脅威の侵略者編 第七章
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その日の夜、花織は再びこっそりとテントを抜け出した。が、今日はいつもと違う点があった。寝袋の中に春奈の姿がないのだ。だが、さほど心配ではなかった。きっと鬼道が夕方の花織の相談を受け、何らかの対策をしてくれたのだろうと思っていた。
だからこそ今は、自分にできることをしなければならない。花織はサッカーボールを手に円堂たちが夕方練習をしていた河川敷へと向かう。花織は今、早朝と消灯後に自主練をしていた。皆の練習量が多いからこそ、時間外に練習をしなければ追いつかないのだ。
今更選手として起用なんてされないだろう、とは思うものの、目金が軽いとはいえ捻挫をしてしまった今は自分が出るつもりで対策をしておくべきだと思う。もし仮に試合に出るのだとしたら、自分が穴になってしまうのだけは避けたい。
トップスピードでのドリブルを主に練習していく。本当はディフェンスを避ける練習などもしたいのだが、一人では動かない障害物を避けることくらいしかできないから、今となってはほとんど練習にならない。だとしたら、敵にブロックをされないようなスピードで振り切る練習をした方がマシだ。
「……はっ、はっ」
息を切らせてコートを掛ける。十分ほど、全力でのドリブルを行った後一度足を止め、コート内に立ち止まる。膝に手を置いて大きく深呼吸を繰り返せば、割とすぐに息は整った。練習量は減ったが、あまり体力は落ちていないようだ。
「……?」
静かに息を整えていると、ふと背後から視線を感じた。花織は眉を顰める。今まで全く人の気配なんてなかったのに……。ぞわりと肌が粟立つ。花織は少し躊躇ったが意を決し、後ろを振り返った。
「……こんばんは。月島さん、だったね?」
「貴方は……」
花織の背後に立っていたのは見覚えのある赤髪の少年だった。花織は驚きよりも恐怖を感じて、思わず後ずさる。どうしてこの人物はここにいるのだろうか、先日北海道で会ったばかりだというのに。
「どうして、こんなところに……」
花織が警戒心を露わに少年に尋ねた。少年はふっと笑みを浮かべると、何でもないことのように花織の問いに答える。
「少し探し物があってね、俺は各地を回ってるんだ。……だから、君にここで会えたのは偶然だと思うよ」
「そう……」
少年の言葉は信じがたかったが、疑ったところでどうしようもないので花織は深くは突っ込まないでおいた。また追及すると自分の予想していない答えが返ってきそうで少し怖かった。彼は花織が距離を取った分だけ彼は距離をつめる。整いすぎている笑顔を浮かべて、花織の目を見つめた。
「ところでさ、ジェミニストームとの試合見たよ。君も選手なんだね、マネージャーだなんて言ってたから驚いた」
「あの時は監督命令で出場しただけです。……本来はマネージャーですから」
怯えを見せない様に毅然とした態度で花織が受け答えをする。彼はへえ、と相槌を打ちながら、寸刻も花織から視線を逸らさずに話を聞いている。花織は彼のそんな様子も不気味で気持ち悪いと感じた。
「君をマネージャーに置いておくのは勿体ないな。俺たちのチームに来ればきっと選手として起用するのに」
「は?」
「冗談だよ、本気にしないでね」
不敵に笑いながら彼が言う。俺たちのチーム、で思い出したが、そういえば彼もサッカーをするのだった。花織は身に纏ったジャージを掻き合わせる。
「でも、君がマネージャーに勿体ないというのは本当かな。まあ、仕方がないことなのかもしれないけれど」
「どういう、意味ですか?」
怪訝そうに顔を顰めて花織が問う。すると彼はさらりとその言葉を口にした。
「君にご執心の人たちが君の出場を許さないんじゃないかな。青い髪のディフェンダー、君の恋人だよね。風丸一郎太くん、だっけ?後は鬼道有人くんだったかな? 元帝国学園のキャプテンで天才ゲームメーカーって言われてるんだよね。……君はよっぽど選手たちに人気みたいだ」
「……別にそんなことは関係ないですし、そんな事実もありませんが」
どうしてこんなことを知っているのだろう。花織は肌が粟立つのを感じながら、尚も強がってみせる。そんな中この少年について推測してみて、思い当たるのは一つ。この人はストーカーなのかもしれない、雷門イレブンか、円堂の。とにかく花織は、この人物が自身に対して敵意とは違うが、何やら良からぬ感情を抱いているという印象を視線から感じていた。
「それはどうかな。君は君自身が思うよりも人を虜にしていると思うよ。その容姿だし、……何より凄く優しいから。優しさで誰かを傷つけるくらいに」
最後の言葉は何とも厭味ったらしかった。一気に彼は距離を詰めて花織の手首を掴む。花織は手を振り払おうと力を込めたが、彼の手はびくともしなかった。怯えた表情で少年を見上げると彼はじっと花織を見つめ、言葉を続ける。
「……俺自身も君を魅力的だと思うよ。いろいろな意味でね」
「……っ」
張り付けたような笑顔で笑う少年に耐えかねて、花織は渾身の力で彼を振り切った。すると彼がぱっと手を離したためか、空回りして少年から視線を逸らしよろめいてしまう。花織は思わず地面に手と膝をついた。
「じゃあまたね、月島さん」
耳元で囁かれたような感覚に花織が驚いて振りかえる。だがそこに今まで話していたはずの赤い髪の少年の姿はどこにもなかった。ただ花織の目の前には閑散とした京都の景色だけが広がっていた。