脅威の侵略者編 第八章
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イプシロン戦の翌日、イナズマキャラバンは京都を出発した。イプシロンに敗北をしたのは事実だが、校舎の破壊もされておらず、怪我人も誰一人いなかったことからあまり損害はなく結果としては上々となっている。
「いやー、なんだかんだ言って木暮って奴は面白かったよなあ」
走行中のキャラバンの中、土門が思い返す様に呟いた。木暮は漫遊寺に滞在中、春奈と仲良くしていたようだが雷門イレブンの見送りには来なかった。結局、雷門中のユニフォームと円堂のサッカー頑張れ、という言葉を残して彼の姿も見ないまま、イナズマキャラバンは出発したのである。
「チームに入れなくて良かったのかな」
花織の隣に座る風丸がその声に触発されてか、ぽつりと呟いた。確かに木暮はイプシロンのボールを止めた唯一の人物。恐らく才能はあるのだから、練習すれば十分に戦力になったはずだ。
「彼、チームにいたらきっと良いディフェンスになったと思う」
くす、と笑って花織が風丸の言葉に同調ともいえない返事を返した。風丸もそうだな、と言いつつ、今更どうしようもないと言いたげな笑みを浮かべた。何しろキャラバンが漫遊寺を出発してもう一時間ほど経つ。
「いやいや、これでいいのです。あんな奴がいたら、宇宙人に勝てるものも勝てなくなっちゃいますからね~」
「シビアだね、目金くん」
目金の言葉に一之瀬が突っ込む。木暮のことは完全に良い思い出として終結し始めた。だが話題の終結に申し訳なさそうに壁山が口を挟む。
「あの~、お話し中のところ済みませんが……」
おずおずとした申し訳なさそうな口調にキャラバン内の人間、全員が振り返った。いったい改まって何事だろう。そう思った選手らの眼には衝撃の人物が映った。
「マジかよ⁉」
一番近くにいた染岡が吃驚して叫ぶ。何と壁山の隣、山積みになった選手たちの鞄の脇には、三角座りをする木暮の姿があった。
❀
色々一悶着あったものの、漫遊寺中の一年生木暮夕弥を新たなメンバーとして迎え入れ、キャラバンは再出発した。監督が漫遊寺の監督に連絡を取ってみたところ木暮の進んだ道なのだからと了解を得られたらしい。選手たちからは非難も挙がったが、何とか収束して現在に至る。
「何だか騒がしくなりそうだね、でもこういうのも面白そう」
「そうだな」
木暮の加入に対して花織がちらりと後ろを振り返りながら零す。風丸も花織の言葉に頷きながら後ろを振り返った。さっきは目金のフィギュアや栗松の雑誌に落書きをしたり、円堂の靴ひもを両足纏めて結んでしまったりと早速悪戯を繰り広げていたが、今は大人しく土門らの横に座っているようだ。見ている分には面白いだろうが自分がターゲットになったら堪らないだろうなと風丸は思う。
その時、甲高い携帯の着信音がキャラバンの中に鳴り響いた。どうやら監督、瞳子の携帯のようだ。監督はその中身を見て一瞬驚いたように目を見開き、響木から届いたというメールを静かに読み上げた。
「影山が脱獄し、愛媛に真帝国学園を築いた」
「‼」
キャラバン内に動揺が走る。影山の悪行を知る選手たち、そしてマネージャーの表情は一瞬で強張った。花織も例外ではなかった、突き落とされるような感覚が背中に一瞬で駆け抜けていく。
「アイツ、まだそんなことやってんのかよ!」
「しかも真帝国学園だって⁉」
染岡と土門が苛立ったように叫ぶ。だが、一番動揺しているのは元帝国学園のキャプテン鬼道だった。険しい表情で眉間に皺を寄せている。彼の拳は力の入れ過ぎで震えていた。
「よし! 愛媛に向かおう」
円堂が声高に宣言する。他のメンバーもそれに同調した。影山のやることを見過ごしておけない、という口調だ。だが、塔子をはじめとする新参メンバーはどうして影山という人物に対し彼らがこれほどの敵意を向けるのか、理解ができないようであった。
「なあ、影山って中学サッカー協会の副会長だったんだろ?」
「ああ、そして帝国学園の総帥だった。……俺たちのチームの」
塔子の問いに鬼道が憎々しげに言った。影山零治は元々帝国学園の総帥だ、もちろん帝国に所属していた花織も面識がある。
冷酷で、風丸曰く卑怯が服を着て歩いているような男だ。自分が勝つためには手段を選ばず、そして自分の手は汚さずに他のチームを蹴落とそうとする。雷門中学も何度も彼の手に堕ち掛け、間一髪のところで逃れてきた。
花織もまた影山の被害に遭い掛けた一人だ。地区予選決勝前日、影山が鬼道を懐柔する為に、花織を誘拐し脅しの道具にしようとした。風丸のおかげでその場を助けられたものの、あの時のことは思い出すたびに震えが止まらなくなる。未だに影山のことは怖かった。元々怖いと思っていた人物であったが、今は心の底から影山に対して恐怖を抱いている。
「それだけじゃない、アイツは勝つために神のアクアを作り出した」
「神のアクア……?」
鬼道が絞り出すような声で言った。神のアクア、その単語に花織はどきりとして顔を背ける。隣で神のアクアについて解説する風丸の声を聴くと、妙な不安に襲われた。どうして彼の声は少し切なげなのだろうか。北海道で彼の告白を聞いてしまったから、何となく彼の言葉の意味を探ってしまった。
「人間に身体を根本的に変えてしまうものさ。……神の領域にまで」
神のアクア、人間の力を恐ろしくパワーアップさせてしまう飲み物。あれを使用した世宇子中学のキャプテン、アフロディは全国大会の帝国戦でゴールをも吹き飛ばした。結局それが影山の逮捕へと繋がったのだが……。
花織は固く目を伏せ、拳を握る。どうしてまた影山が現れたのだろう、脱獄なんていったいどうやって……。
「花織」
「……っ」
突然触れられた手に花織が驚いて目を見開く。花織の眼前には心配そうな風丸がいた。花織の手の上に自らの手を重ね、じっと花織を見つめている。
「大丈夫か、花織」
「……うん、平気」
風丸はもちろん、花織が影山の存在に恐怖していることを知っていた。以前あんな目に遭ったのだから無理もないことだと思った。そして何より思うのは花織をもう二度と危険に晒したくない、という思いだ。
「もうあんな目には合わせたりしないから」
「一郎太くん……。ありがとう」
花織が弱々しく微笑む。自分の手を握る風丸の手の力強さに、確かに心が安らぐのを感じた。