脅威の侵略者編 第十章
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結局、どういうわけかいつものようにサッカーですべてを決めることになった。これは目金の提案なのだが、勝ったチームが一之瀬を連れていけるということで決まったのだ。相手は女子チームだから簡単に勝てるだろう、それが目金の考えのようである。確かに雷門メンバーは全国優勝したチームであるし、エイリア学園ジェミニストームも下したのだから恐らく圧倒的に強いのではないだろうか、と花織も思う。
今回花織はベンチで待機になった。目金が試合に出る、と言い張ったからである。というよりも元々風丸がいたサイドバックポジションには木暮が入った為、花織が出るわけにはいかなかったのだ。
「がんばってね、一郎太くん」
「ああ」
いつも通りに彼をピッチへ送り出す。頑張って、と声を掛ければ彼はいつものように笑顔を返してくれた。花織はペンダントに触れながらベンチへ腰かける。いつものようにメモをカバンから取り出した。
古株さんが試合開始のホイッスルを吹き鳴らす。ギャルズのボールから前半がスタートした。リカが背番号11番、フォワードの御堂玲華にパスを送り、ドリブルで駆け抜けていく。
「そんなドリブルで抜こうなんて甘いんですよ!」
目金が叫ぶ。彼女の前には風丸が立ち塞がった。いつもの彼なら取れるだろう、花織は安心して試合を見ていた。自分ならこんなふうに、と頭の中でシミュレートする、が思いもよらないことが起きて花織は愕然とした。
「……!」
御堂が風丸に至近距離でウィンクをしたのだ。風丸は目に見えて動揺して彼女に抜かれてしまう。花織はどき、と大きく心臓が脈打つのを感じた。何、今の……。御堂が贈ったボールはリカにパスされ、リカがシュートを放つ。しかしそのシュートは円堂の正面、得点には至らなかった。
花織はじっとりと風丸を見る。風丸はどうやら目金に責められているようだった。風丸が頭を掻きながら先ほどの女子、御堂の方へと視線を向ける。すると御堂はまた風丸にウィンクをし、そして手を振って見せた。ぐしゃり、と花織の手の中のメモが音を立てる。
御堂の行動はいい。風丸が魅力的な男子であることなど、彼女である花織には分かりきっていることだ。だが風丸の反応はどうだ。花織はずっと風丸の表情を見ているから知っている。見るからに動揺して照れているのだ、他の女子の行動で。
――――何なの、アレ……。
ぐっと奥歯を噛みしめる。今まで風丸が他の女子に鼻の下を伸ばすところを見たことが無かったからこそ、モヤモヤとした。もちろん花織は自分が言えた義理ではない、今まで自分の方がよっぽど酷いことをしてきたとわかっているのだが、それとこれとは話が別だ。自分の彼氏のあんなにデレっとした様子を見てヤキモチを焼かずにいられるだろうか。
だが、ギャルズの女の子たちに手玉に取られているのは風丸だけではないようだ。土門も鬼道も栗松もそして同じ女子である塔子も皆ギャルズに踊らされている。赤面しているのは風丸だけだが。
「先輩……」
「完全に相手のペースね」
春奈と秋が不安げに言葉を交わしている。その言葉の通りだ、完全に彼女たちに遊ばれている。花織は風丸を引きずり出して自分が試合に出たいくらいの気持であった。明らかにあの御堂という女の子は風丸をからかって遊んでいる。そして彼もそれにいちいち照れているからどうしようもない。花織が段々と風丸に対して苛立ちを募らせていた時だった。
「プリマドンナ!」
御堂玲華の必殺技、プリマドンナが炸裂する。御堂は風丸の手を取りフィールド上をくるくると踊り舞った。花織は握っていたペンを取り落す。顔を赤らめ、膝をついている自分の恋人に対して怒りが募って堪らなかった。雷門のメンバーも今の技には少し引いているようであった。
…………何なの、デレデレしちゃって。
先ほど、ふたりでデートしていた時の嬉しい気持ちが徐々に萎んでいくのが分かった。花織は初めて風丸に対して怒りを感じていた。怒りというよりもヤキモチではある。自分に風丸の所作の様な非が無かったとは言わない、決して言えないが……。それでもあんなに風丸の前で、公衆の面前でほかの異性にデレデレしたことなどない。
「……っ‼」
風丸を抜いた御堂に鬼道がスライディングをしてボールをカットする。それに安堵するのも束の間、一瞬の後にギャルズのシュートが決まり雷門は一点をリードされた状態で前半を終えた。
「嘘だろ、リードされて前半終了なんて」
ハーフタイム、明らかに疲れた様子で土門が呟いた。花織は風丸に背を向け、選手のためにタオルを準備していた。今彼に話しかけると冷たい態度を取ってしまいそうだったからだ。黙々と白いタオルを人数分準備する。
「いや、強いよ。彼女たち」
ぴく、とその言葉に花織の眉が動いた。自分が手玉に取られて置いてそんなことをいうの、と益々イライラを強めてしまった。唯風丸は彼女たちの実力を認めただけにすぎなかったのだが、今の花織の怒りには結果として火に油を注いでしまったらしい。ぎゅっとタオルを握る手に力が籠った。
花織は無表情に選手たちにタオルを配った。マネージャーたちも、そして一部の選手たちも花織が恐らく風丸に対して苛立っていることに気が付いていた。いつもは笑顔を振りまいている花織が明らかに無表情なのだから当たり前だろう。そしてその原因もはっきりと分かっていた、本人以外は。
「花織、タオルを貰ってもいいか?」
自分が彼女の気に障ることをした自覚の無い風丸はいつもの通りに花織に声を掛ける。花織はじとっとした目で風丸を一瞥する。風丸は困惑した、こんな目で彼女に見られたことは無かったからだ。先ほどまでずっと上機嫌だったはずの花織が怒っている理由も分からなかった。
「花織、どうしたんだ?」
「別に、何でもないよ」
ツンとした様子で花織が風丸にタオルを差し出す。声色もいつもに比べて低いような気がした。風丸がタオルを受け取れば、花織はそっぽを向いてその場を立ち去ってしまった。風丸は困惑する。どうして彼女が機嫌を損ねているのかが分からない、試合展開で機嫌を悪くするような彼女ではないし。その時、誰かが風丸の肩をポンとたたく。風丸が振り返るとそこには鬼道が立っていた。
「自業自得だ」
「はあ? 何が……」
「自分で考えろ。……むしろ平手を貰わなくて良かったな、アイツの平手は痛いんだ」
ふ、と鬼道が不敵に笑う。鬼道は以前彼女に打たれた経験があった。今度は自慢げにそんなことを語る鬼道に風丸がムッとする番だった。じっと花織の姿を視線で追いかける。花織は吹雪と話をしているようだった。
「大丈夫だよ、花織さん。僕がちゃんとシュートを決めるから」
「うん。頑張ってね、吹雪くん」
吹雪に対してはいつも通りに接している花織。そんな花織を見ていると何だか自分だけが邪険にされた気がして風丸の中でも憤りが募った。