脅威の侵略者編 第九章
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花織と鬼道は何を話しているのだろうか。そう思い、こんなことをしているのはやはり情けないだろうか。風丸は皆に適当な言葉を繕って誤魔化し、食事を抜けると花織と鬼道が話をしているであろうキャラバンの外に居た。ここからでは会話が聞こえるわけではないが、ただただ気に掛かってここまで来てしまったのである。
最近彼は自分でも心に余裕がなくなりつつあることを察知していた。サッカーの事でも花織の事でも自分でもおかしいと思うくらいに悩んでいる。せめてどちらかがなくなれば自分の心は安らぐのだろうか、そんなふうに思うがどちらも解決できるような気がしない。
"そんなんじゃ、いつか捨てられるだろうよ"
真帝国のキャプテン、不動がせせら笑いながら吐き捨てた言葉が、胸の中で渦巻いている。こんなに女々しい俺を知れば、きっと花織は俺を嫌うだろう。花織の告白を改めて受け入れた時、自分の独占欲を口にしたはいいものの、それを実践できるわけなどない。そんなことをすれば彼女に嫌われてしまいかねない。
本当は鬼道とは口すら聞いてほしくない。吹雪ともなるべく関わり合いになるのは避けてほしい。いや、チームメイトにもあまり馴れ馴れしく接されると言いようのないムカムカした感覚が思い浮かぶ。でもそれは無理にも等しい難題だ。何よりも彼女を尊重して、余裕を持っていなければ。
今回の件で俺は花織のことを守りきれなかった。それだけで頼りないと思われても仕方がない。唯でさえ、俺には力が足りないのだから。
吹雪の様なスピードも決定力も、鬼道の様なゲームメイク力もない。俺にできることは走ってボールを奪うことなのに最近はその仕事すらもできていない。いつ花織に愛想を尽かされてもおかしくないのではないだろうか。自分のほか、彼女を狙うチームメイト達は自分よりも明らかに実力ある者たちばかりなのだから。
そんな事ばかりを考える。力がないことが自分の環境の崩壊を意味するようで怖かった。これ以上、自分が不甲斐ない存在になってしまえば……。選手としても恋人としても用済みかもしれない。
「……一郎太くん?」
聞きなれた声が自分の名を呼ぶ。キャラバンの後部側、そこに風丸はいたのだが声を掛けられびくりと肩を揺らした。驚いて振り返ってみると、不思議そうな顔をした花織が自分の方を覗き込んでいた。
「っ、花織?」
「どうしたの、こんなところで……。もうご飯食べ終わった?」
なんてことない様子で花織が風丸に問いかける。それより鬼道はどうしたのだろうか、花織はひとりなのか?風丸はそれが気に掛かっていた。
「いや、まだだ。……花織、鬼道と話してたんじゃないのか?」
「うん、でも鬼道さんは皆のところに戻ったよ。もしかして鬼道さんに用だったの?」
風丸が何を勘ぐっているのか、花織は気づいていないらしい。それどころか勘繰られていることに気が付いているのか、それとも気にしていないのか。これだけ花織が風丸の言動に不思議そうなのは何もやましいことはしていないからなのだろうか。花織のことは好きなのだが、こういう所を知るのは難しいと思う。
「いや、別に鬼道に用はない。花織がまだ食べてないからさ、待っていようと思ったんだ」
咄嗟に風丸が花織に都合の良い嘘をつく。だが花織はその嘘を嬉しそうに受け取ってくれた。笑顔を浮かべてそっか、と風丸の手を取る。
「ありがとう。じゃあ一緒に戻ろう? 早く戻らないと片づけられちゃうかもしれないから」
「そうだな」
風丸は花織の手を握って複雑な気持ちに追いやられる。花織が素直に向けてくれる自分への好意が薄れていないことに安堵しながらも、いつまで彼女が自分を好いてくれるのだろうかという不安が募る。
「花織」
「ん? どうしたの、一郎太くん?」
さらりと黒髪を揺らして花織が自分の方に視線を向けてくれる。彼女がもしも俺に失望すればこの優しい視線を向けてくれることは無くなるのだろうか。そんな不安を胸に感じながらもなんでもないよ、と風丸はその場を誤魔化すのであった。