脅威の侵略者編 第八章
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「花織」
愛媛に到着して数刻が過ぎた。今はひとまず休憩を取っており、各々がコンビニエンスストアで買い物をしている。花織もその最中であった。流石に買い物は別々で行い、あとで合流しようと風丸と話し合い一人で買い物をしていたのである。会計を済ませ、外で彼を待とうとしていると背後から声が掛けられた。
「鬼道さん……」
声を掛けてきたその人物の名を花織が呼ぶ。鬼道は険しい顔をしていた。きっと影山のことをひとり思い悩んでいたのだろう。鬼道は幼少のころから影山に師事していて、誰よりも影山との付き合いが長い。そして影山の恐ろしさを誰よりも知っている。
「愛媛にいる間、絶対に一人になるな。常に風丸の傍にいろ……、またお前の身に何か起こるかもしれない」
今になっても花織は春奈と並ぶ鬼道のアキレス腱だ。前回もそれを知られていたから、花織が影山の脅威に晒されたのだ。即ち、影山は今も花織が鬼道にとって大切な人物ということを知っている。花織がまた被害に遭わない保証はない。
「……はい、わかっています。チームの足を引っ張るわけにはいきませんから」
伏し目がちに花織が頷いた。鬼道は頷き、彼女の表情を見つめる。今彼女を守るのは風丸の役目だ。だが、もしもの時はその限りではない。もしも危険が彼女に迫ったら風丸を押しのけてでも鬼道は花織を守る気であった。それほどまでに鬼道は花織への気持ちを未だ持ち続けている。
「⁉」
刹那、サッカーボールが視界の端を横切るのを二人とも目で捕えた。そちらの方へ視線を向けると見慣れない少年が円堂にボールを蹴りこんだようであった。どちらともなく円堂の方へ駆けよる。他のメンバーも今の一連の件を目にしていたようで、自然と円堂の周りに全員が集合していた。
「君、真帝国学園の生徒ね。人を偽のメールで呼び出しておいて、今頃現れるの?」
瞳子が見知らぬ少年の前に歩み出て淡々とそう言った。少年は不敵に笑う、何だかそれだけで少し不気味に思えてしまうのは彼の容姿のせいだろうか。決して元は悪くないだろうが、彼はモヒカンにさらにペイントという奇抜なヘアスタイルをしており、意地の悪そうな猫目が印象的だった。
「監督、偽のメールって?」
「そもそも、私たちを愛媛まで誘導した響木さんのメールが偽物だったのよ。もう確認済みよ」
だからといって影山が脱獄したことが嘘、というわけではないようだ。実際に真帝国学園が存在するから今目の前にこの少年がいるのだろう。花織はじっとその少年の表情を見ていた。気だるそうな雰囲気、イナズマキャラバンのメンバーには誰一人として掠らない。
「すぐわかる様な嘘を何故ついたの?」
「俺、不動明王ってんだけどさあ。俺の名前でメールしたら、ここまできたか?響木の名前を語ったからこそ、いろいろ調べて愛媛まで来る気になったんだろ。違うか?」
腕を組んで得意げに不動と名乗る少年は語った。瞳子はそうね、とそれを鼻で笑う。そして間髪を入れずに不動に目的を問うた。彼は不敵に笑いながら言葉を続ける。
「なあに、アンタらを新帝国学園にご招待してやろうってのさ。……アンタ、鬼道有人だろ」
少年は鬼道の姿を雷門イレブンの中から探し出し名を呼んだ。花織の隣に立っていた鬼道が怪訝そうな顔をする。不動は続けた。
「うちにはさあ、アンタにとってのスペシャルゲストがいるぜ?」
「スペシャルゲスト?」
「ああ、かつての帝国学園のお仲間だよ」
さらりと不動が言った言葉に鬼道をはじめとした選手たちに動揺が走った。帝国学園の選手たちは皆、影山の悪事をすべて知っているはず。影山の元に着くなど絶対に考えられない。花織はちらりと鬼道の方へ視線をやる、彼の拳が怒りに震えていた。
「貴様! 誰がいるって言うんだ誰が⁉」
鬼道が叫ぶ。雷門の選手たちがそれに続けて不動に向かって非難を浴びせかける中、花織も不動を睨み付けた。冗談にしてもたちが悪いと思ったからだ。刹那その男、不動と一瞬目が合う。不動は花織を視界に捕えて僅かに口元をにやりと歪ませた。
「おいおい、言っちまったら面白くねーだろうが。着いてからのお楽しみさ」
案内してやるよ、と勝手にキャラバンに乗り込んだ不動に続いて、外に出ていた選手たちはキャラバンに乗り込み始めた。いったい何なのかは知らないが、不動明王というこの少年は得体のしれなさから近づきたくないと花織は思っていた。何よりとても感じが悪い。なるべく不動と視線を合わせない様に、最近掛けるようになった風丸の隣に向かおうとしたその時だった。
「おい待てよ」
にゅっと横から伸びてきた手に右手首を鷲掴みにされる。驚いて目をむけば、関わりたくないと思っていたその人、不動明王が花織の腕を掴み、にやにやとこちらを見上げていた。不動の隣に掛けている鬼道とその後ろにいた風丸がバッと立ち上がる。
「お前、月島花織チャンだろ?鬼道クンのカノジョの」
「⁉」
一体何を言い出したのかと思えば。花織も立ち上がった二人も、そして他の選手たちも驚いて不動の方へ視線を向けた。花織は首を振る、そして不動の手を自分から引きはがそうと腕に力を込めた。
「……っ、違います。だから手を離してください」
「おいおい、トボけたって無駄だぜ? ちゃんとこっちは偵察済みなんだからよ」
偵察済み、ということはやはり影山から流れた情報なのだろうか。花織はそんなことを思いながら腕を引きぬこうとしたがびくともしない。それどころかギリギリと花織の腕を握る手に力を込める。
「い……っ、離して!」
握りこむ力があまりにも強く、花織が痛みに顔を顰めた。花織の声に黙っていられなくなった風丸が後ろから、そして鬼道が隣から不動を怒鳴った。
「花織に触るな!」
「花織から手を離せ!」
ふたりの剣幕に不動は少し呆けたような顔をする。だがすぐに面白いものを見たとでも言いたげにニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべた。そしてぐいと花織を自分の方へと引き寄せる。
「ハッ……面白え。随分と愛されてんなあ、鬼道クンの彼女は。ホントのところ鬼道クンが慎ましーい片思いしてんのか、そこの外野クンの勝手なヤキモチかは知らねえけど。とにかく、今日はお前のだーい好きな鬼道クンの隣に座って大人しくしてな。ほらよっと‼」
「きゃっ‼」
不動が強い力で花織を鬼道の方へ放る。鬼道は両手で花織の身体を抱きとめた。その仕草がまるで恋人に対するものであって、不動はまたいやらしくにやついた。鬼道は抱きとめた花織の顔を覗きこむ。
「大丈夫か、花織」
「はい。大丈夫です……」
強く掴まれたせいで手形くっきりと残ってしまった右腕を花織は摩る。その一連の光景を見ていて、本来の花織の恋人である風丸は、酷くどす黒い感情を胸の中で沸き立たせていた。
――――花織は俺の物だ。
奥歯を噛みしめながら風丸は眉間に皺を寄せた。どんな解釈をされているのかは知らないが、こんな奴が気安く触っていいわけじゃない。鬼道の彼女だなんて呼ばれる謂れもない。彼の理性が辛うじてそう叫ぶのを律していた。