脅威の侵略者編 第七章
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先ほどの男の子の名前は木暮夕弥というらしい。何でも漫遊寺サッカー部の補欠部員で、中学一年生だということだ。性格がすっかり歪んでしまっていて、人を全く信じられず、周りはすべて敵だと思っているらしい。そしてサッカー部が課した精神鍛錬を嫌がらせと感じ、それを悪戯で復讐しているようだ。
そしてそうなった原因は親に裏切られたことにある、らしい……。サッカー部キャプテン、垣田の話を聞いて春奈は表情に影を落としていた。
そして、その後漫遊寺サッカー部の選手たちと話す機会が与えられたが、帰ってきた返答は想像もしないものであった。なんと彼らはエイリア学園とは戦わないというのだ。きちんと説明すればわかってくれる、と言い張るのである。最終的には説得をする染岡に対して邪念があるから分かってもらえないのだ、と一蹴して話が終わってしまった。
人参を刻みながら、どうすれば漫遊寺が円堂たちの説得を受け入れるのかを考える。だがいくら考えても妙案は思い浮かばない。そもそも現実に直面し、試合が避けられないのだということがわからなければどうにもならないような気がする。……だとすれば、傘美野中学に起こった事実を話せばいいのだろうか。
「ねえ、春奈ちゃん」
とにかく他の人間に意見も聞いてみようかと傍にいた春奈の名前を花織は呼ぶ。だが春奈はぼんやりと鍋の中身を見つめていた。別に火に掛けられているわけでもないから、鍋の番をしているというわけでもないだろう。それに、なんだか浮かない顔をしている。
「春奈ちゃん?」
花織は庖丁を置いてもう一度春奈の名を呼ぶ。だが春奈は黙り込んだままだった。花織は首を傾げて自分の手をタオルで拭く。そしてぼうっとしている春奈の肩を叩いた。びく、と春奈が、今気が付いたかのように肩を揺らす。
「えっ!」
「大丈夫? 具合、悪いの?」
花織がそう問いかけると春奈は首を振った。そして俯いて何でもないんです、と呟いた。明らかにいつもの元気がない。何かあっただろうか?……そういえば、今日はやけに鬼道が春奈を気にしているような気がした。
「悩み事?」
「いいえ、大丈夫です。ごめんなさい、ぼーっとしちゃて」
そう言って春奈はふらりと花織の傍から離れてしまう。どうやら話したくないか、花織には話せない事情なのだろう。花織は一度夕食の支度を夏未に任せ、選手たちが練習しているであろう河川敷へと向かった。皆、真剣に、また楽しそうに練習に取り組んでいる。
「あっ! 月島―‼ お前も練習しにきたのかー?」
花織が河川敷に現れたことに気が付いたらしい円堂が、花織に向かって手を振る。そのせいで練習がストップしてしまった。花織は円堂に手を振りながらも、慌てて練習は続けて、と叫ぶ。そして選手の中から目的の一人を探した。
「鬼道さん! 少しいいですか!」
彼を見つけて時間をくれるように頼む。鬼道は花織に気が付くと足を止めた。そして彼は練習を抜け、マントをはためかせながら花織の方へ歩み寄ってきてくれた。
「すみません、練習中に」
「構わない。何か用か、花織」
腕を組み、鬼道が何かあったのかと心配そうに花織を見た。花織が練習中に邪魔を承知で声を掛けるなんてことは滅多にないから余計に何か大変なことがあったのではないかと勘繰っているようだ。
「では単刀直入にお聞きします。……春奈ちゃん、何かあったんですか?」
「春奈が?」
鬼道が眉を顰めて花織に問い返す。その表情には何か思うことがあるようだ。花織は頷いて言葉を続ける。
「ええ。話しかけても上の空ですし、何だかぼうっとしているふうで。……何か悩みがあるみたいです。鬼道さんは何かご存知ですか」
花織の言葉に鬼道は俯いた。だがすぐに顔を上げ、花織を見据える。
「……いや。だが、思い当たることはある」
「では、鬼道さんからお話を聞いて頂けませんか? 私には、どうも話にくいようで……」
花織が髪を耳に掛け、申し訳なさそうに言う。花織は春奈が一番相談しやすいだろうと感じた人物は実の兄の鬼道だった。逆に鬼道に話せなければそれだけ深刻な悩みだということになる。春奈が鬼道に話すにしろ、話さないにしろ彼に声を掛ければ間違いないだろうと踏んだのだ。
「わかった。知らせてくれてありがとう、花織」
「いいえ、練習の邪魔をしてしまってすみませんでした」
花織がそう笑って鬼道の前から立ち去ろうとすれば、待てと鬼道が花織の手を引く。静かに河川敷に風が吹き、鬼道のマントを、花織の髪を優しく揺らす。こうやって真面目に対面して話をするのは久しぶりのような気がした。何しろ、北海道を出発してから花織は座席を移動し、風丸の隣に掛けているから鬼道と話す機会も減ってしまったのだ。
「……花織」
鬼道が静かに花織の名を呼ぶ。そして少し寂しそうに笑って、花織の目を見据えた。
「最近のお前が楽しそうで何よりだ。……」
「……鬼道さん。……では戻りますね」
花織はもうそこにいられなかった。鬼道の気持ちが未だに自分を大切にしてくれていることが嫌でもわかったからだ。今のうのうと風丸とよりを戻し、よろしくやっている花織に対しても彼は変わらず、以前から持ち続けている想いを持ち続けているようだった。