に気が付いて目を丸くする。
「え、嘘、他に彼氏おるん?」
「はい。あそこにいる、青髪の彼。……風丸一郎太、っていうんです」
花織が視線を向ければちらと視線が合う。風丸はどうやらやはり花織を気にしているようだ。リカは風丸と花織を見比べて明らかに意外だ、と思ったような表情をした。へえ、と風丸の方をじっと見ながら花織の言葉に対する返答をする。
「玲華が可愛いって言うとった奴やん。へえ、アイツがアンタの彼氏なんや。……絶対あっちの奴やと思うたのに」
「今はちょっと喧嘩っぽくなっちゃってて……」
花織は苦笑しながらそう言った。え、どうしたん? と真面目な顔をしてリカが花織に尋ねる。花織は初対面の彼女にこんな情けない喧嘩内容を話すかどうかを迷ったが、ギャルズのメンバーに釘を刺しておくのもいいかもしれないと思い、訳を彼女に話した。
「CCCのフォワードに彼がデレデレしてたから、何だか腹が立ってしまって。だから私も鬼道さんに絡んでて……、でもそれがまた彼に対して話しかけにくさを作ってしまったというか」
「いじらしい乙女心っちゅーやつやな。めっちゃ気持ちはわかるで」
うんうん、とリカが腕を組んで頷く。やはりこういう言葉は今時の女の子だからこそ共感が得られる。思えば、他愛もない恋愛話を女の子としたのは初めてかもしれない。秋や春奈と話をするときは専ら相談事ばかりだし、夏未にそんな話をすれば窘められるだろう。そして塔子に至ってはそんなものに興味はない。そもそも秋と夏未の想い人が同じであるため、マネージャー間での恋愛話は何となくタブーになっているような感じであった。だから少しリカと話すのは新鮮に感じられた。
「にしてもごめんな。チームの皆にもあんまりアンタの彼氏で遊ばんよう言うとくわ。アンタの彼氏、ダーリンには及ばんけどまあ男前やし、みんな結構興味持っててん」
「そう、ですか……」
リカの言葉に花織が眉を顰めた。やはり彼は女の子から人気があるのだ。彼が人に好かれる容姿、人柄をしているのは自分がよく知っているからもちろん当たり前だと思う。だがそれでも嫌なものは嫌なのだ、これをあからさまに風丸にぶつけられるところが彼と花織の相違点だと言える。
「ああ、もう! そないな悲しそうな顔せんといてや! ちゃんと皆には言うとくから!」
「ありがとうございます。……私、そろそろご飯を作りに行かないと。浦部さん、それじゃあ」
時間を確認してみるともう十五分ほど彼女と話し込んでいたらしい。そろそろ仕事に戻らなければ秋たちに迷惑が掛かってしまう。花織が会釈をすればリカは慌てた。リカはその場を立ち去ろうとした花織の肩を掴む。
「ウチ、アンタと彼氏の話もっと聞きたいんや。後ででええから一緒に話しせん? じっくり乙女の恋心について語り合おうや」
リカの申し出は正直花織にとって魅力的だった。今まで話していて、思ったよりもリカが悪い人ではないとわかったし、とても話しやすい人であった。それにとても聞き上手であるような感じがする。花織も今まで身近にいたことの無いタイプの女の子であったから彼女と話をしてみたかった。
「いいですよ。ではまた後で」
「ちょい待ち。ウチ、アンタの名前聞いてへんかったな。名前は?」
「月島花織です」
そういえば名乗っていなかったなと、花織はリカに名前を告げる。リカは花織の名前を聞くとええ名前や、と屈託なく笑い、花織の肩を叩く。
「花織、ウチのことはリカって呼んでな? その堅苦しい敬語はもう無しやで!」
ひらひらと手を振りながらリカは再び練習所の方へと駆けていく。ダーリン! と彼女が一之瀬を呼ぶ声が聞こえた。花織は微笑む、良くも悪くも素直な子だなと思った。ゆっくりと彼女と話ができる時間を楽しみにしながら花織は練習所を後にした。