脅威の侵略者編 第七章
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こうして木暮をディフェンダーに迎え、試合を行うこととなった。キックオフまであと数分、花織はベンチで彼に言葉を掛けていた。彼の表情も険しい、相手が今までにない強敵だとわかっているからだろう。
「一郎太くん……、頑張って」
「花織」
今回は木暮の出場により、花織はベンチだ。だがそれでも万が一誰かが怪我をしたときの為にユニフォームを着用して控えている。花織は胸の前で両手を握った、そして不安げな面持ちで風丸を見据えている。
「一緒に出られないけど、ここで応援してる。だから……」
「大丈夫だ、俺たちは負けないから」
落ち着かない様子の花織の肩を風丸がぽんと叩いた。花織は足手纏いになりかねない自分が出場しないということに対する安堵があったが、逆に今度はピッチにいられないということで不安を感じていた。主にまた自分は蚊帳の外で彼らの戦いを見ていなければならないということだ。花織は風丸のフィールドを駆ける姿を見ることは大好きだが、彼の傷つく姿をただ見ているだけになることを恐れていた。
「うん……、大丈夫だよね。あのね、一郎太くん……、私ちょっと嬉しいの」
「嬉しい?」
風丸が不思議そうな顔をして花織を見る。花織の表情にはどうしても隠しきれない不安があったが、それでも無理に彼女は笑って見せた。
「またこうして一郎太くんをピッチに送り出せること、直接がんばれって声を掛けられることが嬉しくて堪らないの」
「花織……」
別れてから今まで、ずっと彼を送り出すことはできなかった。頑張れ、応援していると一言掛けることすらできなかった。だが今は違う、こうして面と向かって彼に言葉を掛けることができることが花織は嬉しいのだった。
「だから、私はここで精一杯応援してる。一郎太くんのフィールドを駆ける姿、見てるから」
「……ああ!」
花織に頼もしく笑い掛けて風丸はフィールドに向かって走り出す。途中話を聞いていたらしい土門らに随分とからかわれたが、それでも風丸は花織の言葉が嬉しかった。もう二度と無いと思っていた、花織にこうして特別に応援してもらえることなど。一度はそう思って別れを告げたのだから、尚更彼女の掛けてくれた言葉は彼にとって深みがあった。
木暮の加入はどう転がるかは予想できなかった。一之瀬や吹雪、円堂は意外性があって面白いのでは、楽しんでやればいいと楽観的な考えを持っていたが、他のメンバーは木暮の実力に対して疑問を持っている者が多かった。だが春奈の説得もあって木暮をメンバーとして加えることにもう反対するものはいないようであった。
「雷門イレブン!ジェミニストームを打ち破った、唯一のサッカーチーム。たったそれだけのことで我らに勝てると思うとは、我らイプシロンの選手たちも随分舐められたものよ」
デザームが腕を組み、薄ら笑いを浮かべながら言う。そして彼はこう言葉を続けた。
「聞け雷門中! 破壊されるべきは漫遊寺中に非ず、我らエイリア学園に歯向かいつづける雷門イレブンと決まった。そして漫遊寺中は六分で倒した。だがお前たちはジェミニストームを倒した栄誉を称え、三分で決着とする。光栄に思うが良い」
「三分⁉」
円堂が叫ぶ。随分と舐められたものだと、こちらが言いたいくらいだった。雷門イレブンからも不服の言葉が挙がる。相手の挑発に対する怒りから皆、やる気は十分だ。
試合は雷門イレブンの攻撃よりスタートした。一斉に選手は走り出したが、新参木暮は動かなかった。試合直後、すぐに二トップである吹雪と染岡に二人ずつマークがついた。監督の見立てによるとイプシロンの戦い方は完全に相手のフォワードを封じて攻撃を削いでくる、という戦い方らしい。今の流れを見たところそれは間違いないようだ。
「‼」
吹雪がマークについていたスオームとメトロンを振り切ってエターナルブリザードを放つ。だが、エターナルブリザードは片手であっさりと止められてしまった。雷門イレブンに動揺が走る。今まで決められなかったことなどなかったエターナルブリザードが止められ、チームはおろか吹雪自身も動揺しているようだった。
そこからは圧倒的な試合だった。ほとんど一方的なタコ殴り状態だ。唯ひとり、加入したばかりの木暮を除いては。木暮だけがイプシロンの攻撃から逃げ回っている、ボールの動きを見切っているようだった。
そして試合開始からちょうど3分、今まで誰も受け止めることのできなかったデザームの放ったボールを、木暮がカットし試合は終結した。粉塵が巻きあがった後にはイプシロンの姿はどこにもなかった。"十日の後にまた勝負をしてやる"その言葉だけを残して。