脅威の侵略者編 第七章
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翌朝、元々朝が早いのと昨日の少年との一連の出来事のせいでよく寝つけなかったのもあって花織は日の出と変わらない時間に外へ出た。早く起きられたことは一応、収穫になるのだから今のうちにも練習をしておくべきだろうか。
若干びくびくしながら昨日の夜も練習した河川敷へと向かう。昨日の少年にだけは出会わないことを祈った。花織はサッカーボールを抱えてあたりを見回す。どうやら誰もいないようだ、と思った瞬間、背後から彼女の名を呼ぶ声が聞こえた。
「花織!」
一瞬びっくりしたが、声だけで一体誰なのかはすぐにわかる。表情を綻ばせながら花織は彼を振り返った。青い髪を揺らしながら彼が、花織の恋人の風丸がこちらへ駆けてきている。そして花織の傍に到達すると、おはようと彼は笑った。
「どうしたんだ、こんな早くに練習なんて」
「目が覚めちゃって……、一郎太くんは?」
「俺もだよ。窓の外を見たら花織がいたから、急いで来たんだ」
彼はそうやって笑うが、花織はきっと彼が花織とは別の理由で寝つけていなかったのではないかと思った。今日はイプシロンの襲撃予告日だ。彼は真面目で責任感が強い、その上以前円堂に相談していた件もあったから、もしかすると最後の調整をしたくて元々ここへ来るつもりだったのかもしれない。
「よかったら一緒に練習しないか?」
「迷惑じゃないなら……、一緒にしたい」
花織は風丸との実力差を考え控えめな返事をした。最後の調整をするならば、彼の邪魔になってはいけないと思ったのだ。
「迷惑じゃないさ。行こうぜ」
だが風丸はそんな花織の心配をさらりと流してフィールドへ向かう。そんな彼の返事を嬉しく思いながら花織はボールをベンチに置いて彼の元へ駆けだした。
ランニング、ストレッチから一対一まで。二人で出来ることはすべてやったかもしれない。彼らは久しぶりに二人きりで練習をした。お互いの動きは手に取る様にわかるから、パスは楽に通るし、一対一であれば如何に相手の裏を読むかが楽しかった。今まで勝利を求めるサッカーばかりしていたから、この楽しいだけのサッカーは何となく新鮮なような気がした。
「俺、花織と走るのが好きだ」
練習を終え、キャラバンに戻る前に一休みしてから戻ろうということになった。二人は今、並んで腰掛け、互いに寄り添っている。河川敷に吹く風が爽やかで涼しげだった。そんな中で風丸が花織を見ながら呟く。
「一郎太くん?」
「花織と走るの凄く楽しいんだ。ボールを競り合うのも、肩を並べて走るのも何もかもが楽しい。普段の練習や試合でも本当は一緒に居られたらと思ってるんだ」
柔らかく微笑みながら風丸が素直な気持ちを吐き出す。だがそれは素直な気持ちであるが、正確な本心ではなかった。そんなことはつゆ知らずに花織は黙って風丸の話を聞いている。
「この気持ちは陸上をやってる時から変わらない。お前と離れている間もそうだった。俺はそれだけ花織が好きなんだ」
「……っ、えっと、そう言ってくれると嬉しいけど……。どうしたの急に?」
花織は風丸がかけてくる惜しみない好意の言葉に、頬を桃色に染めて口籠った。彼は割と花織に対しては躊躇なく愛の言葉を口にしたりする。だが、何度言われたってその言葉は嬉しいし、慣れない。
「言いたくなっただけだ。……花織、俺は確かにお前と走ることは好きだ。でもお前をエイリア学園との戦いに参加させることだけは反対なんだ。たとえ監督命令でも、俺は花織が少しでも傷つくような可能性がある場所にやりたくない」
そう言って風丸が花織の髪に手を伸ばす。優しく髪を撫でながら、穏やかな声で花織に囁いた。
「だから思うんだ。そんなことを気にしないで、花織と一緒のチームでサッカーができたらどれだけ楽しいだろうって」
「うん……、きっと凄く楽しいよね。でもすぐにできるようになるよ、エイリア学園を倒したらきっと」
「……そうだな」
一瞬、彼の表情が陰ったような気がした。花織はふっと彼の表情の変化に眉根を寄せたが、何も言わなかった。彼はすぐに優しく花織に笑い掛け、何でもない様に振る舞う。
「じゃあとにかく今日、イプシロンに勝たないとな。……花織」
風丸が花織の方へ身を寄せる。花織は河川敷の坂に背中を付け、半ば寝ころぶような形で彼を見上げた。風丸が花織の身体の横に手をついて、花織の目を見つめる。こんなシチュエーションは何度もあったはずなのに、胸がドキドキして仕方ない。
「絶対一郎太くんなら大丈夫。がんばろうね、一緒に」
そう言って花織が風丸に微笑みそっと目を閉じれば、触れるだけの口づけを落される。さらりと彼の長い髪が花織の頬を撫ぜた。