脅威の侵略者編 第十章
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あの後、ふたりは集合時間が迫っていたこともあり、足早にナニワランド入口付近へ戻った。花織は歩いている間もペンダントを見ては嬉しそうに表情を綻ばせていた。それを見ていると風丸もまた、それが微笑ましくて嬉しくなる。本当にデートの様な一時であった。
さて、集合場所に到着するとほとんどのメンバーが集合していたのだが、まだひとりだけ戻ってきていない人物がいるようであった。今日、中々姿を見かけていない一之瀬一哉である。
彼は探索をひとりでしていたようで、誰も姿を見ていないのだそうだ。どこへ行ったのだろうか、メンバーの中で話し合いが行われる。聞き込みを行っていくとある一般客から一之瀬らしき人物が、近くでお好み焼き屋を経営しているお店のおじょうさんと遊園地を見ていく姿をみた、という情報を得たのである。
「ここだな、あの子たちが言ってたのは」
先頭に立つ円堂が呟いた。大阪の市街地へ出て数分、そのお好み焼き屋が見つかった。暖簾が掛かっているから今は営業中だろうか、看板にもでかでかとお好み焼き、と書いてある。一見普通のお好み焼き屋だ。
こんなところに一之瀬が? きっと花織だけでなく誰もがそう思ったことだろう。それに一之瀬はナニワランドでエイリアの手がかりを探していたはずなのに、何故ナニワランドを出ているのかが疑問だ。だがそんな疑問すら抱かない様子の円堂がガラガラとお店の扉を開ける。そこには探していた一之瀬の姿があった。
「いらっしゃい」
「あっ、円堂!」
中には一之瀬と、もう一人青髪の女の子がいた。いらっしゃい、という声が聞こえたからきっとこの子がこのお好み焼き屋の店主の娘なのだろう。青い髪に黒い肌、何だかイマドキの女の子という雰囲気がその子からは感じられた。
「何やってるんだよ、こんなところで」
「ああ‼ お好み焼き!ズルいッスよ、先輩だけ‼」
円堂が呆れ調子で問いかけたと同時に壁山が円堂を押しのけ叫んだ。一之瀬の前には確かにお好み焼きを食べた後と思しき皿が置いてあった。皿にハートマークが描いてあるのが気になるが……。一之瀬は頭を掻きながら壁山の言葉を誤魔化した。
「ちょっといろいろあってさあ」
「コイツらか? さっき言ってた仲間っちゅーんは」
女の子が一之瀬に問う。一之瀬は返答しながら立ち上がった。
「うん、じゃあそういうわけだから。お好み焼きどうもありがとう。ホント、すっごく美味しかったよ」
お好み焼きに対する賞賛をしながら一之瀬がそそくさと退散しようとする、が、その前に女の子が立ち塞がった。そうはいかへんで、と一之瀬の前に手を突出しにやり、と笑う。
「アンタ、うちの特製ラブラブ焼き食ったやろ?アレ食べたら結婚せなアカン決まりやねんで」
「け……」
結婚⁉ と一之瀬からも雷門メンバーからも叫びが上がる。想定外の発言だった、焦りを隠しきれずに一之瀬が女の子に食って掛かる。だが女の子はしれっとした様子だ。
「でもそんな話一言も」
「当たり前やん、そんなん言うたら食べへんかったやろ?」
女の子の方が一枚上手だ。花織はこっそりと繋いでいた風丸の手を強く握った。大阪の気質というのだろうか、さっきのお姉さん然り、この女の子然り、皆押しが強いように感じる。自分の恋人も放って置けばこんなふうに詰め寄られることがあるかもしれないと思った。
「ま、そういうことやから。エイリア学園かなんか知らんけど、そいつらはアンタらだけで倒してな。ダーリンはうちとここで幸せな家庭築くよってな」
「だ、ダーリン⁉」
秋が女の子の言葉に驚愕の声を上げた。一之瀬の幼馴染、秋と土門は凄い顔をしている。幼馴染が遭遇した最大の危機に驚きを隠しれないでいるらしい。ちらりと花織が一之瀬を見れば、一之瀬は今にも泣きだしそうな顔をしていた。
そして女の子は言った言葉の流れでひょいひょいっと円堂らを店の外へ押し出し、可愛らしくにっこりと笑う。
「お好み焼き食わへんのやったら出てってや、商売の邪魔やからん。ほな、さいなら!」
商売の邪魔、と言いつつちゃっかり閉店の番をだし、女の子はぴしゃりと円堂の鼻先で扉を閉めてしまった。雷門のメンバーは全員が全員困惑を隠しきれなかった。今の嵐のような一連の出来事は何だったのだろう。閉められた扉を見つめれば、奥からは一之瀬と女の子のやり取りが聞こえてきた。
「ダーリン! そないに照れんでもええやん!」
「だからダーリンじゃないって」
「またまたもう、照れてもうてから」
「うわあ、円堂ー……!」
うわあ、はこちらの台詞である。雷門のメンバーがそう思った時だった。
「ちょいどいて」
どこからともなく気の強そうな女の子が現れ、円堂を押しのける。その突然の登場、そして幼馴染を押しのけられた風丸は憤慨した様に声を荒げた。
「ちょっと何するんだ!」
「何って、リカ呼びに来たに決まってるやろ」
今度は別の所から声がする。ちらりとそちらに視線を向ければ大勢の女の子が同じ服を着てそこに立っていた。同じ服、というか皆背中に背番号が付いているところを見ると何かのユニフォームのようだ。そしてリカを呼びに来た、という言葉。その言葉から察するに先ほど一之瀬をダーリンと呼んでいた女の子の名前はリカというのだろう。
「キュート!」
「シック!」
「クール!」
「うちらナニワのサッカー娘!」
「キュートで、シックで、クールな大阪ギャルズCCC!」
わー、ぱちぱちぱち。女の子たちは雷門イレブンを余所に勝手に盛り上がっている。とりあえず彼女たちはサッカーチームのようだ。今時の女の子感が先ほど一之瀬をダーリンと呼んだ女の子と同じように強く、可愛い子も多い。
「何やっとんのやリカ‼ 練習時間とっくに過ぎてんで‼」
先ほど円堂を押しのけた女の子が扉を開けて怒鳴り込む。が、中で見慣れない男の子を抱きしめている彼女を見て驚愕したようだ。怒鳴り込んだ女の子は、次にテーブルの上にある皿に目を移す。ハートマークが描かれた皿、何か察するものがあったようだ。
「みんな! リカが結婚相手見つけたで‼」
「「「結婚相手ー⁉」」」
きゃあきゃあ騒ぎながら女の子が扉に押し寄せる。大変なことになってしまったと、花織はため息をついた。ちらと隣にいる風丸の表情を窺う。彼がたくさんの女の子を目にしても疲れたような表情をしているのに安堵せずにはいられなかった。